第10話:青春×好感度×タイムマネジメント
「──それでは、ここからが高校生活1週間のスケジュールになります!」
朝礼での放送が鳴り響き、全校生徒がざわめいた。
1年の始まり、すべての部活と委員会、特別講義、イベントが凝縮された**“お試し一週間”**。
言うなれば、これは──
青春シミュレーションのチュートリアル週間!
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「ひかりー!一緒にお昼食べよ〜!」
明るく駆け寄ってくるのは、同じクラスの女子・真白。
彼女の横には、陸上部の橘くんが笑顔で手を振っている。
「君さ、転校生? よかったら午後の練習見に来る?」
(え、えっぐ。もう来た。陽キャから来た!)
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午後、図書室で静かに本を読むと──
「……読書中に話しかけるのは、ルール違反……だけど、君なら少しだけ許す」
インテリ眼鏡の霧島くんが小声でささやいてくる。
(なんで本越しにそんなドキッとするセリフ言えるの!?)
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帰り道。
校門前で、演劇部の如月くんがバラを手に立っていた。
「この花、一目見た時から──君に渡すって、決めてたんだ」
(誰のルート入ったかもう分かんない……)
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「くっ……これ以上、スカート丈を短くするなど、学園の秩序に反する!」
風紀委員の九条くんは、照れ隠しのように厳しく叱る。
(なんでその怒り方、イチイチときめくの……!?)
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「今日もお疲れさま。……甘いもの食べたら、元気出るよ?」
料理部の穂高くんが手作りスイーツを差し出す。
(包容力っ……包容力がすぎるっ……!!)
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保健室では、真壁くんが椅子を引いてくれる。
「……何かあった? その顔、少し疲れてる。君の心が、休まりますように」
(いやもう、落ちる。そろそろ選ばないと、脳が溶ける……!)
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──その夜。
ひかりの部屋。
彼女は机の上にノートを開き、
「今週のスケジュール戦略」とでかく書いた。
「……推しキャラ、ひとりに絞れない。全員魅力ある。ってことは──」
ページには、部活スケジュール・登下校時間・イベント発生日・天気予報など、
あらゆる情報がびっしりと書き込まれていた。
「効率的に、全員の好感度を上げるためには……最適解ルートを組むしかない!」
真剣な目で時間割と向き合うひかり。
「月曜午前は霧島。午後は橘。火曜朝は九条……でも如月の演劇練習は水曜か。木曜は真壁の当番日……」
──気がつけば深夜2時。
「これ、パラメータ調整も必要かも……好感度ボーダーっていくつだっけ……」
一度は忘れていた“自分の妄想が世界を作る”という力。
だが、今のひかりはそんなこと気にも留めず、
全イケメン攻略という果てなき青春の野望に夢中だった。
「このゲーム、マジ神ゲー……!」
その時。
ふと、ふとだけ。
(このままじゃ、時間足りなくない……?)
彼女の頭に、“あの方法”がよぎった。
「……明日から、ちょっと……時間、増やせたらなぁ……」
その願いは──夜の妄想の中、ふわりと形を持ち始めていた。