010 【番外編】マナとシーニャのチョコレート
この話はバレンタインデー当日に思い付きで書きなぐったifのお話です。
一応、楽園での出来事ですが、時空は乱れており、正しい楽園と違う描写があります。
つまりは異次元の番外編です。
一週間前の事。
「ねえマナ、あと一週間でバレンタインデーだね。すごく楽しみ! マナのために頑張ってチョコレート作るからね。楽しみにしててね!」
キラキラした笑顔でそう言ったのは金髪の三つ編みが今日も可愛いシーニャ。
いつも笑顔でニコニコしているが、今日はそれにもまして笑顔が眩しい。三割増しだ。
だけど、その裏で聞き慣れない単語がいくつも出ていた。
バレンタインデーとは、チョコレートとはいったい。
「あの、シーニャ、バレンタインデーって……」
「マナも楽しみだよね! 私も楽しみ! マナはどんなチョコレート作ってくれるのかなぁ」
うっ、こ、これは聞くに聞けない雰囲気。
シーニャはすごく楽しみにしてるのに、知らないなんて言えない。
「そうだ! お互いどんなチョコレートを作るか秘密にするために、キッチンを使う時間を分けよう! じゃあ今日からね!」
結局聞けなかった。
会話によるとバレンタインデーなる単語は何かの記念の日で、その日にはチョコレートなるものをあげるらしい。キッチンを使うということは食べ物であるはず。
「って、それだけじゃまったくわからないよ!」
シーニャがキッチンに入ったから、今アタシ一人だけ。
さすがに謎が爆発して独り言を言ってしまったけど、シーニャには聞こえてないはず。
さてどうするか。
何も作らず当日を迎えたらシーニャをがっかりさせてしまう。それだけは避けなくてはならない。
「そうは言っても……」
作らなくてはならないチョコレートなるものが何なのかがさっぱりわからない。
まったく違うものを作ったら、やっぱりシーニャをがっかりさせてしまう事は間違いない。
「こうなったら……」
覗こう!
シーニャが作ってるチョコレートとやらを、参考にちょーっと見せてもらうのだ。
もちろん、シーニャにバレずに、だ。
だって、さっきもキッチンに入る時に「絶対見ちゃだめだからね!」って念を押されたところだ。
だから絶対に覗いていることをバレるわけには行かない。
こそこそと気配を消してとキッチンの前にたどり着く。
キッチンとはドアで分かたれている。
そーっとドアをひらいて……隙間からちょっとだけ……
「マナっ! 駄目っ!」
ヒエッ! シーニャは超感覚の持ち主なのか、すぐにバレてしまった!
「もう! いくら楽しみだからって、見ちゃだめだよ!」
というお言葉だけで、お咎めは無かった。
でも次は無いだろう。シーニャが手に持ったキラリと光る包丁が頭の片隅にこびりついている。
「はぁ……」
ふりだしに戻ってしまった。
「バレンタインデー、チョコレート……」
ん、そう言えば本にそんなことが書いてあった……気もしないことも無い。
善は急げということで、書庫へと向かって、本をあさる。
「あった……」
パラパラと本をめくり続けたアタシ。ようやくチョコレートなるものの記述を見つけた。
「茶色くて、硬い。苦みがポイントぉ?」
どうやら茶色の塊のようだ。挿絵が入っている。茶色い四角の板見たいな形だ。
材料は書いてない。
でも、簡単に作れるみたいな感じに書かれている。
ということは、材料は難しくないはず。
「茶色くて、苦くて、固まるっていったらあれかな……」
黒糖。サトウキビの汁を煮詰めて固めたあれだ。ちょっと苦みもあるので、もうチョコレートと言って過言ではない。
そうこうして、シーニャと交代でキッチンに入ったアタシ。
幸いサトウキビはあったので試作してみるが……。
「絵みたいにならない。これじゃあ食べた気にならないか……」
量が少なくて絵のように四角の板にはなりそうにない。それに腹持ちもいまいちそうだ。
「そうだ、色も似てるから小豆を混ぜたら食べ応えもあっていいのでは?」
素人がよくやるアレンジである。
とはいえ、黒糖に小豆はマッチしており、なんやかんやあって、勘違いを重ねたチョコレートが完成したのであった。
バレンタインデー当日
「マナ、ハッピーバレンタイン!」
ニコニコ顔のシーニャ。今日が待ち遠しかったのか、ここ数日ずっとソワソワしていた。
特に昨日は落ち着きが無かった。それだけ楽しみにしていたのだ。
その期待を裏切るわけには行かない。
「うん。その、チョコレートなんて初めて作ったから自信が無いけど、気持ちを込めて作ったから」
アタシが作ったチョコレートを差し出す。
色も形も本に書かれた絵と遜色ない。完全にチョコレートだ。
一応包装してある。と言っても布だけど。
「ありがとうマナ! とっても嬉しいよ! 食べていい?」
