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Story Teller  作者: 冬耶心
第二幕
18/34

Thayne

「魔族より恐ろしいもの!この世界に、いるの!?」


今の今まで迷信だと信じられてきた、戦闘種族の話。

闇に生きる種族と言われているのに、まさかそれが英雄だとは誰も信じられない。


「いるよ。だから…悪いことはしたらいけないんだよ。」


老人は優しく子供たちに教える。


「魔物や魔族と違って、彼らは…悪いことが無ければ襲ってきたりはしないからね。」

「おじいさんは、会った事があるの?」


「…あるよ。」




Thayne



力の爆発が収まり、ライトはヤマトの腕の中で気を失っている。

ヤマトはそんなライトを、片膝をついて支えていた。


「…ライト!!!」


半泣きの状態で走り寄り、抱きついたのはイリス。治癒魔法を使おうとするが、ヤマトがそれを制した。


「今は完全に力を抜いてやった方がいい。…魔力濃度の高い魔法は、今は掛けないでやってくれ。」

「…何でも、知ってるのね。」

「ずっと見てきた、それに俺は自分自身の特性を解っているから、それは…こいつにも言えることだというだけだ。」


イリスは寂しそうな表情を浮かべた。

ライトの事が大好きだったのに、何にも解ってあげられていなかった。


あの時、ライトはヤマトに何と言ったのだろう?

ヤマトはライトを一体どう思っているのだろう?

そしてライトは…ヤマトをどう見ているのだろう?


ヤマトはライトを、所謂お姫様抱っこで抱えあげ、別室へと連れていった。

イリスはそのあとを追う。


「…英雄じゃない僕にも解った。ライトの力は…凄すぎる、って。」


リーナは隠密活動に秀でていることから、何が危険で、何が安全かを本能的に察知できる。そんな彼女にとっては、ライトはまさしく危険な部類である。よく考えれば、喧嘩を売ってはいけない相手だったのだ。


