003 赤毛の少女マナ
アタシの名前はマナ。
両親が死んでからはホラの町にいる叔父さんの元で生きてきた。
と言っても、叔父さんが面倒を見てくれたわけじゃない。
自分の食い扶持は自分で稼がなければならなかった。
だけど力のない12歳の小娘ではまともな農作業も出来ず、他の仕事を探そうにも町の中には食い扶持を稼ぐための仕事は無かった。
行きつく先は町の外。太陽の光が降り注ぐ世界であり、人の手の入っていない未開の地。
人の手が入っていないということは恵みの宝庫であるということ。
とはいえ、背が小さくてすばしっこい体を生かしても、地上に出て入口の周囲に落ちている薪を拾うのが精一杯。
なぜなら地上には人類の天敵であるガーヴァルの存在があり、いつも死と隣り合わせ。
ガーヴァルに見つからないようにするだけで一日何も拾えない日も多くあった。
そんな風にやっとのことで拾った薪を売って得た金は全部叔父さんに取られて、叔父さんの酒代に消えていく。アタシに与えられるのは粗末なパンとしなびた野菜だけ。
叔父さんに向かって遊んでないで働いて欲しいと言ったことがあるが、養ってやっているのに生意気をいうなと言われてひどくぶたれたことがある。
そんなひどい状況で生きてきた。
それでも生きていけるのならまだましだった。
そんな仮初の平穏が破られたのは数日前の事だ。
叔父さんはどうやら賭け事をして、返せないほどの借金を負ったのだ。
そしてその借金を一発で返すためのプランをアタシに伝えてきた。
「虹の雫を手に入れるんだ。そうすれば借金なんて一発返済! それでいて何年も遊んで暮らせるって寸法だ!」
熱を放ちながら、興奮した様子で叔父さんはそう言った。
虹の雫。それはこの世界になくてはならないもの。
赤橙黄緑青藍紫の7色に輝く液体であり、それを飲めば長い間ずっと腹が減ることなく動くことができ、それを水に薄めて畑に撒けばどんな荒地であろうとも野菜がすくすくと成長し豊作となる。また火をつけることで燃料ともなり、数年は煌々と輝くランプが出来上がるのだ。
太陽の光も届かない地下の穴深くにあるこのホラの町が町として存在できるのも虹の雫の存在あってのものだ。
そんな奇跡のような虹の雫だけど、当然手に入れるのは容易じゃない。
その存在は地上でのみ確認されていて、地上には天敵であるガーヴァルがはびこっている。
そして、ガーヴァルの探知をかいくぐって命がけで地上を放浪したとしても、そうそう見つかるものじゃない。
唯一といってもいい目撃情報は、ガーヴァルの巣のみ。
巣といっても人間と同じように洞穴や木の空洞に作られた場所に住んでいるわけじゃない。
金属でできた四角い物体の中にガーヴァルはよくいる。
住むという概念があるのかどうかは解らないけど、みんなが便宜上その場所を巣と呼んでいる。
そしてその不可思議な建造物である巣の中に忍び込み、幸運にもガーヴァルに見つからなかった人間だけが虹の雫を手にできるのだ。
そう言われている。
そう言われているというのは、ここ十年来、ホラの町に虹の雫を持ち帰った人はいないから。
天敵であるガーヴァルの巣に赴くこと自体が命を粗末にしていることだし、虹の雫の入手に挑戦するのは自殺志願者か、それか、この目の前の叔父さんのように、金に目がくらんだものだけだ。
叔父さんの提案に対して、もちろんアタシは嫌だと言った。
だけどこれまで養った恩を忘れたのか、とすごまれてぶたれると、アタシは従わざるを得なかった。
そうしてホラの町の外に出た。
命の軽い町の外、地上。
アタシたちはガーヴァルの巣にたどり着く前に、運悪くガーヴァルに見つかってしまい、必死の逃走をして……。
そしてついさっき叔父さんは死んだ。
そこまでは覚えている。
その後……、どうだったか……。
確か……
人の悲鳴のような音が聞こえて……
上を見上げたら……
そしたら……
空から白い服を着た女の子が落ちて来て……
…………そうだった!!




