第7話:眠れぬ魔王と、次なる夢
「魔王様、こちらが新たに制圧した領地の報告です」
「うん、焼いといて」
報告書を一瞥し、ひかりは魔法で燃やした。
崩れるように玉座にもたれかかり、白く濁った空を見上げる。
「……ねぇ、最近この世界、色薄くない?」
かつては彩りに溢れていた草原も、今やセピアがかった黄土色。
街の看板も褪せ、太陽はいつも薄暗く、NPCたちの笑顔も貼りついたままだ。
「こんにちは!今日もいい天気ですね!」
「こんにちは!今日もいい天気ですね!」
「こんにちは!今日もいい天気ですね!」
「……いや、雨降ってるし」
⸻
ひかりはここ数日、眠れていなかった。
(寝ればまた新しい世界が始まるのに。……なんで眠れないんだろ)
ふわふわのベッド。極上のアロマ。
レオンの子守歌(※妄想改造済)まで用意したが、頭が冴えてどうしようもない。
(……RPG、飽きたんだな)
ラスボスは倒した。
幹部もぶっ飛ばした。
恋もやった。世界も征服した。
ついでにレオンも悪魔にして捨てた。
(たぶん、もう私、このジャンル限界なんだ)
ソファにごろりと寝転び、天井を眺めながら、ぽつりとつぶやく。
「……違うゲームって、入れるのかな?」
一度しか試していない“妄想→転移”のルール。
ずっとRPG世界だったのは、たまたま最初の妄想がそれだっただけなのかもしれない。
(もしかして……ジャンル変えてもいける?)
次の瞬間、脳内にキラキラとしたビジョンがよぎる。
『きらめきスクール☆メモリーズ』
放課後の教室、文化祭の準備、部活帰りの夕焼け、
突然現れる転校生、謎めいた図書室の先輩、屋上での告白イベント──
(うわ、なにこれ……楽しい。めっちゃやりたい)
久々に、心が跳ねた。
ひかりの脳内に、次々とイベントCGが浮かんでいく。
「選択肢どうする? 好感度パラメータもつけたいな……あー、制服どうしよ。絶対ブレザー。チェック柄のスカートで……」
考えるほどに、胸が高鳴る。
指先がわずかに震え、頬が自然とゆるむ。
そして――
「……ふふ……やば……なんか、眠くなってきた……」
それは、本当に久しぶりの感覚だった。
ひかりはそっと目を閉じた。
「次は……青春、だな……」
⸻
その夜、彼女の姿は魔王城の玉座から静かに消えた。
世界は再び、主を失った。