君が咲く山で冷たい雨に打たれる
京極一馬……きょうごくかずま、男 24歳、美容師バイト、AIgirlCAのギタリスト
篠田桜……しのださくら、女
AIgirlCA
一馬ナレーション
「こんな女に出会わなければ俺はきっと今も変わらず光を浴びて居たんだろう……」
一馬
「お疲れー!今日もサイコー!蓮もタクミも!ごめんな先帰るわ、今日の飲みパス!今度のやる箱の打ち上げは絶対行くから!ん?ああ……まぁ……えー……お先に失礼ー!!」
一馬ナレーション
「足早に帰る、会いたい気持ちが募ってしまった……仲間に女か?と茶化される……まぁな……と濁し、その場から居なくなる、それも家で待つコイツのせいだ」
桜
「おかえりなさい」
一馬
「ただいま、はぁー疲れた」
桜
「お疲れ様、よしよし」
一馬
「ん、サンキュ、癒された……メシ何がいい?」
桜
「炒飯」
一馬
「そんなんでいいの?」
桜
「うん、一馬の作るので一番好き」
一馬
「そっか」
桜
「ごめんね?私何もできなくて……」
一馬
「いいよ、桜、お前は居てくれるだけで……」
桜
「ホント?」
一馬
「ホント、ほら、いい子に待ってな」
桜
「うん、待ってる」
一馬ナレーション
「いつかもっと大きくなって、夢叶えても……こんなのがずっと続けばいいと思ってた……でも、そんな未来は……篠田桜、彼女に出会い、心を奪われた瞬間に失ってしまっていたんだ……それは天気予報が嘘をついた日のことだった」
一馬
「くっそ!雨ってなんだよ、今日は晴れじゃないのかって!うそずみめー!」
桜
「…………」
一馬
「あ……」
一馬ナレーション
「いつも通り抜ける公園、少しでも早く家に着くためにそうしてる、ただその日はいつも通りにはいかなかった……雨に打たれながらも足を止めた、長い髪に白いワンピース、傘もささずに空を見上げ立ちすくむ彼女の姿に……変な女……誰だってそう思い通り過ぎる筈だ、でも出来なかった……何故か惹かれたんだ」
桜
「…………」
一馬
「へぇ……おかしな子が居るや」
桜
「だ、誰?神様?」
一馬
「んなわけないでしょ、人だよ、君と同じ、ねぇ、なんでこんなとこに居るの?濡れるよ?」
桜
「いいんです、私なんて……」
一馬
「そう?」
桜
「私は……奪ったから……雨に流してもらうくらいが丁度いいんです」
一馬
「奪った……?んーと、まぁいいや、とにかく帰りなよ?じゃあね、ひゃー雨やっば」
桜
「…………」
一馬
「………ねぇ」
桜
「あ……」
一馬
「もしかして帰るとこ……ない?」
桜
「……はい、私にはもう」
一馬
「……うん、ウチ来なよ」
桜
「え?」
一馬
「ここよりマシだしあったかいよ?人間あったかい方選んだ方が得だよ?ほら行こう?」
桜
「あっ」
一馬ナレーション
「俺は思わず手を握り、彼女を連れて家に向かう、振り払う素振りもせず、ただただ連れていかれた、そんな感じだった」
桜
「お邪魔します」
一馬
「いいよ気にしないで、とりあえずこれタオルね」
桜
「はい」
一馬
「よし、ふぅー濡れた濡れた、散々だったなぁ」
桜
「あの、これ」
一馬
「ああ、貰うよ、あとで洗濯機ぶち込んどく、えっとココ風呂場なんだけど風邪引いちゃうし?シャワー浴びな?」
桜
「えっと….…」
一馬
「あー、そうだよね、着替えないよね、んーと.……ちょい待って」
桜
「え?あ、はい」
一馬
「えーとこれ着て」
桜
「……あの」
一馬
「あ、そうだよね、下着とか必要だよね、か、買ってくる!」
桜
「あ……行っちゃった……」
桜ナレーション
「私は失った、奪ったから失った……全てを消して……だけど何処にも行けず、まるで散歩する死人になりかけた私は彷徨い……そして空を見上げてた」
桜
「なんで彼は私を助けたんだろう? どこかのホラー映画に出てくる女みたいになってる私を……あったかい方……か……あぁ……なんの変哲もないただの冷たい雨ではなかったなぁ……」