「うん。シーニャの口に合うと良いけど……」
正直なところ自身があるわけじゃない。
ただ似せて作っただけだ。シーニャががっかりしないように、と祈るばかりだ。
「わあ!」
シーニャが包みを解いてチョコレートを取り出して。そしてその長方形の塊に口を付ける。
「甘い! それに苦みもあるし、まろやかみもあるし! おいしいよ!」
どうやらがっかりさせることは無かったことに、ほっと胸をなでおろす。
「よかった。材料が足りなくて味見できなかったから」
「そうなの? じゃあ……」
そう言うとシーニャはチョコをかじると――
「んっ……」
アタシに抱き着いて唇を重ねてきた。
柔らかいシーニャの唇がアタシの唇と交わる。ちゅるちゅるという音を立てて、唾液がシーニャの舌を経由してアタシの舌に送り込まれてくる。
その味は甘くて苦い。
まったくチョコレートのことを知らなかった割には大成功だ。
口の中のチョコレートが無くなったのか、シーニャは唇を放す。
銀の雫でできた橋がアタシの唇とシーニャの唇にかかり、そして崩落していった。
「じゃあマナ! 私のチョコレートをどうぞ!」
シーニャのチョコレート。
紙のパッケージでラッピングされていてリボンも巻かれている。
これが本場のチョコレート……。
アタシが渡したのは布で巻いただけ。シーニャは優しいから何も言及しなかったけど、一目見たら素人だっていうのがバレバレだったんだ。
「さあ、開けてみて!」
ずいっと渡された包みを受け取る。
(んん?)
包み紙を受け取った瞬間、ぷにぷにした感触がした気がした。
とりあえずは気にせず、包み紙を開けてみた。
「シーニャ、これ……」
色は茶色だ。でも匂いがなんか磯っぽい。
表面はゼリーのようなものに包まれているが、よく見ると中の茶色いものは表面が毛羽立っている。
「食べてみて! 自信作だよ! 苦みだってばっちりなんだから!」
満面の笑顔。
ここ最近で一番だ。可愛い。この笑顔を見るたびに生きててよかったと思える。
とはいえ、真のチョコレートとやらはそんなイメージを覆してしまう。
「えっと、材料は?」
つい聞いてしまった。
チョコレートの材料を知らない素人だとバレてしまうのに。
「もうマナったら。食べたらわかるのに。でも、頑張って作ったから教えてあげる。ツナのフレークににがりを入れて固めて、かわいらしさを出すために、まぐろの目の辺りのゼラチンでコーティングしたの。どう、すごいでしょ。さあ、食べて食べて!」
こ、これが本場のチョコレートってやつか。
思ってたのと違う。まさか海の幸で作るものだったなんて……。
匂いが凄くて、口に入れるのにしり込みしてしまうけど、でも、シーニャはアタシが食べるのを楽しみにしてる。そんな気持ちを裏切るわけにはいかない。
食べ物の好き嫌いなんて言ってられない!
パクリ、とチョコレートにかじりついた。
なまぐささが一気に口の中に広がる。ゼラチンのプルプルと、シーチキンのパサパサがまじりあって、そして無理やりにつけたにがりのえぐみがなんとも言えない……。
だけど、顔に出すわけには行かない。
「お、おいしいよ」
よく言ったアタシ。シーニャのためなら悪魔にだって魂を売れる。
「やった!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねているシーニャ可愛い。
口の中のものが飲み込めないまま、もっちゃもっちゃと嚙み続けているが、それを忘れるために、可愛いシーニャのハートフルな姿を目に焼き付ける。
「私も味見させてもらおうかな」
とんでもない事を言い出した! と思ったのもつかの間。
先ほどアタシのチョコレートを味見させてくれたときのように唇を重ねてきた!
「うえっ! これ、すごい味! ……しっぱいしちゃった。こんなの食べれないよね……」
「そ、そんなことないよ、美味しいよ?」
「そ、そう?」
「だってシーニャがアタシのために作ってくれたんだから」
「よかった! もしかして愛のパワー? 料理の仕上げは愛情って言うから、マナが食べたらおいしいのかも」
「え、そ、そうだね」
とんでも理論を投げ込んできた。残念ながらそうはなっていない。
でも、そう思ってくれて笑顔を見せてくれるのならそれでもいいや。
「じゃあ、残さず食べてね!」
「え、あ、はい」
「うーん、マナのチョコレート美味しい!」
ニコニコ顔でアタシが作ったチョコレートを食べるシーニャを横目で見ながら、最後まで何も言い出せなかったアタシは物体Xを口の中でほおばり続けるのであった。
お読みいただきありがとうございます!
二人のイチャイチャはいかがでしたでしょうか。
季節ネタに参加しなくなって何年か過ぎ去っていましたが、たまにはいいものですね!
さて、次回こそ本編をお楽しみください。




