第23話:葛藤編──癒しの果て、私の次のステージは?
「……ん〜〜〜〜」
小屋の縁側で、ヒカリはあくびをひとつ。
鳥のさえずり、草の匂い、焼いたパンの香り。
朝食に焼いたトマトとチーズのトーストは、自分でも驚くほど美味しくできた。
(……はぁ〜〜、平和)
「魔王もいない。イベントもない。攻略対象もいない……」
ふと空を見上げる。
青く、どこまでも澄んだ空。風が頬をなでる。
(贅沢だよね……これ。たぶん“リアルで本当に欲しかった生活”なんだろうな)
現実では、会社と家の往復。
ゲーム実況はしてたけど、日々の疲れで味わう暇もなかった。
そんな自分が作ったこの世界は、理想のスローライフだった。
だけど──
(なんか……うずく)
背中のどこかが、モゾモゾする。
足元から、じんわりとした落ち着かなさが広がってくる。
「このまま、ナス育てて人生終えるのも……悪くないんだけど……」
誰にも話さないその独り言には、ほんの少しの迷いがにじんでいた。
⸻
午後。
川辺で釣りをしていたヒカリは、ふと竿を置いて、仰向けになった。
「ねえ、神様」
(いたとしたら、だけど)
「次って、あるのかな?」
「恋愛はした。RPGもやり切った。スローライフも満喫した。」
「私……次、何やったらいいと思う?」
風が吹く。
葉がカサカサと揺れるだけで、何の返事もなかった。
「……そっか。自分で決めろってことだよね」
⸻
その夜。
ヒカリはベッドの中で、久々に長く目を開けていた。
(次、何しよう)
その問いは、ワクワクでもあり、不安でもあった。
(農業、恋愛、RPG……)
(……対戦? リアルタイムバトル? 推理? ホラー? 乙女ゲーム続編?)
次から次へと、ゲームジャンルが浮かんでは消えていく。
(ゲーマーなんだよ、私は)
だから、**また次の“ステージ”**を欲しがってしまう。
「……格ゲーとか、やってみたいかも……。今まで全然触れてこなかったし」
ひとつの妄想が、心にポツンと灯る。
そのまま、ゆっくりと目を閉じた。
⸻
──まだ何も変わっていなかった。
でも、確かにヒカリの中で“次のステージ”の準備は始まっていた。




