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Story Teller  作者: 冬耶心
第二幕
21/34

Go Foward

「ヤマトとライトって、どうなるんだろうね。」


「さてねぇ~。ま、これから見守ってやんなきゃなんないんじゃないの?」


「じゃ、クレインとイリスは?」


「こっちはもっと…俺らが何とかしなきゃいけないかもな。」


「そうだよねぇ~…。」




Go Forward




ライトがどうなるのか、気になってはいたがもっと気になることがあった。

それが、ヤマトとライトそしてクレインとイリスの4人の事だった。

相関図を作るとなると、至極複雑になりそうだ。


休めと言われても、ここ1週間休んできた為、疲労などない。

どうやって過ごすか考えていたところ、リーナを引き留めたのはリンだった。

「ちょっとお茶でもどうだい?」

なんてそんな誘い文句で誘われるとは思わなかったリーナは思わず笑った。

そして議題はその話だった。


「ところでリンはいつも気づけばナンパしてるじゃん?」

「いや~他に俺の印象ないの?」

「…。」


リーナの冷たい目線を受けて、リンは苦笑いした。


「イリスとライトに興味ないの?」

「それでいくと俺は、そこに名前が上がっていない君に気があるのか答えればいいのかい?」

「僕は興味ないね。」


あっさりと断られてリンは項垂れる仕草をする。

どれも演技みたいだな、とリーナは観察する。


「イリスは言わずもがな美人だし、ライトもしっかり見ると、やっぱり女らしい美しさがあるな。」

「うんうん。」

「だけどどちらも問題がある。」

「というと?」

「周りのガードが固い。」


確かに、といってリーナは笑った。

ライトに手を出せば、ヤマトもクレインもイリスも黙っていないし、

イリスに手を出せば、ライトとクレインが黙っていないだろう。特に後者は危険だ。


「じゃぁ、リンの旅の目的って何?」

「ん~俺がただ、英雄の息子だってだけじゃないか?」

「それだけで命掛けられるの?」


考えるような仕草をリンは見せて、テーブルに頬杖をついて流し目を向ける。


「さぁ、どうかな?」

「…食えないね、リン。」

「それは君もだろう?リーナ。」


「僕は…僕の信念に従ってるだけだよ。」


「ふぅん、そっか。ま、リーナは里も背負ってっしな。」


「リンだって、背負うものはあるでしょ?」


「さーね、俺は結構気楽に生きてっから。」


それだけ聞くと、リーナは席を立ち上がった。


「ライトにはきっと、闇を浄化する力がある。それはきっと、僕らの中に潜む闇も同じだ。だから、何かしら抱えた僕らが、ライトの周りに集まった。」

「それが君の、仮説かい?」

「そう、仮説。だからきっと、リンにも何かあるんじゃないかと思っただけだよ。」


リンは、探偵みたいだな、と笑った。

そのままリーナは席を離れて、一人与えられた部屋へ向かった。これ以上、今日やること等思い付かなかったという。


「…俺の目的、ねぇ。」


リンは、自分自身が右手の薬指に着けている守りの指輪を見た。

随分古ぼけてきた。


「奇跡…あんのかな。」


リンはそれでも思う。

ライトと共にいれば、その奇跡さえ起きてしまいそうな気がすると。




各々の1日を過ごして、朝ライトは目を覚ました。



一晩中側で見守っていたヤマトは、その変化に気がついた。

魔力のポッドは既に空で、ライト自身も魔力は全て吸収しきっているように見える。

髪は依然赤いままだ。

それでいて、ポッドの外にまで力が溢れているように感じる。


「…上手く、行っているのか?」

「恐らくな。バイタルに変化はないし、魔力も吸収したようだ。…まさか本当に上手くいくとはな。こいつの魔力やら力の源は底が測れない。そういう意味では、セインとよく似ている。」


