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第2話 マインド・コネクター

−助けて…−




暗闇の中、脳裏にそんな声が響いた。




−私、死にたくないよ…−




儀也は、すぐに声の主が分かった。




「な、苗子…?」




儀也が声をかけるが、返事がない。


代わりに、別の女の声が聞こえる。




−無駄だよ、こんな所で助けを待っても−




別の女の声が、冷たく言い放つ。


その声に反応して、苗子の怯えたような悲鳴が上がる。




−大丈夫、心配しなくてもすぐに殺さないわ。

ちょっと玩具になってもらうだけだからね−


−い…嫌…−


−あぁ、可愛すぎる!

もっと虐めたくなる!!

もっと痛み付けたくなるッ!!!

キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!−


−誰か…助けてよ

お父さん…お母さん…儀也ぁ…−




それから、二人の声は聞こえなくなり、辺りは不気味な静けさに包まれる。



「…ど、どうなったんだ?」




・・・




しかし、誰も答えない。

ただ沈黙と暗闇が存在しているだけだ。



「な、苗子!

何処にいるんだよ!?

返事してよ!!」




・・・




儀也は、叫んだ。

返事が返ってくる事を信じて…



「苗子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」




・・・




暗闇の中、儀也の声は虚しく響き渡った。







「ん…あれ…?」



気が付くと、儀也は何処かのソファーで寝ていた。


確か気を失ったのはグランドだったはずだが、明らかに室内だ。



「此処は…?

な、苗子は…!?」



儀也は勢い良く起き上がろとしたが、腹筋に激痛が走った。



「うっ…!」



どうやら、腹筋を攣ってしまったらしい。


儀也は、その場で動けなくなった。



「ぐおおおおおお…

まさか、こんな所で腹筋が…」



儀也が間抜けな声を出していると、扉の開く音がした。


音がした方に視線を向けると、見覚えがある女子生徒が立っていた。



「あら、意識が戻ったのね…」


「…!

か、川村先輩!?」



儀也に名前を呼ばれて、ひよりはちょっと驚いた顔をした。



「名前…覚えててくれたのね。

…嬉しいわ。」


「いえ、そんな事は…」


「それより…仰向けになった方が良いんじゃないかしら?

無理して体を起こすことはしなくていいわ…」


「あ、そうします…」



ひよりに言われて、儀也は再び仰向けの姿勢に戻った。


儀也が横になると、ひよりはソファーの近くに椅子を置いて座った。



「こんな時になんだけど…

ようこそ、オカルト研究会へ…」


「えっ、ここが…?

あの時の部室は…」



ここがオカルト研究会の部室だとしたら、化け物が人間を惨殺していたあの教室はなんだったのだろうか?


地図でも確認したし、場所は間違っていなかったはずだが…



「貴方は…並列世界という異次元に迷い込んでいたの。

これは推測だけど…

貴方が行ったのは、別次元の部室だったと思うの…」


「並列世界…」



儀也は、最近その言葉を聞いた気がした。


そう、確かゼータが言っていた。



「…話してくれませんか?

並列世界の事を…」


「…!」



次の瞬間には、ひよりの顔付きが変っていた。


なんというか、怯えたような表情だった。



「貴方…並列世界…って?」


「いえ、並列世界というのは聞いた事があるだけで…

その…いつもと違う(・・・・・・)学校で、ちょっと助けてもらった時に聞いたぐらいで…」


「…!

…なるほど、分かったわ。

それに…貴方からも話が聞きたいわ。

長くなるかも知れないけれど…時間とか大丈夫?」


「えっ、はい。

大丈夫ですが…」


「ありがとう…

とりあえず…貴方の名前を聞いておきたいわ。

自己紹介…してくれないかしら?」


「はっ、はい!

僕は、一年特設クラスの…」



それから自己紹介を終えた儀也は、自分が経験した事全てを話し始めた。







「ヘブシッ…!!