「ライトさん…大丈夫でしょうか…?」


シャルの心配に答えられる仲間はいなかった。それに答えたのは、アカギだ。


「力を全て出しきって気絶してるだけだ。問題はない。」

「身体はそうかも知れないが、俺達が心配してんのは、中身の方だ。」

「昔から、弱いな。セインの子とは思えない。…いや、優しすぎるのか。」


遠い昔を思うアカギの目。懐かしいものを見るような目。

何かにたいして後悔しているような目。


「…なぁ、アカギさん。」

「なんだ。クレイン。」

「教えてくれないか、セインさんとは何者だったのか…それと」

「あのガキ共の過去、か?」


ふぅ、と一つアカギはため息を付き、皆を研究室の休憩所に促した。

円形のテーブルに、クレイン、シャル、リーナ、リンそしてアカギが座る。


「俺とセインは、幼馴染みだ。

…セインは底抜けに明るい奴で、俺とは真逆のタイプだが…なぜか気は合った。

俺たちは世界を背負う運命であることもずっと知っていた。そしていずれセインが死ぬことも。

その死の運命から助けたくて、俺は研究に没頭した。」




一方ライトは程なくして目を覚ましていた。

イリスが声を掛けるが、いつものような返事は返ってこない。その目に何を映しているのか解らない。


「ヤ、ヤマト!…あなたは知ってるんでしょう?教えて、あなたと、ライトと…セインさんのこと!」


イリスの場を取り繕うその言葉に、ヤマトはイリスとライトを見た。

ライトの目も、過去を知りたそうな目をしている。


「…親父の目的は、セインさんを生かすことだった。…世界に殺させない事が、最終目標だった。」





「アカギ!」


研究者の街がある洞窟の上に聳える山、その中腹の少し開けた所からは緑の美しい平原を見渡すことができる。

セインとアカギはいつもその場所で遊んでいた。もう、出会ってから20数年程の時が経っていた。


「セイン、行くのか。」

「アカギはどうする?お前は強いからさ、途中合流でもいいと思うんだよなぁ。」


出会った頃は幼い子供だったのに、今はすでに自分達に子供がいた。


「取り敢えずレイティア方面に向かおうと思ってる。アカギの親父さんの話が正しければ、二人はそっちの方にいる。」

「世界を救う…それでお前はどうする?」

「死ぬんじゃねぇかな。それが俺の…俺たち家族の運命だから。」


アカギはセインの言葉を聞いて、胸ぐらを掴んだ。


「死なせない為に、俺は…!!」

「知ってる。だけど、間に合わないことも解ってんだ。…だからさ、俺の事はいい。

ライトを、世界を救う使命を背負った娘を、助けてほしい。」


ライト・シオン・カーウェイ。

死の螺旋にとらわれる一族に生まれた、未だかつてない娘。

セインの親バカぶりは嫌と言うほどみてきた。

セインは自身のミドルネームを与え、考え抜いた末シオンと言う名前もつけた。

その名を与えて数日は、毎日のように自慢されたものだ。


「その研究をしてる間に、俺は仲間を集めてくる。その間に恐らくカルヴァスはどこかで復活する。」


石とラグナガンに選ばれたセイン。

だが魔王カルヴァスの復活はまだだった。予測ではあと1、2年といったところだ。

セインは掌の上で真紅のガーネットを弄ぶ。

その赤は、セインの髪と同じ色をしている。燃え盛る情熱、正義の赤。


「死ぬと解っていて、なぜそこまでいつも通りでいられる?」


アカギの方が動揺していた。

幼馴染みで悪友で親友のセインが死ぬことが、何よりも耐えがたかった。


「死ぬって解ってっから。無駄にしたくない。俺は…楽しく生きたい。

それに…あいつとライトが生きる未来を守るんだ。辛いとは思わない。

…ごめんな、アカギ。

お前の事は親友だと思ってる。

だから頼みたい。…ライトの未来を。

あの子が生きる、明るい…未来を。」



それからセインは旅に出て、アカギは一層研究へ励んだ。





「シオン!」

「レイ、おはよう。」


二人はいつもの丘で会っていた。

物心ついたときから父親に紹介された二人は、二人だけの世界に居た。


シオンの父親は既に旅に出ており

レイの父親は研究と旅であまり会うことはなかった。


「この間教えた魔法は出来るようになった?」

「俺には魔法の才能は無いみたいだ。初級魔法でいっぱいいっぱいだよ。」


二人が会って決まってやることは、魔法の訓練と剣の特訓。

シオンには底抜けの魔力があり、レイにはずば抜けた戦いのセンスがあった。


「俺たちが一緒に旅したら、怖いもの無しだな。」

「外は怖いよ…。」

「大丈夫、俺がシオンの事は守るから。」


レイには幼い頃から言われ続けてきた事があった。

それが、「セインの子を守れ」だ。

幼くて、弱くて、泣き虫なシオンを守る、それがレイにとっての命題。


「…ありがとう、レイ。レイがずっと一緒に居てくれたら、怖くないよ。」




2年後にはカルヴァスの復活と、セリアへの襲撃が行われる。


道中は研究と旅を平行していたアカギだったが、セリア襲撃の際は研究していた。


「アカギ!!セインからの頼みだ、『お前に任せる』とな!」


業火に包まれるセリアの奥までライトを抱えてきたのはガイルだった。

隠密の術か、ライトを連れてなんとか奥までたどり着けたらしい。

この時のライトは8歳の女の子。巨体のガイルに抱えられ、泣いていた。

周りは火の海、母親の姿は見えないところから、助けられなかったのだろう。


「ガイル!」


アカギがライトを受け取ったとき、ガイルは背後からの魔物の襲撃を受けた。

アカギとライトを庇ったのだ。


「だい…じょうぶだ。セインの未来を…頼む。」


アカギはその言葉を背中で受け取って、地下へと潜っていった。

魔物すら恐れるここへは襲撃もない。



「おじさん…どうして…皆、死んじゃった…。」


アカギは答えない。

グズグズ泣いているこの子が許せなかったのかもしれない。

セインは強かった。泣くことなど有り得なかった。

この子の魔力さえあれば、先程の業火すら消し去れたのではないか?


