第15話:やけにうるさい、静かな男
イベントラッシュって疲れるよね。休憩回。
昼休み。
今日は誰ともイベントがない。
……それが逆に、ヒカリにとって新鮮だった。
「ふぃ〜〜〜、やっと落ち着いた〜〜〜……って、まだ月曜だし!!」
恋愛イベントを駆け抜けすぎて曜日感覚が破壊されている。
教室で1人、購買パンをかじりながら深くため息をついていると──
「……ハーレム王気取り、やめたのか?」
「へっ?」
不意に声をかけられ、ヒカリが振り返ると、
そこには転校生・御影レイが、肘をついてこちらを見ていた。
「なんか、静かにしてんなーって思って」
「うわっ、なんか……地味に毒吐いてくるタイプ……?」
「本当のことしか言ってないし」
御影レイ──無口でクール。
でも、よく見るとたまにすっごく喋る日がある。
今日は、どうやらその日らしい。
「それにしても、お前さ……なんか、最近いろんなやつと仲良くしてんな」
「えっ、そ、それって……嫉妬?」
「いや、観察。あと若干ムカついてるだけ」
「ムカついてるだけて。逆にストレートで清々しいな……」
「お前、前はもっと俺の後ろの席に収まってたじゃん。なんで急にイベントラッシュなんだよ」
「イベントラッシュ言うな! こっちも本能で動いてんだよ! 心が震えるほうに行ってんの!」
「俺のとこ、もう震えないわけ?」
「ややこしい言い方やめてぇええええええ!!」
御影は、ちらっとヒカリのメロンパンを見た。
「……一口くれたら、少し機嫌なおるかも」
「え、急なデレタイム!? あ、はいどーぞ!!」
もそっ。
(……素で食べた!? 何も言わず!?)
「うん。うまい」
「……え、そこはさ。『お前と半分こだから美味い』とかそういうの入れてこようよ!!」
「言わねぇよ。普通そんな恥ずかしいこと」
「いや言っていいんだよ!? 今はそういう世界観なの!!」
御影はちょっとだけ口元を緩めた。
「……ま、でも」
「うん?」
「次、誰と仲良くなるか知らねーけどさ。
俺のこと、もうちょい優先してくんないと……拗ねるから」
「……っ!! な、なんでそういうとこだけちゃんと甘えてくるんだよぉぉおぉ!」
⸻
教室に差し込む午後の光の中。
ヒカリは思う。
(……御影くん、攻略ルートはまだ解放してないけど。
なんか……一番、“放っておけない”かも……)