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勇者は将来に大きな影響を及ぼす選択をする

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

城の外から、うねるような音が迫ってきていた。


怒号。悲鳴。金属と木がぶつかり合う鈍い衝撃音。

農具、松明、壊れかけの剣――

奪われ、踏みにじられてきた者たちが、ついに牙を剥いた音だった。


「……来るな」


ガリーは低く呟いたが、その声は誰にも届かない。


玉座の間。

血に濡れた床の上で、ヴィクトリアは壁にもたれ、浅い呼吸を繰り返していた。

恐怖に怯える女。

世界を恐怖で支配した女。


その二つが、同じ存在であるという事実が、

ガリーの胸を内側から締め付けていた。


――今なら、殺せる。


剣は手の中にある。

一太刀で終わる。

この女を生かせば、再び地獄が始まるかもしれない。


だが。


悪は、無垢な者に苦しみを与える存在。

善は、無垢な者に幸福をもたらす存在。


今、床にいるこの女は――

無垢だ。


「……掟は、絶対なのか」


ガリーの喉から、掠れた疑問が零れた。


正義とは、決して曲げてはならぬものなのか。

どんな状況でも、例外なく従うべきものなのか。


もし、この状況が例外だとしたら。

もし、この女を殺すことが、未来の無垢を救う行為だとしたら。


その判断を下す資格が、自分にあるのか。


城門が破られる音が、さらに近づく。


その時だった。


「迷うな、ガリー」


背後から、ロバートの声が響いた。

低く、しかし揺るぎのない声だった。


「我々の掟は、明確だ」


ロバートは玉座の間を見渡し、焼け落ちた血の跡と死体の山を一瞥した。


「記憶を失った者は、裁けない。

 それが、武僧団の掟だ」


ガリーは歯を食いしばった。


「……だが、師よ。この女は――」


「“今”のこの女は、皇帝ではない」


ロバートは遮るように言った。


「罪を犯した記憶も、悪意も、権力もない。

 ならば、今の彼女は“無垢”だ」


その言葉は、ガリーの胸に重く沈んだ。


「だがな」


ロバートの目が、鋭く細まる。


「記憶が戻れば話は別だ。

 その瞬間、この女は再び“悪”となる」


沈黙。


「だから、お前は彼女を殺してはならない。

 ――記憶を取り戻す、その時までは」


ガリーは、剣をゆっくりと鞘に収めた。


それは逃避ではない。

猶予でもない。


処刑の延期だ。


「お前は彼女の傍にいろ」


ロバートは続けた。


「逃げることも、死ぬことも許すな。

 記憶が戻った、その瞬間に――

 お前が手を下せ」


それは、慈悲でも救済でもなかった。

ただの、冷酷な秩序だった。


ガリーは深く息を吸い、吐いた。


「……了解しました、師」


彼はヴィクトリアを抱き上げた。

軽い。

あまりにも、軽すぎた。


「……あなた……?」


ヴィクトリアは不安そうにガリーを見上げたが、

彼は何も答えなかった。


玉座の間を去ろうとした、その背で。


「俺が残る」


ロバートが言った。


「外の連中には、皇帝は自害したと伝える」


「……師よ」


「案ずるな」


ロバートは片手を上げ、魔力を集中させた。


次の瞬間、床に横たわる近衛兵たちの死体が、

黒い炎に包まれた。


悲鳴はない。

ただ、肉と骨が焼ける音だけが、静かに響いた。


炎が消えた後には、灰しか残らなかった。


「これでいい」


ロバートは静かに言った。


ガリーは振り返らず、城の奥へと歩き出した。


腕の中の女を抱えたまま。


――この選択が、正しかったのか。

――この賭けが、世界を救うのか、壊すのか。


答えは、まだ闇の中だった。


だがガリーは、武僧団を信じた。

このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードもすぐにアップロードします。

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