表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/57

第14話:甘くて優しくて、ちょっぴりスパイシーな彼

「父上〜〜〜〜! 母上〜〜〜〜! 娘は本日も麗しゅうございますわ〜〜〜!」


「…………」


「…………」


朝食の席で突如始まったオペラに、

父と母は口を閉じられなくなっていた。


「ふふ……如月くんの影響、恐るべし……」


鼻歌交じりにトーストをかじるヒカリ。

(※ちゃんと制服は着ている)



昼休み。

今日もヒカリは、売店に向かっていた。


(教室でお弁当とか無理。落ち着かん。てか10股進行中の身、気が抜けない)


メロンパンか、チョコスティックか──

と悩んでいたその時。


「……日向さん」


トンッと肩を叩かれ、振り向く。


そこにいたのは、

白いエプロン姿に、ほんのり小麦粉がついた指。


料理部の癒し男子・穂高ほだか ゆう


「あ……こんにちは?」


「良かったら、これ……どうかな」


彼が差し出したのは、小さな包み。


開けてみると、ふわふわのスコーン。

中には溶けたバターと、ベリージャムが入っていた。


「さっき作ったんだ。食べてくれたら嬉しいなって」


「…………」


(うそでしょ。急に来て、いきなり胃袋を掴みにきた……!?)


ヒカリはスコーンを一口。


「……なにこれ……めっちゃほろほろ……ジャムが甘酸っぱくて……う、うまぁ……!」


「良かったぁ」


穂高はにこっと笑う。その顔は、まぶしいほど柔らかくて。


「……日向さん、最近ちょっと疲れてるように見えたから、甘いもので少しでも元気になってくれたら、って」


(やめろその言い方!! 優しさMAXのセリフ禁止!! ヒロイン耐性ゼロの私には即死級なんだよぉぉぉ!!)


「こ、こんな優しい人いる? 反則じゃない!?」


「え、なんか言った?」


「なんでもないです! なんでも!」



午後、校舎裏。


ヒカリは、穂高に誘われて昼寝スペース(という名の木陰)に来ていた。


「風が気持ちいいね。……なんだか、君といると落ち着く」


「(その言い回しがすでに落ち着かねぇ!!)」


彼の隣で、ヒカリはつぶやく。


「穂高くんって……なんでそんなに優しいの?」


「……優しくしたい人がいるから。昔は、誰かに頼るのが怖くて。

でも、ある人に助けてもらって……その時から、今度は自分が誰かの支えになれたらいいなって、思うようになったんだ」


「……ええ話やん……」


「日向さんの笑顔って、見てると安心する。

だから、もっと見たくなる。もっと……君のこと、知りたくなるんだ」


ヒカリの心が一気に沸騰した。


(え、え、え、ちょっと待って!? 何この急接近! 恋愛ゲームのテンポ、早くなってない!?)


「よかったら、また……手作り、食べてくれる?」


「うんっ! ……いや、うん。全然いける」



その夜。

ヒカリの“攻略ルート表”には、穂高悠・ルート解放済の文字が追加されていた。


「やばい……胃袋と心、同時に持っていかれた……」


だが、気づいていなかった。


あのスコーンの中には──

微かに、“ピリッ”と刺激的な香辛料が混ざっていたことを。


(……それは、ただの優しさではない。

穂高くんが“独自に調合した、恋の隠し味”だった……)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