あ゛ー、風邪か?」



ゼータは、鼻を啜りながら言った。


彼は今、荒れ果てた逆茂木高校によく似た校舎の屋上にある小さなベンチに座っている。



「管理人ハ、風邪ナンテ引カナイ。

風邪ハ、人間特有の病」



ゼータの座っているベンチから少し離れた場所で、腕組みをしながら壁に寄り掛かっている白い肌で、白髪の女の子がそう答えた。


その女の子は、ゼータと同じように黒いコートを羽織っていて、年はゼータよりも少し年下のような感じだ。


そして、仏頂面な表情の中で、赤いが爛々と光っている。



「アスタリスクさぁ…

俺だって、元人間だったわけだし…」


「私ダッテソウダケド」


「…そうだったな」


「…ソウダッタ」


「何かごめんなさい…」


「大丈夫、大シタ気ニシテナイ」



ゼータは少し申し訳ない気になり、敬語になっていた。


アスタリスクと呼ばれる少女は、相変わらず仏頂面だ。


いつもの事なので、ゼータは気にしない。



「お前、一年経っても変わらないな」


「ソンナ事ハ無イ。

貴方ハ私ヲ変エタ…

感謝仕切レナイグライ」


「…そうか?

俺、何かしたか?」


「話ス機会増エテ、滑舌ガ良クナッタ」


「あ、うん…」



ゼータは、曖昧に返事をする。


正直、その機械的な声であるのは変わってない気がするのだが…



「それより、アスタリスク。

最近の化け物達の事なんだが、最近(・・)の化け物はおかしくないか?」


「私モ思ウ。

特にカットラー、サターン…

ハウンドハ稀ニ見カケルケド、確実ニ化ケ物出現率…主ニダミー系ノ化ケ物ガ、格段ニ低クナッテル」



アスタリスクの言うダミー系の化け物とは、木でできたマネキンの様な容姿をしている化け物の事だ。


ちょうど、儀也を襲った化け物達もダミー系に近い。



「ソシテ、最近劇的ニ増加シテイル化ケ物ガ居ル。

恐ラク、カットラーの変異種」


「それがあいつらか…」



ゼータは少し離れた場所を見て、目をしかめる。



ゼータが見詰める先には、身体の至る所に継ぎ接ぎの様な模様が付いた化け物がいた。


ふらふらと荒れ果てた車道を悠々と歩いている。



「ソウ、貴方ガ通ッテイタ(・・・・・・・・)高校ニ出現シタ化ケ物。

私ノ知ル化ケ物ノ中デ、最モ優レタ化ケ物…

ダミーナンテ比ニナラナイ、新種の化ケ物・マリオネット」


「マリオネット…操り人形か」



嫌な響きだと、ゼータは内心思った。


だがそれ以上に、相応しい名前であると思った。


操られるままに殺戮を繰り返す狂気の人形…


まさに、マリオネットという名が相応しい。


さらに、アスタリスクは話を続ける。



「サラニ、アノ化ケ物達ニハ意思ノ様ナモノガアルミタイ」


「…意思?

そんな馬鹿な、あいつらは人間の負の感情が生み出した産物だぞ?

自我を持っているはずがないだろう」


「確カニ、自我ハ無イ。

デモ、アノ化ケ物ハ今マデノ化ケ物ヨリモ、遥カニ無駄ナ行動ガ明ラカニ減ッテイル。

アル人物(・・・・)ガ言ウニハ、アノ化ケ物達ハ何者カガ操ッテイル(・・・・・・・・・)ラシイ」


「はぁ、化け物を操る!?

そんな事できるのか!?」



アスタリスクは、首を傾げるようにしてゼータを見た。


…最近、アスタリスクはこのようにゼータを見るのだ。


どんな意図があるのか、ゼータには理解出来ない。



「私達ミタイナ管理人デモ、元々居ル(・・・・)化ケ物ヲ操ルナンテ能力ヲ使エル奴ナンテ聞イタ事モナイ。

ダケド、意図的(・・・)ニ化ケ物ヲ作リ出セル奴ナラ、心当タリガアル。

彼女(・・)ナラ、化ケ物ヲ操レルカモ知レナイ」


「…!

誰なんだ、そいつは!?」


「アノ子…」



アスタリスクが指差した先は、この場所から少し離れた公園の様な場所だ。


その公園のジャングルジムの上で、マリオネット達に向かって微笑んでいるアスタリスクより少し幼い女の子が居た。


膝まで隠れる長くて白いロングコートを着込んでいて、それと対照的に黒いショートヘアが風になびいている。



管理人の黒ではなく、真っさらな白。


ただ、真っさらな白。




−不気味な白−




「なんだよ、あの子…」



ゼータは、手に冷や汗が滲むのを感じた。


間違いなく人間ではない。

だが、ゼータのような管理人とは違う…


一体、何者なのか?