一馬ナレーション
「ほっとけば良い、それが正解、そうすればこんな想いをしないでよかった……暗いアパートに佇み、鉛色の空を見つめる事なんてなかった」
一馬
「はぁ……はぁ……ただいま、えっとこれ!下着と着替え!合わなかったらごめん!てかむっちゃ恥ずかしかった!」
桜
「ふふ……ありがと」
一馬
「あ……」
桜
「なに?」
一馬
「かわいい……わー!何言ってんだ俺、えっと早くお風呂入って!俺あっち行ってるから」
桜
「う、うん」
桜ナレーション
「私は救われていいんだろうか、そう感じてしまう、冷たく終わればいい、心は枯れたまま、私は散ればいい、なのになんて簡単なんだろうか……ふと聞こえた可愛いという四文字に浮ついてしまう」
桜
「あ、あの……」
一馬
「へ、平気?」
桜
「は、はい、問題ないです、ありがとうございます」
一馬
「ん、よかった……俺もシャワー浴びて来るから待ってて」
桜「は、はい」
桜ナレーション
「なんて私は簡単なのだろう、彼はきっと困ってる人や可哀想な人を見捨てれない優しい人なだけなのに……もう心を許し始めている……好きになれば……愛してしまえば……居なくなってしまうのに……」
一馬
「ふぃースッキリしたぁ」
桜
「……あの」
一馬
「なに?」
桜
「なんで私を?」
一馬
「いや、なんというか….…ほっとけなくてというか……はは」
桜
「あんなとこで雨宿りもせず、空を見つめてた変な女を?」
一馬
「うん、そうなんだよね、いつもならほっとくんだよね、面倒な事嫌だし」
桜
「ならなんで?」
一馬
「……綺麗だったから」
桜
「綺麗……?」
一馬
「……うん、あの雨の中でそう思っちゃったんだ……綺麗だなって……好きだなって」
桜
「好き……?」
一馬
「あ……あの」
桜
「ふふ……私も好きだと思います……んっ」
一馬
「んっ!?えっ?」
桜
「んっ……私、ここに居たい」
一馬
「ん……いいよ、ここに居て」
桜ナレーション
「私はなんて単純なのだろう、好きという言葉にすぐ浮かれる……恋において私はどれだけ盲目で頭が悪いのだろうか……それでも私は求め求められることを欲してしまう、死にたいと彷徨っていたはずなのに、死に場所を探してたはずなのに……ああ、どうしたらいいのだろう……唇を重ね身体を重ね、好きという気持ちを積み上げ、夜に堕ちていく」
一馬
「ふわぁ……あ、寝ちゃったのか」
桜
「おはよ」
一馬
「あ、おはよ……えっと」
桜
「桜、篠田桜」
一馬
「あ、えっと一馬です、京極一馬」
桜
「ふふ」
一馬
「ん?おかしいかな?」
桜
「うん、おかしい、私達しちゃったくせに、自己紹介が今なんて」
一馬
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど」
桜
「いいの、私から誘ったんだし……一馬……か
、カズ君でいい?」
一馬
「あ、うん」
桜
「カズくん、愛してる」
一馬
「うん、俺も……大好き」
一馬ナレーション
「この時愛してるという五文字が自分の喉に引っかかり、違う言葉で返した……このちょっとした違和感に気づいていれば、今頃こんな事にはなってなかっただろう」
一馬
「あ、そうだ今何時?」
桜
「……わかんない」
一馬
「だよね、スマホスマホ……あった……!げっ!12時?やば遅刻する!ごめん桜!バイト行かなきゃ!家あるもん好きに使っていいから!んじゃ、行ってきます!」
桜
「あ、うん、行ってらっしゃい……」
桜ナレーション
「私は満たされていいのだろうか……愛されていいのだろうか……愛されて愛してしまったら彼が終わってしまう、だけど彼を知りたがる、これは私の治らない病気だ」
桜
「何してよう……そうだ……料理……」
桜ナレーション
