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013 お腹が減った 前編

 ――ぐぅっ


 動物の鳴き声えか?

 いや、そうではない。


 この音は地上を行く二人の少女のすぐ近くで聞こえたものだ。


 ――ぐぅぅ


 同じような音がまた聞こえる。

 地の底から聞こえるようなこの音は、実は二人の腹の虫。

 本人たちの意思にかかわらず体が空腹を訴えているのだ。


 元々厳しい環境で生活していたマナは我慢強い。文句を言っても泣き言を言っても何も解決しない事を知っているからだ。それを解決するのは自分で動くしかない。そう身に沁みついているため我慢強く育ったのだ。


 もう片方のシーニャ。

 この子は大樹の町イングレッソで育った。イングレッソは割と裕福で、その中でも巫女として育てられたシーニャは、いわゆるお嬢様育ちだと言っても過言ではない。

 普通ならば打たれ弱く育つところだが、持ち前の真面目さと併せ持った頑固さで、こちらも我慢強い。


 おかげで二人は、腹が合唱するほどに空腹でも文句を言わずに先へと進んでいるのだ。


 町を逃げ出すときに持ってきた食料はすでに尽きてしまった。

 元々少なかったので一日と持たないのは分かっていたことだった。


「やっぱり食べ物をなんとかしないとだめか……」


「そうだねぇ」


 我慢強くてもお腹が減るものは減る。

 ガーヴァルが音にはそれほど敏感ではないとはいえ、意図せずに音を発生させてしまうのは困りものだ。


 道中で見つけた果物の木。

 ホラの町にもあったため、その木が実を付ける事を知っていたマナだったが、残念ながら何者かに食い荒らされており、食べれる実は残っていなかった。

 残っていたのはまだ熟れていない実。試しに食べてみたが、あまりに口の中が苦くてイガイガして、とても食べれるものではなかったのだ。


 自然の中に生えている木であるためその後も何回か見かけたが、どれもこれも最初の木と同じ状態だった。


 他には食べれそうなものは見つけておらず、おかげで二人は半日ほど何も食べていない。

 水を飲んでいればしばらく生きられるとはいえ、それは大人しく生きることができるというだけのこと。

 二人は走ったり跳んだり、激しく体を動かさざるを得ない地上にいるため、それは無理だというものだ。


「シーニャ、止まって、それで静かに、音を出さないで」


 先を行くマナが動きを止め、気配をうかがう。

 シーニャも言いつけ通りに動きを止める。


 地上は常にガーヴァルの危険と隣り合わせだ。

 これまでにも何度もガーヴァルを目撃した。そのうちいくつかは近くまで接近される大ピンチもあった。


 今回もまたガーヴァルに違いないと思ったシーニャだったが、どうやらマナの様子がいつもと違う。


「ゆっくり、こっちに来て」


 不思議なことに近づくように促された。

 よくわからないけど、静かに音をたてないようにとマナに近づいたシーニャ。


 前のマナに、見て、と促されて見た先。

 そこには開けた草地で群れる鳥たちの姿があった。


「鳥……。たくさんいる……」


 草地に流れる小川で水分を補給しているのだろうか。首と足の長い中型の鳥たちが何十羽と羽を休めていた。


「あの鳥を捕まえよう」


「掴まえるの?」


「そう。捕まえて食べる」


「鳥って食べれるの?」


「一度だけ食べた事がある」


「えっ、どうだった? 美味しかった?」


「なんか、硬くてモソモソしてたけど、お腹は満足した」


「じゃあ、絶対に捕まえないとだね」


「だけど……鳥は飛ぶんだよね……。網とか何の道具も持ってないしなぁ……」


「大丈夫、私に任せて」


「えっ、シーニャ、鳥掴まえられるの?」


「大丈夫。気配消すの、うまいから私。街でもみんな驚いてたもん」


 ニコニコ顔で語ってくれるシーニャ。

 いったい気配を消して街の人に何をしていたのか。


「いやぁ、駄目だと思うよ?」


「大丈夫だよ、まかせて!」


 むふん、と謎の自信をのぞかせるシーニャ。

 音を立てると鳥が逃げてしまうため、あまり強く制止することもできず。そんなうちに、シーニャはそーっと移動して、鳥の捕獲を実行に移そうとする。


 マナとて解決策があるわけではない。

 それならとシーニャに任せて見守ることにした。


 開けた草むらとはいえ、草は茂っている。

 大人に比べると背丈の低いシーニャはその草に紛れてゆっくりと鳥の群れへと近づいていく。


 そーっと、そーっと。


 未だシーニャは鳥たちに気づかれてはいない。

 もしかして本当に掴まえられるのではないか。巫女という不思議なパワーがシーニャを狩人たらしめているのではないか。

 そんなこんなをマナが考えているうちに、シーニャが一羽の鳥に狙いを定めたようだ。


 シーニャのニコニコ顔がキリリと引き締まった表情へ変わる。


 (行くっ!)


 マナはシーニャの気概から実行を読み取った。


 ――ダッ


 シーニャが鳥に向けて飛び込んだ!


 ――バサバサバサバサッ


 シーニャに気づいた鳥たちが一斉に空へと舞い逃げる。


「シーニャっ!」


 ここからではシーニャの様子は見えない。

 マナは茂みを出てシーニャの元へ駆け寄って行く。


 腹ばいでうつぶせになったシーニャの姿。


 捕まえた? 逃げられた? よくわからないが――


「あはは、だめだったぁ」


 ぺろりと舌を出したシーニャが立ち上がると、そこには鳥の痕跡は全くなかった。


「さすがにね」


 期待していなかったと言えばウソになるが、どうしてもシーニャが鳥を捕まえるイメージができなかったのも事実。


「でも、鳥がいるのなら卵があるかも」


「卵って?」


「なんか鳥の子供? それが美味しいらしいってホラの町で聞いた事あるんだ」


「子供だったら一緒に飛んで逃げちゃったんじゃないの?」


「んーと、飛ばないし、動かないんだって。こんな丸いやつ」


 手で輪っかを作ってみるマナ。とはいえマナも卵を見たことがないので、酔っ払いのたわごとという可能性も捨てきれていない。


「あっ、私も聞いたことあるよ。確か、巣にあるんだよね。鳥の巣は木の上に作るんだって」


「へぇ、じゃあこの辺の木の上を探せば見つかるかも」


 あいまいな知識のまま鳥の巣を探し始めた二人。

 

 木に登るのは身軽なマナの役目。

 ひょいひょいと枝を駆け上がってそれらしきものを探していくが、なかなか見つからない。


「マナぁ、がんばって~」


 地上から声援を送るシーニャを見て、任せて、とついつい張り切ってしまうマナ。

 そんなのぼせた頭は、次の瞬間凍り付いた。


 木の上に着いたマナがふと視界を横に向けた時。

 太陽輝く空の先の先に天敵であるガーヴァルの姿があったのだ。


「シーニャ! ガーヴァルだ!」


お読みいただきありがとうございます。

「話の途中だが、ガーヴァルだ!」

次回、後編をお楽しみに!

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