それに答えるように、アスタリスクは口を開く。



「…アノ子ハ、狂者ト呼バレル存在。

私達ハ化ケ物ヲ喰ライ、狂者ハ人間ヲ喰ラウ…

私達管理人ヲ並列世界ノ陽トスルナラバ、狂者は並列世界ノ陰ノ存在」


「に、人間を…!?」


「ソウ、奴ラ喜々トシテ人間ヲ殺ス。

コレハ最近聞イタ話デ………ゼータ!?」



アスタリスクの話を最後まで聞かずに、ゼータは屋上の手摺りを飛び出し、地面に降りようとしていた。


人間(・・)からするば、立派な自殺行為だ。



「せいっ!」



ゼータの身体が地面に着く直前に、何処からか刃物出現し、ゼータの代わりに地面に突き刺さった。


そして、ゼータの重さで刃物がしなり、その反動を使い、ゼータは勢い良く跳んだ。


アスタリスクは、屋上から大声でゼータに呼び掛けた。



「待ッテ、ゼータ!

何処ニ行クツモリ!?」


「決まってるだろ、あの子と話をしに行くだけだよ!」


「ソンナノ無茶ナ!」


「無茶じゃない、無理するだけだ!!」



アスタリスクが反論している間にも、ゼータは公園に向かって先程の方法で近付いて行く。


ため息を付いたアスタリスクは、ゼータと同じように屋上から飛び降りた。



「アア、モウ…

ナンデ、余計心配ナコトヲスルノ?」



アスタリスクは、落下しながら何処からか槍を出現させ、校舎に槍を突き付けた。



ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!!



ボロボロな校舎が、音を立てて削れる。


槍と校舎の摩擦のエネルギーを使い、アスタリスクは落下のスピードを落としているのだ。



「ハァッ!」



アスタリスクは、空中で体制を整えると、地面に着地した。



「待ッテ、ゼータ!

無理シナイデ!」



アスタリスクはそう言うと、ゼータを追い掛けるように走って行った。







一方その頃、儀也は自分が体験した事すべてをひよりに話した。


儀也が話終えるまで、ひよりは一言も発しなかった。



ちなみに、ひよりは儀也と向かい合わせで座っている。



「なるほど…そういう事なのね。

最後は、グランドで気を失った…」


「はい、そんな感じですね。

単なる、僕の妄想かも知れませんが…」


「いいえ、現実よ…

それは、私()が保証するわ」


「現実ですか…」


「…いきなり信じろと言われても困るわよね。

とりあえず、コーヒーでも飲まない…?」


「あ、いただきます…」



椅子から立ち上がったひよりは、教室の端にあるコーヒーメーカーに向かって歩いて行った。


今気付いたが、部室の設備は中々充実している。


コーヒーメーカーの他に、冷蔵庫や電気ケトル、ボードゲーム、パソコンまである。



ただ、オカルト系のグッズは何一つ見当たらない。


もっと魔法陣とか、魔導書みたいな物があってもいいのではないか。



「此処…本当にオカルト研究会の部室なんですか?」


「そうよ。

…何かご不満かしら?」


「いや、オカルト研究会というぐらいですから…

もっとこう、悪魔を降臨させる魔法陣とか、呪われし禁断の魔導書があるかと…」



ひよりは、儀也にコーヒーカップを渡すと、苦笑いをした。



「…ごめんなさいね。

オカルト研究会は、魔法とかの分野に手を出してないの…」


「え?

そうなんですか…

じゃあ、どんな活動を?」


「オカルト研究会というのは、表向きの名前…

本来の活動は…並列世界の研究よ」


「並列世界の…研究?」


「…そうよ。

さっき話したように、並列世界は、私たちの世界と同じ性質を持っていて、狂暴な化け物が巣くう謎の別次元…いわば、パラレルワールドなの」


「それは聞きましたが…」


「えっ、ええ…

ちょっ、ちょっとした復習よ。

ゴホンゴホン…」



儀也は、手渡されたコーヒーを飲んだ。


甘い、もっと言うと甘すぎる。


いつも砂糖多めに入れる儀也でさえ、甘いと感じた。


一体、このコーヒーには何個の角砂糖が入っているのだろう?


