第5話:魔王、やってみてもいいですか?
「次、どいつ?」
ひかりは、あくび混じりに大剣を肩に担いだ。
魔王軍、氷の将軍リムト=フェルス――撃破。
炎の副将グラン=バレム――撃破。
死霊術士ロウグ=マーグ――撃破。
全員、ワンパンだった。
時には剣を抜くことすらせず、ただ指を鳴らしただけで空間ごと粉砕した。
「なんだろう、もうバグ技とか裏技やってる感じなんだよね〜」
ギルドでは彼女を「災厄の化身」と恐れ、王都では子供が「まおうたおしのひかりさまー!」と駆け寄ってくる始末。
(……うん、悪くない。むしろ気分いい)
けれど。
(……でも、ちょっと、予定通りすぎて、つまんなくなってきたかも)
そんな思いを抱きつつ、彼女は最後の戦場へと向かった。
⸻
魔王城、最奥の玉座の間。
「……また来たのか、勇者よ」
以前と同じ言葉。
しかし、今のひかりは笑っていた。
「そう。今日は負けに来たんじゃないよ?」
魔王が構えた瞬間、ひかりの姿が消える。
「──ッ!?」
次に現れたのは魔王の背後。
ひかりの拳が炸裂し、魔王の重装鎧ごと空間を削り取った。
「これで終わりじゃないよね? もっとさ、抵抗してくれないと!」
魔王は血を流しながらも立ち上がる。
「……お前は、いったい何者だ……?」
「ん? 妄想を極めたプレイヤーかな?」
光の魔法陣が空から降り注ぎ、爆風が魔王城全体を飲み込む。
そして、戦いの幕は──
一撃で、閉じた。
⸻
しん……と静まり返る玉座の間。
崩れ落ちた魔王の身体を前に、ひかりは一人立ち尽くしていた。
「……勝っちゃった」
足元に広がる瓦礫、倒れた兵士たち。
あれほど憎んだ魔王を、今は……ちょっと恋しく思ってしまった。
「なんかさ、戦ってるときの方が……楽しかったかも」
玉座に近づき、ポンと腰を下ろす。
冷たい。
(ふーん……魔王って、こんな景色見てたんだ)
城を覆う静寂。誰もいない。誰も寄ってこない。
でも……。
(……これ、やってみるのも、アリかも)
その夜、寝る前。
「次は、私が魔王……やってみようかな」
⸻
──翌朝。
「……ん、冷た……」
目を開けたそこは、見覚えのある玉座。
だが、先日と違うのは――
周囲に黒衣の騎士団が跪いていることだった。
「魔王様、ご命令を──」
「へ……あれ?」
ひかりは、自らの手元に黒い王冠と、漆黒の魔導書があることに気づく。
そして、背後に浮かぶ、異形の双翼。
「……まさか……マジで魔王になっちゃったの!?」