第16話:生徒会室、ふたりきり
いつもの校舎。
いつものチャイム。
いつもの、恋愛イベント。
……と、思っていた。
「えっ? 私が……生徒会?」
突如として言い渡された謎の辞令。
なんの前触れもなく、ヒカリは昼休みに呼び出されたのだ。
「手伝い程度で構わない。簡単な書類整理だ」
そう言ったのは──
九条 誠司
生徒会長。完璧主義で、常に冷静。
学園の頂点に君臨する、絶対的王者タイプ。
「な、なんで私? もっと仕事できそうな人いるじゃん?」
「君は“やるべきときにやるべきことをやる”顔をしていた。
……それに、暇そうだったしな」
「うわ、地味に失礼!! っていうか観察されてるのこわっ!」
しかし──ヒカリは断れなかった。
(九条が……私に話しかけてきた……この声、この眼差し、この距離感……尊ッ!!)
そう、ヒカリが手伝いを即答で了承した理由は一つ。
そこに九条がいるから。
⸻
生徒会室。
カリカリとペンの音だけが響く、張りつめた空気。
(あ〜〜〜!! これが!! これが“ふたりきりの放課後生徒会イベント”ってやつ!?
神、ありがとう。ヒカリ、いま完全にメインヒロイン)
「……集中できてるか?」
不意に声をかけられ、ビクッとする。
「も、もちろんです! 書類なんて、もう恋文レベルで愛込めて読んでます!」
「……ふふ。相変わらず言葉選びが独特だな」
九条が小さく笑った。
(やばい……あの九条が微笑んだ。
やばい……やばい……“攻略可能”ってやつだコレ……!!)
「俺のこと、苦手だと思っていた」
「え?」
「君は誰とでも距離を縮めるのが早いのに……俺とは、一定の距離を保っているように見えたからな」
「そ、そんなこと……っ!」
「だから、俺に声をかけられて驚いた時の君の顔、少し嬉しかった」
(し、しぬッ!!!!)
「俺は……合理主義者だ。
だから、“無駄な接触”は避けてきたつもりだった。
でも、今は……少しだけ。無駄も悪くないと思えるようになった」
ヒカリの心臓がバグる。
「……九条くん」
「なんだ?」
「私、いま、すごく乙女ゲームしてる気がする……!」
「……それも、悪くないかもな」
そのまま、静かに流れる時間。
静寂。距離。緊張。高鳴り。
それが、今の“2人の関係”を示していた。
⸻
生徒会室を後にして。
ヒカリは廊下を一人歩きながらつぶやいた。
「……完璧キャラの微笑みって、やっば……殺傷力高すぎ……」
攻略表には、新たな文字が追加されていた。
《九条誠司・ルート、進行中》
(九条ルート、しばらく通います……!)