それから、ひよりはわざとらしく咳ばらいをすると、話を再開した。



「それで、その並列世界はなんだけど…

一年前は、頻繁にこの世界に干渉(・・)してきたの」


干渉(・・)…って、何ですか?」


「現実世界の一部が、並列世界と一時的に(・・・・)入れ替わってしまう現象よ…

その間…化け物に人間が襲われたり、行方不明(・・・・)になってしまう現象が起こるの」


「…行方不明!?」



行方不明という言葉が、儀也の心に妖しく響く。


行方不明…激しく記憶に焼き付いたあの事件(・・・・)と同じ。



「川村先輩…

それって、まさか…」


「そう、滝川高校大量行方不明(・・・・)事件…

恐らく、これも並列世界の干渉のせいなの」


「………」



改めて考えると、本当に恐ろしい事だ。


あんな化け物がうろついている世界に、一瞬で閉じ込められてしまうなんて…


儀也は思わず、身震いをした。



「それで…

行方不明になった人は、どうなるんですか?」


「殆どの場合は、半永久的見付からないわ…

行方不明になって一週間が経ったとすると、生存率は…多く見積もって10%未満ね。

見付かった例は、無くは無いんだけど…」


「そんな…」



儀也は、自分の顔が青ざめたような気がした。


たった10%の生存率…

なんて絶望的な数字なのだろう。


苗子を助けるというの願望は、儚く消えてしまうのか。



そんな儀也の思考を遮るように、ひよりが言葉を発した。



「でも、今は違う…

あくまでもそれは、一年前の話だから」


「…え?」


「…最初に言ったでしょう?

行方不明になった人を助ける手伝いをしてあげるって…」



そしてその話を、ひよりとは別の声が続けた。



「一年前は、並列世界がこの世界に干渉し始めたばっかりだったから、具体的な対策が出来なかったの。

でも、今は違うの!

全世界からの有力な情報を元に、有効な対策が考案されたの!」


「…えっ、あ…はい…?」


「…ん?

あたしの話、分からないところでもあった?」


「いや、そういう事では無くて…」



話の内容はともかく、儀也は突如として現れたこの女子生徒の正体が気になった。


ネクタイがひよりと同じ色なので、三年生である事は分かる。



「ほら、忍…

いきなり登場するから、呉原君困ってるじゃない…」


「あっ、そっちか!

ごめんね、呉原君…だっけ?

あたし、副部長の三波忍っていうの。

これからよろしくね!」


「は、はぁ…」



乗っけから凄くインパクトの強い先輩だと、儀也は内心思った。


そして、シンプルな自己紹介なんだ。


せめて、趣味とか言えば良いのでは?



儀也がくだらない事を考えていると、ひよりは会話を再開した。



「まあ、忍の言った通り行方不明を救出する方法は、いくつか方法はあるの…教えるのは、部員限定だけど。

それを知りたいなら、入部届を出してくれると有り難いのだけれど…」


「あ、ちょっと待って下さい。

今、鞄から………あれ?」



儀也は入部届を鞄から出そうとしてから、自分の重大な失態に気付いてしまった。


入部届が、無い。


多分、並列世界で襲われた時に手放してしまったようだ。



「すいません…

多分、並列世界で入部届落としました…」


「「えっ…」」



ひよりと忍は、声を揃えて素っ頓狂な声を発した。


よほど、予想外だったのだろう。



「まっ…まあ、それなら仕方ないわね…

…とりあえず今日は帰っていいわ。

今のは、部活動体験入部としておくわ。

明日、必ず入部届を持って来て…

部活動は形だけとは言え、廃ヴになるだけは避けないといけないから…」


「わ、分かりました!

明日こそ、必ず!」



儀也は、ソファーの横に纏めてあった荷物を掴んだ。



「あと、これは私の連絡先よ…

何かあったら、私に連絡して…」


「…!

はい、ありがとうごさいます!」



儀也は手渡さた携帯の連絡先を丁寧に胸ポケットにしまうと、軽快に部室から出て行った。


儀也が居なくなると、ひよりはソファーに飛び乗った。



「ふぅ…

長々と疲れたわ…」


「お疲れ様!

格好良かったよ、ひよりちゃん!」


「ああ、ありがとう…

部長も楽じゃ無いわね」



それから、忍は愉快そうにこう言った。



「それにしても、あの呉原君って後輩…

面白い子だよね!」


「ええ、全く…

死んだはずの(・・・・・・)柳川さんと話したみたいだったわ…

しかも、化け物を一体殺したなんて…」


「ひよりちゃん、もしかして呉原君って…」


「そうね、適応者(・・・)の可能性があるかも知れないわね…」



ひよりは、窓から見える夕暮れに染まろうとしている空を見て、深いため息を付いた。


「少しだけど、寺岡君に似てた気がするわ…

はぁ、何の因果かしら?」



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