「彼の為に何かをしよう、私はそういう女の子だ、誰かに求められたい、捨てられたくはない、彼のモノで居たい……」
一馬
「ただいまー、ん?焦げ臭い?」
桜
「っく……ぅう……」
一馬
「桜??」
桜
「……カズ君……ごめんなさい……ここに居るために、私頑張ろうとしたんだけど……やっぱダメみたいで」
一馬
「そっかそっか、ありがとうな、俺の為にやろうとしてくれて……いいんだよ、無理しないで……桜は居てくれるだけでいいんだから」
桜
「うん、うん……」
一馬
「あーあ、髪まで焦がしちゃって……よし綺麗にしてあげる」
桜
「???」
一馬
「俺さ美容師なの、バイトだけどね、ほら座って」
桜
「うん」
一馬
「よいしょ….…さて、お客様、今日はどうなさいますか?」
桜
「あの、お任せ……します」
一馬
「はぁい、とびっきり可愛くしてあげる」
桜ナレーション
「彼が私の伸び切った長い髪にハサミを入れてく、一つ、一つと……付き物を落としてくみたいに」
一馬
「はい完成、鏡見て」
桜
「……!」
一馬
「どう?」
桜
「これが私」
一馬
「うん、そうだよ、よし、美容師モードおーわり……桜、むっちゃ綺麗……可愛い……」
桜
「あっ」
一馬
「なんかこうしたくなった」
桜
「ん、いいよ、ギュッてしてよ?」
一馬
「ん」
桜
「カズ君……他の子の髪とかもこうしてるの?」
一馬
「んー、まぁ、お客様だしね」
桜
「そっか……なんか少し……妬けちゃうな」
一馬
「安心して好きなのは桜だから」
桜
「じゃあちゃんと私をアナタのモノにして」
一馬
「それって……」
桜
「私を彼女にして?」
一馬
「そっか、そうだよね、ちゃんと言ってないもんね……えっと、色々遅くなっちゃったけど桜に一目惚れしました……好きです、付き合ってください」
桜
「はい、喜んで……ふふ、おかしいね順番」
一馬
「そうだね、ふふ」
桜
「愛してる……来て」
一馬
「……ん」
桜
「ん……」
一馬ナレーション
「惚れたモノ負けとはよく言ったもんだ、俺は彼女の誘惑にまんまと負ける、きっと思考の歯車は徐々に腐敗していったのだろう……自らの手で女神を作り出して、自らの手でその女神に殺されるみたいな感じだ」
桜
「いってらっしゃい」
一馬
「ん、いってきます」
桜ナレーション
「ふとした出会いから数ヶ月が経った、彼を送り出し、家で待つ……それだけで幸せだった……彼の事を知りすぎなければ」
桜
「京極一馬……景三運輸に勤める父、京極和雄と専業主婦の京極雅美との子、2月25日生まれ、魚座の24歳、現在フールドケーで美容師のバイトをしながら、AIgirlCAというヴィジュアル系バンドでギターボーカルとして活動している」
桜ナレーション
「それだけで、そのくらいで、知る事を留めておけば……私はまた過ちを繰り返さなかったのだろう」
桜
「カズ君……会いたい……」
桜ナレーション
「私はふと飛び出していた」
一馬
「ありがとうございましたー、えっと次は……あ、結城さんどうも!あ、僕でいいんです?ありがとうございます!こちらどうぞー」
桜
(誰、あの女……)
一馬
「今日はどうします?」
桜
(なんか楽しそう……ムカつく)
一馬ナレーション
「お客様を見送る、いつもの所作、本日最後のお客様……外まで出て一礼して見送る……いつもと違う事……顔を上げたら、桜が居た……気がした、一瞬目が合ったかわからないほどに直ぐに背を向け足早に去っていく」
桜
「あ、私なんであんな……バレた?ううん、気づいてない、見られてない、きっとそう….あ、ドアの音……」
一馬
「ただいまー、いい子してたー?」
桜
「ん、おかえり、ぎゅーは?」
一馬
「する、んー、疲れたー」
桜
「お疲れ様……よーしよーし」
一馬
「へへー癒されるー」
桜
「ふふふ」
一馬
「あのさ、うちの美容室の近く居た?」
一馬ナレーション
「時に率直な疑問は恐ろしいという事を知った」
