少女はモノクロ世界に迷い込み、不思議な案内人と出会う
少女ー影浦 歩美はとりあえず自分に起きた状況を把握するため、冷静に努めた。
(さっきまで私は確かに自分の部屋で寝ていた。けど、起きたらこんな変なところにいた...でいいんだよね?)
あたりを見渡せば白と黒。床は白のタイルが張られており、天井は黒で覆われている。真ん中には白いテーブルと黒いイスが置いてあり、空間的にあまり広いとは言えなかった。
(だれかの部屋...なのかな?)
部屋をぐるりと回ってみた。こういう場面に出くわした時、読んでいた小説の主人公は隠し扉を探していたのを歩美はハッと思い出した。
(そうだよ!ここには隠し扉があるはずだ!!)
良い作戦(?)とは言えないが、なにもしないよりはいいだろうと歩美がいろいろ探っていたそのときー、
『おもしろい人ですね』
どこからか声がした...気がした。低く深い男の声。不信に思った歩美は声をあげた。
「だれっ、どこにいるの!?」
『あなたのすぐ近くにいますよ。すぐそばにね』
歩美は部屋を見渡した。そこで一つに注目する。
白いテーブルと黒いイス...
しかし誰もいない...ように見えた。
さっきまでなかったティーセットがひとりでに動いていた。思わず歩美は固まった。だらしなく口を開けながら。
『少々からかいすぎましたね』
クスっと笑う声が聞こえてきたと思うと、男は姿を表した。黒いスーツになにやらカラフルな恐竜マークのバッジをつけた黒いシルクハット。片手にティーカップを持ちながら歩美に向かって優雅に微笑んだ。顔面がなかなか整っているのでとても様になっていた。
その姿を見た歩美はようやく口を動かした。
「あんたが私に話しかけてた奴?」
「ええ、そして君の案内人でもある」
「は....はい?」
「ま、とりあえずそちらにお座りになってはいかがですか?」
意味が分からないという顔をした歩美を男は向かいの席へと促した。仕方がなく席に座ると、ふたたび口を動かした。
「で、まずあなたの名前から教えてよ。そのあとに詳しい話は聞くから」
「いいですよ。それがあなたとっていいのなら」
男はシルクハットを机に置いた。
「私はジュウイチ。どうぞよろしくお願いします」
「ジュウイチね...覚えた!私は...」