第12話:図書室で出会ったのは、“攻略対象としての”私だった
「ふふふふ……これが、青春……!」
昨日の放課後、橘くんとの甘酸っぱいイベントを噛みしめながら、
ヒカリは教室の自席にニヤニヤ座っていた。
(あの汗、あのまっすぐな瞳……うっかり“専属マネージャー”になりかけたわ)
「日向ー!」
担任の怒鳴り声に現実へ引き戻される。
「はいっ!」
「これ、図書室に返してこいー!」
ドンと渡されたのは分厚い歴史書。
“封印の古代語とその変遷”──めっちゃ重そう。
(えー……でもまあ、図書室ってなんかイベント起きがちだしな……)
そう、ヒカリの感覚は既に“乙女ゲー脳”に完全侵食されていた。
⸻
──静寂。
──紙の擦れる音。
──涼しい空気。
図書室。
(……落ち着く……イベントくるなら今……!)
返却棚に本を戻し、ふと奥の書架を覗くと、
一人の男子生徒が机に向かっていた。
霧島 冬真
文武両道、寡黙でミステリアスな“図書室の君”。
光の差す窓際で、本のページをめくる彼は──まるで映画のワンシーン。
(ふぁっ……何その儚げショット……キマりすぎでしょ……)
だが次の瞬間。
霧島の視線がふとこちらに向き──にこ、と笑った。
「来たんだ。日向さん」
(え……あっ……やば、知ってた!?)
「待ってたんだよね、“君がここに来る日”」
静かに立ち上がり、近づいてくる霧島。
「だって──君、好感度すごく高い顔してる」
「えっ……はい?」
「ううん、こっちの話」
そのまま手を取られ、机の向かいに座らされる。
「ねぇ、日向さん。君は、
“自分が誰かの好み”にどれだけ当てはまってるか、意識したことある?」
「え、な、なにいきなり……」
霧島は、自分のノートを開いた。
──びっしり書かれたヒカリの“観察記録”。
「ツインテールが似合う女子は恋愛ジャンルで王道。声のトーン、反応、仕草……全部記録してる。
君はその条件、89%満たしてた」
「……は?」
「だからね……“推しヒロイン”としては、かなり高ランク。
攻略したいなって思った。いや、もうすでに攻略中かもしれないけど」
「おまっ……きも……いや、変態かよ!!」
でも、ヒカリの頬は赤かった。
「君が他の男に“いい反応”してたの、廊下で見た。……ちょっと、嫉妬したかも」
耳元でささやくその声は、ゾクッとするほど甘くて冷たい。
「君の“好感度バー”……今、何%くらいかな?」
「……っ!」
(だ、だめだ……このタイプ、好きなやつ……)
ヒカリの脳内で好感度ゲージがガン上がりしていく。
「はあ……図書室、なんでこんな攻撃力高いの……!!」
その日。
ヒカリの“恋愛図鑑”に、新たなページが追加された。
《第2の恋:図書室の監視者 霧島 冬真》
「次は、放課後の“特別室”で、続きをしよう。
……君をもっと知りたいんだ。“ヒロイン”としてじゃなくて、“君自身”をね」
「だからそういう言い回しがズルいんだってばぁぁぁ!!」