桜
「…….…」
一馬
「どしたの?」
桜
「やだった」
一馬
「何が?」
桜
「会いたくて、行っちゃったの……ごめんなさい……それで遠くから見てた、私以外の女の子の髪触って楽しそうに話して……仕事だってわかってるのに….…凄い……嫌だったら……」
一馬
「ごめん……」
桜
「やめてほしい……私だけで居て……仕事なんていくらでもあるでしょ?」
一馬
「でも」
桜
「お願い……」
一馬「わかった……」
一馬ナレーション
「何故簡単にわかったと口走ってしまったのだろう……きっと知らないうちに、この女の沼にハマっていたのだろう……抜け出せず堕ちていってる事に気付かない魔性の罠に」
一馬
「俺、辞めるよ、仕事なんて他にあるし」
桜
「本当?」
一馬
「うん」
桜
「ありがとう、カズ君、愛してる、ずっと私の、私はアナタの……」
一馬ナレーション
「静かに壊れていく、穏やかで心地よく、それでいて妖艶な誘惑から抗えず……違和感は崩壊した」
一馬
「愛してる……」
桜
「私も……」
一馬ナレーション
「手を繋ぎ愛の言葉を囁き夜を共にする……こうして俺は美容師を辞め、別の仕事に就いた、無職の間は幸いな事にバンドが軌道に乗って、それなりに稼げるようになってたからか生活には困らなかった……抗えない縄に縛れてるのに気づかない愚かな自分はまだ桜に見惚れていた……桜と付き合って2年が経った」
桜ナレーション
「私は嫉妬に狂う、支配欲、独占欲、承認欲求の塊なのだと思う、過ちは繰り返さない、我慢できている……今はまだ大丈夫……私はもう、この手を染めてはいけない、愛する人を……してはいけない……」
一馬
「なぁ!桜、桜!」
桜
「どうしたの?カズ君、機嫌いいね」
一馬
「メジャー!決まった!!」
桜
「ホント!?よかった!」
一馬
「だからさ、LIVE来てくれない?」
桜
「でも……」
一馬
「俺がキャーキャー言われてんの見たくないから行かない……だろ?」
桜
「うん」
一馬
「大丈夫、俺には桜だけなんだから、それにさ……メジャー行く前に……インディーズラストのLIVE、桜にも見てほしいなって……お願い」
桜
「……うん、わかった」
桜ナレーション
「お願い……なんてずるい言葉なんだろう……私はつい叶えてしまいたくなる……仕方ない、求められたのだから……望まれてしまったのだから……愛しいのだから……どうなっても知らない……私はそう願う」
一馬
「みんな!応援ありがとう!今までついてきてくれて!みんなが居たから俺はここに立ってるんだと思う……俺たちAIgirlCA……メジャー決定したぞ!!お前らこれからも着いてこいよ!!いくぞ!ラスト!!ラスト!!新しい曲、聞いてくれ!テイクオフ!!」
桜ナレーション
「黄色い声援に包まれ、スポットライトに照らされる彼……私の知らない彼が居た……知りたくなかった……いや、知ろうとしなかった……眩しい……妬ましい……だから嫌だった……私はそうせざるを得ないのだから」
一馬
「桜!どうだった?」
桜
「うん、凄いかっこよかった、知らないカズ君が居た」
一馬
「ありがとう、でも俺は俺だよ、さ、帰ろ?」
桜
「うん」
一馬ナレーション
「あの日あの時、目に止まらなければ……いつものように一人、帰っていれば、気まぐれに、偶々……彼女を見なければ……いつもと違う道を行けば、仲間との時間を過ごしていれば……こんなに人生がおかしくなる事はなかったんだ……」
桜
「ただいま」
一馬
「おかえり……あ、俺もか、ただいま」
桜
「おかえり、今日はお疲れ様」
一馬
「ふぁあ……疲れたぁ……ねむっ……」
桜
「いいよ、おいで……」
一馬
「んー膝枕ぁ……寝れるぅ」
桜
「いいよ、寝ても……可愛い……」
一馬
「んー……すぅ……すぅ……」
桜