ピシッ


嫌な音だ。

ポッドのガラスにヒビが入った。


ヒビはみるみるうちに広がり、砕け散った。

中を満たしていた液体が流れ出て、当然のようにライトも降ってきた。


「シオン!」


ゆっくり

スローモーションのように

ポッドから降ってきたライトをヤマトは抱き抱えた。


ヤマトのなかに焦りはあったが、見れば心肺は動いている。

ポッドから溢れ出ていた力も、今は安定している。


「…シオン?」

「だい…じょうぶ、だよ、レイ。」


ゆっくりと目を開け、ヤマトに小さく笑顔を向けたライト。

ヤマトは優しく地面に足をつけさせ、ゆっくりと立たせた。



「力はどうだ。」

「…いつも通りにしています。」

「ふむ…安定しているな。魔力の感じはどうだ?」

「いまいち…実感がありません。」



「ライト!」


イリスが扉を開けて入ってきた。他の皆もそれに続く。


「身体は…平気なのか?」

「大丈夫だよ、クレイン。…心配掛けたな。」

「ったく…ほんとだよ。心配掛けやがって。」


ライトとクレインは示し合わせた訳ではないが、向かい合ってお互いの拳を合わせた。


「髪はそのままなの?」


リーナはライトの赤い髪を見て尋ねた。


「元々は魔力を抜いたから俺たちのような見た目だったが、魔力を戻した事で正真正銘戦闘種族と人間のハーフということになる。赤髪は元々こいつの色で、瞳だけは俺たちと同じ赤のままってことになったんだろう。」


アカギが説明する。


「あれ、ライトの元の瞳の色って…?」

「蒼だ。」


ヤマトが答えると、尋ねたイリスは少しむくれた表情をする。

そんな様子を見てライトはイリスの前にたって尋ねた。


「…変かな?」

「ううん、とっても素敵だよ。でも、青色も見てみたかったな。」


髪を下ろしているのに、何故かイリスの隣にいるとライトはよりいっそう男らしく見える。



「アカギ博士。至急です。」



和やかな空気を壊すように飛び込んできた淡々とした研究者の声。

アカギはその研究者からの話を聞いて口の端をつり上げた。


「廃墟となったセリアに、魔物の軍勢が居るらしい。特に操る人影はなさそうだが、丁度よかった。

試させてもらうぞ、セインの子。その力を。魔法の力は…お前が教えてやれ。」


アカギはヤマトに目で合図し、ヤマトは頷く。

一行は武器を持って地下から地上へと繰り出した。


「わー…これはまた大軍勢だねぇ。」

「少し…大変そうだね。」


一番最初に地上に飛び出し、状況を報告するのはリーナ。

緊張した面持ちで魔法の準備をするのはシャル。

目の前にいたのは魔物の軍勢。軽く100匹はいるだろうか。

恐らく魔王の指示でここに集結したのだろうが、ジークの姿は見受けられない。


「シオンには大魔法を使わせる。…それまで少しの間持ちこたえて欲しい。」

「ちょ、ちょっと待ってくれレイ。そんな急に…」

「大丈夫だ、お前にできないことはない。」


「そういうことなら、任せたぜ、ライト。」


クレインは銃でなく剣を抜いて軍勢のなかに切りかかっていった。気の効くクレインらしい、前衛がリーナ一人にならないように配慮したのだ。



「お前の一番得意とする魔法は、炎系統だ。」

「…どう、すればいい?」

「まずはイメージだな。古より来る爆発的な炎のイメージ。」


魔法を使うのは、気持ちのなかでは初めてだった。

だが、ヤマトの言葉の意味はすんなりとライトのなかに溶け込んでいく。

瞳を閉じて意識を集中させる。


「石には干渉するな。…それは魔力を増大させるかわりに身体的負担を掛ける。いざってときの奥の手にしておけ。」


身体の中に渦巻く魔力が、右手一ヶ所に集まってくるのが分かる。

ゆっくりと右手を前に伸ばして、手のひらを地面にたいして平行にする。


「全員一旦退け!!!!!」


ヤマトの声で、戦っていた一行は一度後退する。


「燃え尽きろ!


