第1話:この魔王、私の妄想なんですけど?(RPG編)
意識がゆっくり浮上してくる。
背中に伝わるのは、固い石の床の感触。
天井から差し込む光が、ぼんやりと視界を白く照らしていた。
「……ん、ここどこ……?」
重いまぶたを開けると、そこは見知らぬ空間だった。
高い天井、左右に並ぶ巨大な柱。
中央の赤い絨毯の先には、荘厳な玉座。
そしてその前に――
「……ようやく目覚めたか。勇者ひかり」
低く、よく通る声が耳に届く。
そこに立っていたのは、一人の男。
黒を基調とした長衣、背を流れる漆黒のマント。
切れ長の紅い瞳が、ひかりを静かに見下ろしている。
……カッコいい。
いや、それどころじゃない。
「えっ……なに? 魔王? っていうか、ここ……え、えぇ……!?」
ひかりは慌てて身を起こす。
自分がいたのは、まさに玉座の真ん前――最後の決戦のフィールドだ。
「ここ、魔王城……? えっ、なんで……」
周囲を見渡す。見覚えしかない。
これは自分が毎晩配信していたゲーム、その最終ステージ。
しかも、自作の勇者装備をそのまま身に着けている。
白と金のローブ、腰には聖剣――
中二病全開で考えた設定が、完璧に現実化していた。
「いやいやいや、これ、さっき寝る前に妄想してただけなんだけど……」
「ふむ……寝る前の妄想か。それで我の間で熟睡とは、なかなか度胸のある勇者だな」
魔王が、すっと細い指を顎に当て、静かに笑う。
その姿は、威圧感をまといながらも、どこか知的で品があった。
「まさか玉座の前で丸くなって寝ているとは思わなかったぞ。
我は貴様が戦の覚悟を決めて現れるものとばかり……」
「……いやいやこっちも寝てただけで……てか、え、ここ、ほんとに現実? 夢じゃなくて?」
「夢かどうかを決めるのは、己の意志次第だ。
だが、貴様の鼓動は高鳴っている。……それが現実というものだろう!」
魔王の言葉が、鼓膜を震わせるたびに現実感が増していく。
匂いも、音も、重力も、全部リアルすぎる。
「……マジで? ほんとにやっちゃった?
この魔王、私の妄想なんですけど……?」
呟いたその瞬間、魔王が静かに剣を引き抜いた。
背後の空間がざわりと震え、空気が変わる。
「ならば――その創造の結末を、我に示してみせよ」
ああ、ダメだ。これは完全にラスボスモード突入だ。
「いやいやいや、まだ状況把握できてないんだけど!?
っていうか、寝起き一発目で魔王戦とか聞いてない!!」
叫ぶひかりの声が、空に虚しくこだました。