「寝ちゃった……ねぇカズ君……私やっぱり嫌だったな、今日の……あんなカズ君知らない、私だけでアナタだけでいいんだよ? ねぇ……カズ君……好きだよ……愛してる……だから……死んで……大丈夫……苦しくないようにするから、頚動脈ってスーって死ねるんだって……前もそうだったの……でもね、カズ君の方がずっとずっと好き……愛してる……今までで一番……我慢したよ?でもね、あんなの見ちゃったら無理だよ……カズ君……私折角我慢してたのに……だからね、限界だから……みんなのものじゃない……私の……私もアナタの……愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる……殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい……好き、好き、好き、好き」
一馬
「うっ……」
桜
「死んで……お願い」
一馬
「ごほっ……げほっ!ごほっごほっ!」
桜
「ひっ!」
一馬
「あれ?桜……何して……?」
桜
「あ、あぁ……ああ!!」
一馬
「おい!待って!どこ行くの!」
桜
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
一馬
「桜!な、何持ってんだよ、包丁なんて……料理しないだろ?危ないからしまえって……な?」
桜
「来ないで!」
一馬
「っ!?」
桜
「あのね、カズ君……私ね……生きてちゃいけないんだ……好きになった人……愛した人……殺したくなるの……私だけのモノで、その人だけのモノで居たくて……でもみんな私以外の誰かが居て……妬ましくて辛くて……だから皆んな奪って……死んじゃったんだ……私のせいで……自分でも信じられないけど、なんでかさ、バレないで今まで生きてこれちゃってるんだ……でもね、もう嫌なの」
一馬
「桜……」
桜
「カズ君、アナタが一番好き、世界中の誰よりもずっと……だから殺したくなかった……けど無理だった……殺そうとした……でも失敗……止めてくれてありがと……」
一馬
「……何する気だよ」
桜
「バイバイ……」
一馬
「やめろ!!」
桜
「ぐふっ……」
一馬
「あ……あぁ……」
桜
「あはは……刺しちゃった……あかいなぁ……」
一馬
「ん……っ……桜……やだよ……桜……」
桜
「カズ君、ぎゅってしたら汚れちゃうよ?」
一馬
「うぅ……ひっく……うぅ……桜……」
桜
「泣か……ないでよ……カズ君……手あったかいなぁ……」
一馬
「うぅ……」
桜
「カズ君、ここ」
一馬
「え?」
桜
「首絞めて……」
一馬
「無理……だよ……」
桜
「カズ君……私を……殺して」
一馬
「…………」
桜
「私はアナタの……私の為……」
一馬
「桜の……為?」
桜
「ん……お願い……殺して……」
桜ナレーション
「そう言って彼に最後の口づけをした……ゆっくりと私の首が絞められる……彼の手の温もりを感じる……なんで幸せなんだろう……私の最後がこれでよかった……愛してる……さよなら……私の……最愛の人……」
一馬
「はぁ……はぁ……うぅ……うぅ……うっ……」
一馬ナレーション
「手に冷たさを感じる……終わった……雨の音が聞こえる……あの日と同じで冷たい雨なんだろう……」
一馬
「桜……んっ……」
一馬ナレーション
「なんてロマンチストなバカな行為をしたのだろう、死体に口付けなんて、自分は王子様ではない、蘇るわけがない……そんな魔法みたいに世の中は都合よくできてない、人の無力さを痛感する……自分はただただ彼女を抱きしめるしかなかった」
一馬
「……これ」
一馬ナレーション
「桜のポケットから手紙を見つけた……」
一馬
「なんだこれ……カズ君へ」
桜ナレーション
「カズ君へ……ごめんね、私、我慢できなかったみたい、もしアナタが生き延びて、これを見つけたら頼みたいの……私はアナタを殺せなかったら死のうとするから……多分死んじゃったよね?私……だからね……これを実行して……」
