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本当の革命(一)

 王の権威の失墜は、この数日で急激に加速した。


 最近、王への信頼が薄らいでいたところへもっての、耶津の謀反である。


 とうとう、謀反まで起こされるほどの駄目王という、強烈な印象がついてしまった。さらに、避難のために宮中にいないのも、人心離脱の原因の一つだった。


 このまま、王がずっと戻らなければよいと、朝臣達は思っていた。司賓卿はその急先鋒である。


 密かに第二の放伐計画を立てていた。


「よりによって、心海が避難場所に弥勒寺なんぞを選びよった。あそこでは王には手出しできん。しかし、二度と玉座には触れさせん。王が宮中に帰還する時だ、その時、決行しよう!」


 司賓卿は仲間を集めて、そう言った。


 無論、それは心海にはお見通し。いや、それを待っていた。それを利用するつもりでいた。だから、司賓卿が放伐計画を立ててくれないと、かえって困ってしまう。


 心海は司賓卿に言った。


「前大内相らと、高麗亡命者との交換ですが。貴方様が、前大内相らを連れて高麗へ行って頂けないでしょうか。前大内相らを高麗に置いたら、高麗の同輩達を連れてご帰還を」


「私にはやらねばならぬことがある。先日そなたが連れてきた麒国殿にお願いせぬか」


「それはいけませぬ」


 心海は大袈裟に眉を歪ませた。


「何がいけぬ?」


「麒国様は亡命なさった方。今は高麗人です。その方にお任せすることはできません。高麗王との間に入って話をつけて頂く必要はありますので、ご同行頂きますが、我が国の人間から、正式な領送使を立てねばなりませぬ」


「ああ、そうか。だったら、誰か立てる必要があるな。だが、それなら私でなくともよかろう。私は王を放伐するのだ」


「それそれ。それがいけないと申し上げているのです」


「貴様、王を弥勒寺になんぞやりよって!さては放伐に反対だな?」


「違いますよ」


 剣に手をかけた司賓卿に向かって、慌てて両手を掲げ、それを左右に振り抜いた。


「司賓卿には、高麗からの帰り道、是非とも各地の大氏を集めて連れて来て頂きたく。大氏の方々を集めて連れてくることができるのは、貴方様だけですから。他の人では、大氏も疑って、来て下さらないかもしれない」


 司賓卿はふっと殺気を消し、手を剣から離した。話を聞く気になったようだ。しめたと心海は続ける。


「それに。貴方様は長年、大氏の王をこの国にお迎えすることを、夢としてこられた。ご自身で、大氏をお迎えに出向かれたいのではありませんか?」


「なんだと、私の夢を叶えてやるとでも言う気か?生意気な」


「ええ。でも、それだけではありませぬ。万が一ということもあります。どんなに周到に準備しても、完璧には行かないのが世の常。万が一、放伐が成功しなかった場合、司賓卿は死罪になります。司賓卿は大氏を王位に就けなければならない、大事な御身です。貴方様が首謀者になってはいけないのです。万が一に備え、他の者に放伐させるのです。宜しいですか?」


「貴様……」


 司賓卿は何故かとても腹が立った。しかし、結局はそれを了承してしまうのだった。


 前大内相らを高麗へ送る役は、司賓卿がやることに決定した。


 放伐は、司賓卿が自分の一派の中から人物を選び、陳公と洪将軍の二人が決行することになった。


 陳公は名士で人望もある高官であり、洪将軍は今、王の護衛のために弥勒寺にいる。


 放伐の決行は、国王・烈万華が宮中に帰還するその時と決まった。


 司賓卿が前大内相らを引き連れて国外へ出たら、王を宮中に迎える。


 王が宮中に入ったら、放伐決行である。陳公が王を討つ。王は護衛に助けを求めるだろう。しかし、その護衛部隊を率いる洪将軍が、王に刃を向けるわけだ。


 王は謀反兵に宮中で迎え撃たれ、逃げようとする所を、それまで守ってくれていた護衛に裏切られるわけである。


 直ぐに素直に降伏すれば、玉璽を奪い、禅譲させる。しかし、従わぬ場合は、そのまま斬り殺すまでのことだ。


 王放伐の準備が着々と進められる中、司賓卿も出発の準備を急ぐ。前大内相ら多数を伴って行くだけに、容易ではない。


 しかも、罪人のくせに、前大内相らは、知人と別れの挨拶をさせてくれだの何だのと、いちいちうるさいのだ。彼等は高麗になど行きたくないし、高麗人になりたくない。しかし、罪を犯したわけだから、強制的に連れて行かれるわけである。


(しかし、うまいことを考えたものだ。別に要らない奴らを高麗にやり、高麗に亡命した大氏支持者らを呼び戻すとは)