弱い。


弱すぎる。


この子に本当に世界が救えるのか。


セインの言う、未来になるのか。


「父さん!シオン!」


アカギが研究所の前にたどり着いたとき、迎えたのはヤマトだった。


「レイ!」


泣きながらライトはヤマトに近寄った。8歳ながらヤマトもライトを抱き締めている。

そんなヤマトの目はアカギを睨み付ける。


ませガキだな、とアカギはため息をついた。



「ライト。

強くなりたいか?

父親のように、世界を救いたいか?」


「世界を救うのは…お父さんじゃないの…?」


「セインは死ぬ。それがお前たち家族の宿命だ。」


「え…。」


「お前は強く、逞しく生き、そして世界に殺されない。それが、セインの望みだ。

俺にはそれを叶える義務がある。

来い。」


アカギはヤマトからライトを引き剥がし、手を引いてイニティウムの奥へと進む。


「父さん!!シオンをどうする気だ!!」


「黙ってろクソガキ。お前は黙ってこいつを守れ。」


何もわからないまま、ライトは巨大なポッドの中に入れられ、実験は始まった。

まずは巨大な魔力を抜き出す作業。これだけで1ヶ月が掛かった。

そして戦闘種族としての力を投入する作業。

これも1ヶ月以上掛かっていた。


毎日ヤマトはポッド越しにライトを見ていた。

研鑽を積み、いつか目覚めた彼女を守るために月日を費やした。


全てが順調に進んでいたあるとき、事態が動く。


「アカギ博士!被検体Aが…!」


ポッドで眠る少女が突然苦しみ始めた。

アカギが急いで数値を確認すると、魔力の中に植え付けていた戦闘種族としての力がオーバーフローしていたのだ。


「あれだけの魔力を持ってしても…足りないと言うのか…!!」


慌ててあらゆる数値を算出する。このままではこの子が死んでしまう。


殺すわけにはいかない。


セインの希望を、壊すわけにはいかない。


あいつは俺に託した。己の大事な全てを。


「…あれしかない、か。」

「いいのですか、博士。あれは、力の成長を遅くしてしまいます。」

「10年だ。次に奴が現れるまで10年はある。それだけあれば…!」


残された最後の手段が、彼女が生きてきた8年分の記憶を植え替えることだった。

子供は新しいことを毎日沢山発見し、経験する。8年分の記憶であれば、魔力にたいして十分な代わりになる。

ただし、記憶がなければ、これから育てるべき思いの力が育ちづらくなる。


「父さん!シオンはどうなるんだ!!」


突然飛び込んできた声。いつから息子が其処に居たのか記憶にない。

彼女が目覚めたとき、息子とは引きはなそうと決めた。彼女は守られるだけではダメだ。強く誰かを守りたいと思うようにならなければ。


「邪魔をするな。」


アカギはヤマトを拳で気絶させ、ライトから記憶を奪った。


彼女が目覚めたときには、10歳になっていた。

セインと同じ真紅の髪は黒く染まり、

青空のように綺麗な青い瞳は、真紅に染まった。


実験は成功だった。


彼女は一切の魔法を使えなくなり、記憶と共に感情も失った。


丁度そのとき世界も救われ、セインも死んだ。




「…強く育ててくれ。セインの、希望だ。」


アカギはライトをカリヤとアイリスに引き渡す。

シオンというミドルネームは、里親であることを強く意識付けるために、カリヤ達が付けたことにした。


ヤマトには、ライトが強くならなければ死ぬ運命であること、これから強くなるライトに負けるわけにはいかないだろう、と言い聞かせ、引き続き研鑽を積ませた。


「えぇ、任せて。アカギくん。」


暗い眼をしたセインの子。とてもセインの子とは思えなかったそうだ。

だが目はとてもセインにそっくりであった。


ヤマトは気付いた頃には、一族の誰よりも強い戦士になっていた。




「ここから先は、お前たちが体験したものが全てだ。」


アカギは淡々と語り、淡々と終え席を立った。


「…もう、頭が付いていかないよ…。」

「僕もだよ…リーナ。」

