第1話 私と一緒に暮らそうね。
とととれい。あなたは救われる子。
私と一緒に暮らそうね。
これは幸運のお守りだからね。ずっとととのことを守ってくれるよ。
そう言って、ととに『かわいいぬいぐるみの顔の形をした幸運のお守り』をつけてくれましました。(ぬいぐるみの顔はにっこりと笑っている顔をしていました)
そのお守りはととの宝物になりました。
ととはにっこりと(ぬいぐるみの顔と同じように)幸せそうな顔で笑いました。
大きな怒鳴り声が(まるで嵐のような。激しい雷や雨や風の音のような)ととの頭の中ではいつも聞こえていました。
大丈夫。いつも笑っていようって思いました。
泣いても、誰も助けてくれないのだから。
だから、笑っていようと思いました。
少しでも、ほんの少しでも、楽しい気持ちになるために。
ほんの少しでも、幸せだなって思えるように。
目が覚めると、ぐぅーーとお腹が鳴りました。
ととはきょろきょろとあたりを見てみました。でも食べられるようなものはどこにもありませんでした。
うー、とととは言いました。
ととは『言葉を喋ることができませんでした』。
だから、うー、とか、あー、とかそんなことを小さな声で言うことしかできませんでした。
ととの小さな体は傷だらけでした。
いろんな人に蹴られたり、突き飛ばされたりして、いろんなところを怪我していました。
ととは小さな橋の下で暮らしていました。
そこでは雨に濡れないでいることができたからです。
ととは小さな橋の下を出て、街の中に歩いていきました。
食べるものを探すためです。
ととはいつもじっとしていました。
いろんな風景を見て、いろんなことを考えていました。
街にはたくさんの人たちがいましたが、みんな忙しくて、誰もととのことを気にする人はいませんでした。
それでもととはそんな風にいろんな人やいろんな風景を見ていることが好きでした。
食べものを探しているときや、いじめられていないときは、ととはいつもずっとそうしていました。
そんなときととはいつも小さく笑っていました。
そんなある日のことです。
「ねえ。大丈夫?」
そんな声を聞いて、ととはいつものようにその身を丸くしました。
またいじめられると思ったのです。
でも、いじめられることはなくて、その声の人はととのことをそっと抱きしめてくれました。
「かわいそうに。つらかったんだね。えらかったね。もう大丈夫だよ。ほら。こっちにおいで。私のお家に行こう」
そんなことをとっても優しい声で言ってくれました。
ととはまるで夢のようだと思いました。(ずっと、とっても長い間、誰にも優しくされたことがなかったからです)
本当に夢を見ているのだと思いました。
だから優しく手を引かれて、よたよたと歩きながら、その人の明るくてあったかいお家にいれてもらったときになって、はじめて、これが夢ではないのだとわかって、ととはぽろぽろと大粒の涙を流して泣いてしまいました。
ととは顔をあげて、優しい声の人の顔を見ました。
ぼんやりと涙で滲んでいたけど、その人はととを見ながらにっこりと笑っていました。
「私の名前はれい。あなたの名前はなんて言うの?」
れいはしゃがみ込んで、ととの顔を見ながら言いました。
ととはずっとつけていた(もうぼろぼろになってしまったけど)かわいいぬいぐるみの顔の形をした幸運のお守りの後ろをれいに見せました。
そこにはととと書いてありました。
「とと。あなたはととっていうのね。かわいい名前」
そう言ってれいにっこりと笑いながら泣いているととの頭を優しく撫でてくれました。
それがとととれいの出会いでした。




