第20話:攻略と限界と、三十路の夜(RPG編へ)
ヒカリはスケジュール表を見ながら、カフェのアイスコーヒーを吸っていた。
「はい……で、朝は橘くんと自主練、昼は御影くんと屋上、放課後は図書室で霧島くん……」
A3の紙にびっしり書き込まれた「恋愛イベント攻略予定表」は、もはや芸術だった。
(これが、全員ルート制覇の道……!)
ヒカリ、29歳。
表向きは清楚な会社員、裏では恋愛ゲーム世界で10人のイケメンを同時攻略していた。
(何がやばいって、どのルートもめっちゃ楽しいってことなんだよね……)
日々繰り返される青春。
キラキラした告白イベント、すれ違い、学園祭──
そのすべてがヒカリの胸を満たしていた。
(でも……)
「かぶった……ッ!?」
スケジュール表の“日曜”の欄に、恐怖の二重線が引かれる。
如月の舞台本番と、真壁のピアノ発表会。
完全に、時間がかぶっている。
(どっちも……メインルート……!! これ欠席はありえん!!)
「ふふ……でも、こういうときのための私じゃん?」
すぐに夜。
布団に潜り込み、寝る準備万端。
(よし……“私の身体が2つあればいい”)
深呼吸して、イメージを固める。
(1人は舞台に、1人はピアノ発表会に。
同時にイベントを体験できる……そう、分身! ゲームとかでよくあるやつ!!)
「ふたりの私が、それぞれの恋を進められますように……」
──そして、そのまま眠りについた。
⸻
朝。
「……あれ?」
目を覚ましたヒカリは、枕元に手を伸ばす。
「……ふつうに、ひとりか」
鏡を覗き込んでも、隣にもう一人の自分はいない。
(……あれ? なんで? 願ったよね?)
布団に倒れこみながら、考える。
(うーん……やっぱ、やりすぎた?)
(これって、“叶う妄想”にも限界があるってこと?)
ふと、頭の奥で、誰かの声がかすかにした。
「……限度ってあるからな、常識的に」
「誰!?」
びくっとして声を上げたが、部屋には誰もいない。
(……まさか、神様とか? なんかそういう感じ?)
(ていうか、妄想が現実になる能力、ちょっとチートすぎたもんね)
ヒカリは、ポンとベッドに転がって天井を見つめた。
「はぁ~……そろそろ、落ち着いた世界に行きたい……」
好きな人はいる。青春も満喫した。
でも、正直言って体がもたない。
「メンタルがもう三十路なんだって……」
「休みたい……学園恋愛とかじゃなくて……こう、のんびり、じっくりした世界がいい……」
──その夜。
いつも通り、パジャマ姿で布団に潜り込む。
(そういえば、最初のRPGの世界……あれ、意外とよかったな)
(何にもなかったけど、だからこそ穏やかだったし……)
「……あの最初の部屋、もう一回行きたいかも……」
そのまま、意識が落ちていく。
⸻
朝。
目を開けたヒカリは、見慣れない天井を見つめていた。
起き上がる。
木製のベッド。
布団の手触り。
壁にはランプ、窓の外にはのどかな草原。
そして、部屋の隅には、初心者用の装備とポーション──
「……ここって、まさか」
最初に目覚めた、RPGの部屋。
ヒカリは、にやっと笑った。
「ふふ……戻ってきちゃった?」
攻略、青春、恋、イベントの嵐。
そのすべてを経験して戻ってきたこの部屋は、
まるで“現実”のように、落ち着いた空気をしていた。
「……たまには、何もないのもいいよね」
どのヒロインが1番良かった?




