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勇者の信条が試される

これは私が取り組んでいる新しい物語です。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

レディアという世界は、ひとつの大地ではない。

無数のポケット・ディメンション――折り重なった魔法の断層によって生まれた都市の集合体である。

都市は門によって開かれ、門は魔力によってのみ繋がる。

空は不安定で、世界そのものが常に軋んでいた。


その世界において、人々を守る者たちがいた。

黒鉄の兜を被り、烏の頭を象った戦僧――武僧団。


彼らの創始者、ケイスケはこう教えたという。

「無垢な者に苦しみを与える者は悪だ。

 無垢な者に幸福をもたらす者は善だ。

 悪は苦しみ、死ぬべき存在であり、

 善は生き、報われるべき存在である」


その教えは、疑う余地のない正義として、武僧たちの骨にまで刻まれていた。


ガリーは、その武僧の一人だった。

黒い兜の奥から覗く視線は、冷たく、揺らがない。

彼の背後には師であり上官であるロバートがいた。


二人が立っていたのは、クインツス帝国の首都、その中心にそびえる王城の最奥。

石の床には血が広がり、帝国の近衛兵たちはすでに全員、死体と化していた。


「……妙だな」


ロバートが低く呟く。

彼らが城に突入した時、激しい抵抗を覚悟していた。

だが実際には、戦いはほとんどなかった。

まるで――誰かが先に虐殺したかのように。


玉座の前。

そこに、爆乳女が倒れていた。


クインツス帝国第二代皇帝――ヴィクトリア・クインツス。

邪悪な父クインツスの血を継ぎ、六十年に及ぶ恐怖政治をさらに強化した女。

階級制度を固定化し、無数の少数民族を「不要」と断じ、殺し尽くした女。


ガリーにとって、彼女は明確な「悪」だった。

苦しませ、殺すべき存在。


「……死んでいるか?」


ロバートの問いに、ガリーは無言で近づいた。

剣を抜き、女の喉元に刃を向けた、その瞬間――


ヴィクトリアの瞼が、微かに震えた。


「……?」


掠れた声。

焦点の合わない瞳が、二人を見上げる。


「……ここは……どこ……?

 あなたたちは……誰……?」


その言葉に、ロバートの目が細まる。


「俺達に馬鹿にするつもりか、皇帝」


だが女の表情には、恐怖も演技もなかった。

ただ、空白だけがあった。


疑念を払うため、ロバートは魔法を行使した。

精神を覗き、虚偽を暴く禁呪。


だが――


「……記憶が、ない……?」


ロバートの声に、初めて揺らぎが生まれた。


ヴィクトリアの精神は、空だった。

権力も、虐殺も、帝国も――

何ひとつ、存在していなかった。


ガリーは、剣を握る手に力を込めた。


悪は苦しみ、死ぬべき存在。

だが――

悪であると知らずに人を傷つけた者は、裁けない。


それもまた、武僧の掟だった。


床に倒れた、無力な女。

かつて世界を血で染めた女皇帝。


その二つが、同一であるという事実を前に、

ガリーの正義は、初めて音を立てて軋み始めた。


黒き烏の兜の内側で、

彼は沈黙したまま、問いと向き合っていた。


――この女は、まだ「殺すべき悪」なのか。

この最初のエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。

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