一馬
「……愛してるよ……カズ君……お願い……うん、わかったよ……桜」
一馬ナレーション
「まるで呪いの言葉だ、抗うことも出来ず従ってしまう……おかしい事に疑問も持たず実行する……まず最初に書かれてたのは……桜を解体する事だった……」
一馬
「ノコギリ……よし、ごめんね……んっ……はぁ……はぁ……桜……はぁ……はぁ……」
一馬ナレーション
「風呂場で彼女を切断する……肉に刃が入り引くたびに血が散って……骨に辿り着く、硬い感触を感じる……」
一馬
「うぇっ……うぇえええ」
一馬ナレーション
「吐いた、胃のモノが全て出た……」
一馬
「ごめん!直ぐ綺麗にするから!!」
一馬ナレーション
「シャワーで吐瀉物を流す、また続ける、手、腕、脚、胴体、首、彼女がバラバラになっていく……」
一馬
「桜……はは、バラバラだ……花?ふふ……桜だもんね……はは……」
一馬ナレーション
「壊れてる……桜に縛られ雁字搦めな心の壁がどこかで壊れる音がした」
一馬
「綺麗だなぁ……次は……うん、わかったよ桜」
一馬ナレーション
「次は火を入れるらしい、水分が飛んでカラカラになるまで、肉は食べてもいいらしいと書いてあった……その日から俺は彼女を喰らった」
一馬
「いただきます、今日で全部だよ、頭は次のと一緒にするから食べないよ……それ以外は全部俺の身体に入ったよ……バンドはって?辞めたよ、手紙見てからすぐ……え?問題なかったかって?ありまくり……メンバーに殴られた……でもなんも感じなかったんだ、それを見てさ、おかしいって言うんだ、そうなのかな?ねぇ……桜……教えてよ」
一馬ナレーション
「虚空に喋りかける、当然返事はない、彼女が書いた事の続きを実行する、水分を飛ばし切った骨を砕く」
一馬
「っしょ……んっ!んっ!」
一馬ナレーション
「箱に残った部位の肉と砕いた骨を入れ、土を被せる」
一馬
「残ってないよ、頭しか……さてと……よいしょ……行こうか、桜」
一馬ナレーション
「私との思い出の山に埋めて」
一馬
「ここにしようか……でも以外だなぁ……この山登ったけどさ、頂上の景色見れなかったじゃんか……よし掘ろうか……野良犬に掘り返さないようにしないと……よし……」
一馬ナレーション
「深く深く掘り進む……人がまるまる一人収まるくらいに」
一馬
「はぁ……はぁ……よし……こんなとこかな……よし、お願い叶えたよ、またね桜……あ、そうだ、ちょっとしたプレゼントしたから……綺麗に咲いてね、お願い」
一馬ナレーション
「彼女の頭と骨が入った箱を地面に埋め、その上に桜の苗を植えた……それから10年が経った」
一馬
「さぁドアを開けて出かけよう……君が咲く山へ……」
一馬ナレーション
「桜は5年で花を咲かせた、でも毎年、季節外れの桜が咲き、雨が降る……どんなに晴れと予報されても、天気予報が嘘をつく……そんな当たり前になった冷たい雨に打たれ桜に会いに行く……当たり前な雨の風景が僕に何か伝えてる」
一馬
「桜……来たよ……元気?俺はそれなりかな、雨、冷たいね……この雨の音さ、なんかさ俺が俺をやめること、それが一番いけないって言ってるように聞こえるんだよね、桜が言ってる?そんなわけ……ないか……桜、もう限界……そっちいっていい?あ、そうだ今日ギター持ってきたんだ、この曲好きだろ?Requiem……安直なタイトルだよなー、レクイエムって、ヴィジュアル系ど真ん中みたいな……でもさ……丁度いいや……鎮魂歌ってさ……よし、ぐっ!!へへ刺しちゃった……すぐ会いに行くから……それまで聴いてて……へへ……下手くそなってるなぁ……はは……ごめん……許して……そっちでもさ……嬉しい事や悲しい事、数え切れないたくさんの事、思い出作るから……待ってて……はは……そういや……待たせて……ばっかだ……桜……大好きだ……愛してる……」




