第13話:君をヒロインにした物語──演劇部の王子は止まらない
「ふっふっふ……ふっふふふ……」
朝食のテーブルで、ヒカリが紅茶を優雅にすすっている。
「母上……父上……本日も娘は、推しとの甘いイベントに行ってまいりますわ」
「うちの子……ついに壊れたんか?」
「いや……いつも通りだな」
朝からハイテンションで恋する乙女モード全開。
両親はすでに諦めの境地にいた。
(霧島くん……橘くん……ああ、尊い。青春って……無限なんだね)
⸻
午後。自由行動時間。
ヒカリは廊下を歩いていた──そのとき!
「見つけたっ☆」
ぬるっと手を握られる。
「わわっ!? え、ちょ、誰──」
振り向くと、陽光の中でキラッと光る歯を見せて笑う男が。
如月 光
演劇部所属、自称・学園の王子様。
「お姫様、ステージに立つ準備はできてるかな?」
「いやしてないよ!? ていうか誰が姫やねん!!」
「だいじょうぶ。君のリアクション、完璧な幕開けだよ!」
そのまま腕を引っ張られ、連行されるように向かった先は──
――演劇部・練習用舞台
薄暗い照明。誰もいない客席。
だが、舞台の上には完全に仕上がったセットが!
「え、え、え、これって……」
「今日の公演タイトルは──“運命のヒロイン、現る”!」
如月がポーズを決めると、スポットライト(自動)が照らし出された。
「私、マジで帰っていい?」
「駄目だよ☆ これは、ぼくと君の二人舞台──今から君は、“この僕の恋人役”!」
「勝手にキャスティングすなあぁぁあ!!」
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──劇、開始。
「運命の出会いに導かれし、光と影の契約──
ヒカリ姫! 君に出会うため、ぼくは生まれてきた!」
「せめて台本読ませろおおおおお!!」
ヒカリが叫ぶが、如月はガチ。
「違うんだ……君の唇が、運命を動かすんだよ」
「いや意味わからん!どういう理屈で口説いてんの!? てかどこの設定だよそれ!!」
「これが、愛さ!」
観客もいない。拍手もない。
でも、如月だけは本気で恋愛劇を演じていた。
「この瞬間、舞台に立つ君は、ぼくのヒロインだ」
一歩、ヒカリに近づいてくる如月。
「そしてぼくは……君に恋をする“役”を、心から演じてる──いや、もう演技じゃないかも」
その瞬間、ヒカリの脳内に警報が鳴った。
(あっぶな!!!!!!)
⸻
数分後。
舞台裏で、ヒカリは膝を抱えていた。
「……如月くん、なにあの破壊力。てか攻めすぎ。てか、好きになりかけた」
何より怖いのは、
(あのセリフ、ぜんぶ即興だって言ってた……)
如月の恋愛感情は、演技か、演技じゃないか分からない。
でも確かに、ヒカリの心は揺さぶられた。
⸻
その夜。
攻略表の“演劇部ルート”が、見事追加された。
「……如月ルート、想像以上にハード……。
あいつ、本気で私を劇に落とし込もうとしてくる……」
だが。
(……嫌いじゃないかも……)
一人ベッドの中、ヒカリはぽつりと呟いた。