 司賓卿は慈悲を乞う罪人らを見ながら、心海の策ににやりと笑った。


 前大内相らは高麗へ送られるが、耶津だけはまた別である。


 耶津の死罪は免れない。


 しかし、第二の放伐計画が立てられた時、耶津を死罪にしてしまうのは、気の毒だとする者も少なからずいた。


「心情的には理解できますが、それでは国の秩序は保たれません。耶津は処刑するしかありません」


 心海は、陳公らの謀反人にそう言って、耶津処刑を決行した。


 だが、実は処刑は替え玉であった。本物の耶津は生きていた。


 助けられた耶津は、心海の私兵によって、烏玄明の邸に連れて来られたのである。


 そこの門の所で、心海に迎えられた。


「心海。これはどういうことだ?」


「よかったですね。貴方の処刑は決行されました。貴方は死んだ身。自由に動き回れますよ」


 心海はいつも耶津がして見せるような笑みを浮かべていた。


 助けられたのに、耶津は顔が引きつっている。


「何をさせる気だ、この私に?」


「ほう、察しが早い。さすがです」


「心海!」


「私に手紙を寄越したのは貴方の方ではありませんか。一緒に改革しようと仰いました。だから、お望み通りにしようというのです」


 底意地の悪そうな笑みである。


「しかし、耶津殿。貴方は罪人、しかも死罪の身だ。貴方の要求を全て聞くわけにはいきません。前大内相の件は申し訳ないが、私の意に従って頂きますよ。その代わり、王放伐のお手伝いをして差し上げましょう」


「聞いたぞ。陳公が計画しているという噂」


「おやおや、噂になってしまっていますか。それでは、失敗してしまうでしょうね」


「貴様、何考えている?私は司賓卿に裏切られたのだぞ。陳公の放伐に手助けなぞせぬからな!」


「あはは!当たり前ですよ。陳公のは噂になるくらいだから、失敗するって言ったでしょう?だから、陳公のとは別の放伐計画を立てなければなりません。どうです、一緒にやりませんか?」


 耶津は驚いた。


「どうなんですか?やらないんですか?やらないなら!」


 心海が雇っている兵達が、一斉に剣を抜いた。


「何をする!」


 青ざめる耶津。


「計画を知られてしまったのだ、生きて帰すわけにはいきません。くくくっ!何も今更怯えることもないではないですか。貴方はとっくに死んだ身なのに」


 狂っている。そう思った。心海の目は尋常でない。


「わかった。その計画乗った!」


 耶津は素直に従うふりをした。


「そうですか。では、貴方の役目を申しつけます。司賓卿の兵達を奪って率いてきて下さい。司賓卿は国外のあちこちに軍を編成しています。国外にはまだ、司賓卿が貴方を裏切ったことは伝わっていない筈です。司賓卿は高麗に出掛ける準備に忙しく、国外の兵に目は向いていません」


「司賓卿と私はまだ昵懇だと思わせ、司賓卿の放伐実行に必要だと言って、その兵を騙して連れて来いというのか?」


「さすが耶津殿。貴方を殺さず味方にできて、心強い。貴方はさぞ司賓卿をお恨みでしょう?一泡吹かせてやれるじゃないですか。いい気味ですね?」


「ふんっ。貴様が裏切らせた張本人であろうが。まあ、いい。断れば殺すのだろう?やってやる」


 虚々実々。人間万事塞翁が馬。この先どう転ぶかわからない。


 しかし、国外に行けるなら、そのまま逃亡だってできるし、再起を計ることだってできる。


(甘いな、心海。俺は根からの知恵者よ)


 人が我を信じようとも、我は人を信じない。


 それが耶津という人間だ。おそらく心海も同じ人種だろう。


 利用するのか、されるのか。結果、どちらに転ぶかわからないが、耶津は乗ってみることにした。


「心海。貴様とは、普通に友達になってみたかった気もするが」


「錯覚でしょう」


 心海がそう言った時である。


 きいっと邸の戸が開き、中から烏玄明が出てきた。


 烏公は心海の姿を認め、次に耶津を見つけて、幽霊でも見るような顔になった。卒倒寸前なのを、傍らの武人に支えられ、必死に呼吸を整えている。言いたいことがあるのに息整わず、耶津を指差し、それをしきりに激しく振り動かしていたが、やがてようやく、


「心海っ!これはどういうことだっ!」


と喚いた。喚きはしたが、掠れて声はほとんどない。


「烏大内相。お話しがございます」


 心海は神妙に頭を下げた。


 耶津は烏公宅の一室に閉じ込められる。部屋の中にも外にも、烏公や心海の見張りの兵達がいた。


「別に逃げやせぬのに」


 兵に悪態つきながら、茶を啜る。

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