「壮絶な経験を積んでんな、騎士さんは。」


クレインだけが何も答えず、ただただその場に固まっていた。




「…これより先は、貴女の方が詳しいだろう。」


ヤマトは時おり複雑な感情を入れ混ぜつつ、語り終えイリスを見た。

話を聞き終えると、ライトは何も言わず立ち上がり、部屋を出ていく。


「ライト!」


イリスは追おうとするが、それよりも気になることがあった。


「…ねぇ、ヤマト。貴方にとってライトは何?」


「希望の光だ。」


即答したヤマトの目は、至極優しい目をしていた。




「ライト・シオン・カーウェイ。」


イニティウムを一人で歩いていたライトを引き留めたのはアカギ。

父親の、親友。


「覚悟は決まったか。」


ライトは答えない。

まるで言葉を失ったかのように、ただただアカギを見つめた。


恨む訳ではない。


この人はこの人で、必死だったのだ。


父を守るために。



「答えは1週間後に聞く。…それまでよく考えろ。

だが、お前がこれを受け入れない限り、世界は救えない。

セインが命がけで守った世界を、簡単に壊してくれるなよ。」


ライトはそのままアカギに背を向け、外へと向かった。



壊すものか。


守ると決めたのだ。


だがここに来て、怖くなったというのだろうか?


力を得る代わりに、また何かを

失ってしまうのだろうか?



気付けば無意識に、思い出話に出てきていた丘に来て座り込んでいた。

目の前に広がる緑の平原、記憶の片隅に訴えかけてくる何かがあるが、何も解らない。

セリアに始めてきたとき、突発的にここが故郷であると思い出したのは、本当に奇跡のような物だったのか。


例え魔力を元に戻したとしても、記憶は元に戻らない。

魔力のように「抜いた」のではなく、「消した」のだから。


「レイとの、記憶…か。」


全てを忘れていた自分を影ながら守ってくれていた存在。

彼には感謝してもしきれない。

だが、記憶がなければ実感もない。


”そんな過去が、本当に自分にあったのだろうか?”


シオンという名も、国王と女王から頂いた物だと思っていたのに、父親であるセインが悩んだ末に付けた名前だといっていた。

記憶を失ったタイミングから、どの記憶が正しいのかなど自分には解らない。


「信じられないか。突拍子もない話を。」

「…信じたい。だけど、信じられない。」


レイはいつも突然現れる。

テレポートが使えるのだ、当たり前だ。


「俺は自分が不甲斐ない。あの時易々と親父の実験にお前を差し出してしまったこと。」

「…申し訳ないのはこっちさ。レイが大事にしてくれている思い出を、私は少しも知らない。」

「”俺”のままでいいさ。今まで通り居ればいい。もう、昔のシオンではない。」


レイは笑ったが、なぜだかシオンには少し寂しさを感じさせた。


「例え話が信じられなくても、一つだけ信じて欲しいことがある。」

「…なんだ?」

「俺は…お前をずっと待っていた。

どんな風に変わったのだろう、俺よりも強くなっただろうか、泣いてないだろうか。

毎日そんなことを考えていた。」


見上げたレイの目は真剣そのもので、シオンは自ずと立ち上がって向かい合う。


「…強く、なったな。

世界の理想とする騎士、皆の憧れ。レイティア王国で脚光を浴びる姿は、昔からは想像もできなかった。

騎士となったお前と初めて会ったとき、懐かしいようで少し寂しい気持ちがした。俺の知っているシオンは居ない、とな。」

「…だけど俺は、レイに助けられてばかりだった。」

「そしてお前は恋をしていた。…彼女に。」

「だけど俺は女だから、可笑しいと思ってたさ。」


「だが、シオン。俺は…」

「レイ…!?」


レイは優しくシオンを抱き締める。


「どんなに変わろうと、昔から俺は変わらない。」


そうして耳元で囁いた。



「愛している。」


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