エンシェント・バースト!!」


上空から突き刺さる火柱は、あっという間に周囲の魔物を飲み込んで焼却する。

巻き込まれれば、塵すら残らないほどの火力で、一瞬にして敵を消し去った。


「…流石、上出来だな。」


ライトは自分の掌と、目の前の光景を交互に見比べて信じられないといった顔をしていた。

無理もないだろう、その大魔法は敵を焼きつくし、先ほどまで数え切れないほど居た魔物たちを一瞬で消し去ったのだから。


「これが…俺の。」

「想像以上の力だな。」


アカギが今までにない驚いた表情をしている。


「この魔力は…セインすらも凌駕する、か。」

「親父、やっぱりアレしかない。」


感心するアカギに対して、神妙な顔でヤマトは言う。

ライトは二人に不思議そうな表情を向け、皆は武器を納めて3人の元へ集まった。


「皆に聞いて欲しいことがある。」


ヤマトはそう言うと、自身のダークマターを取り出した。

皆がヤマトに注目していた。


「タナトス、久し振りに姿を現せ。」


ヤマトがそう呼び掛けると、石から眩い光と共に、ヒトのようなものが現れた。

ヒトと言うには足は地面に着いていないし、背中には漆黒の片翼が生えた女性のようなヒト。

背丈はリーナ位で小柄だった。


≪マスター、お久し振りです≫


「…喋った。」


呟いたのはクレインだった。


「ダークマターに宿る精霊、タナトス。

石を使う者の魔力を注ぐことで、石にも意思を持たせることが出来ると解った。」


アカギが説明を加える。


「セインの子が魔力を扱えるようになった今、お前達全員の精霊化が可能となった。」

「精霊になるということで、どういう効果があるんですか?」


イリスが尋ねると、ライトがふと言葉を紡いだ。


「…石の力を自由に使える…のか?」


ヤマトが頷き、タナトスが皆の前で向かい合って言った。


≪精霊として意思を持たせていただければ、貴方達が私たちの力を使っても生命力を削ることはありません

貴方達に無限大の力をお貸しします。現にラグナガンの英雄に力を貸し、貴方は力の暴走を私の力で抑えていました≫


「ということは、全ての石を精霊化すれば、その力をコントロールできるってことか?

…ラグナガンに力を集約して放っても、ライトは死なずに済むって…ことか?」

「その予定だ。」


アカギが答えると、クレインはガッツポーズをした。見ればイリスも顔を明るくしている。


≪ただ、精霊化は簡単なことではありません。それぞれのマスターの持つ魔力、適正、精神力を試し、

そして、それぞれの石に特化した巨大な魔力がある場所でしか、それは叶いません≫


「それぞれの石に特化って…例えば、ライトなら炎、クレインなら大地、イリスなら癒し、俺なら水…ってそういうこと?」


≪そうです≫


「そんな所どこにあるのさ?」


リーナも様々な所に行ったことがあるが、そんな話は聞いたことがなかった。巨大な魔力がある場所とはいったいどんな場所だというのか。

しかしこの問に明確に答えが出せるものは誰一人いなかった。

精霊であるタナトスですらそうだ。


「心当たりがあるとすれば、雪の大国ハイデルブルク。あそこは一年中雪に覆われているし、大地の力も強いと思われる。

文献も多数あるだろうし、そこにいってみるといい。…国王に謁見を要求すれば、それにも応えてくれるだろう。

たまには王族としての地位も利用しろ。それでも困ったら、セインの名を使え。」


アカギは目も合わせずに言った。

苦い思い出でもあるのだろうか、いつも何事も言い切るアカギとは少し違った。


「マスターの適正ってのは?」


≪マスターがマスター足るに相応しいかどうか、それぞれの精霊が判断します。

不適正であれば、力などお貸しできません。≫


クレインの疑問にタナトスは淡々と答える。

このときは説明を受けてもいまいち実感がないというのが事実だった。


「とりあえず、目的地は決まった。…ハイデルブルクに行こう。」


全員がライトを見て力強く頷いた。

ライトを殺さずに済む未来が皆を明るくしたのだろう。




タナトスはいつしか石に戻っていた。

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