第9話:青春爆走!イケメンだらけの学園生活、開幕!
「はぁ、はぁ……うわっ、もうチャイム鳴るってば!」
走る。走る。
風がスカートを翻し、靴の音が廊下に弾ける。
そして──
「っとっと! ぶつかるって!」
「……どけよ、お姫様」
ドンッ!
肩がぶつかった瞬間、世界がスローモーションに変わる。
前髪をかき上げるクセのある黒髪。鋭い目。くわえたままのアメ。
──THE・不良系イケメン
「おまえみたいなフラフラしてる奴が事故るんだよ」
「へっ、ちょっとカッコよ……じゃなくて!ごめんっ!」
不良イケメンは、にやっと口元を歪め、ポケットに手を突っ込んだまま去っていった。
(なにこのイベントCGみたいな出会い……最高すぎる……)
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「日向ひかりっ!」
教室に滑り込んだ瞬間、担任の声が炸裂した。
「入学初日から遅刻なんて、どういうつもりだ!」
「す、すみませ〜んっ!」
「しかもスカートが乱れてる! 靴下は片方ずれてる! ネクタイ曲がってる!」
「てへっ」
周囲からクスクスと笑い声が上がる。
だがひかりのテンションは──まったく下がらない。
(なにこれ……めっちゃ学園感あるじゃん!!)
叱られるのも、周りに笑われるのも、**“青春イベント”**にしか思えなかった。
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「では、今日からこのクラスに転校生が来る」
先生の一言に、クラスがザワつく。
静かに扉が開いた瞬間──空気が変わった。
金髪×クール×学園王子タイプ。
完璧すぎる立ち姿、眼鏡の奥の鋭いまなざし。
「……御影レイです。よろしく」
(えっ……うっわ、こっちもキターーー!!!)
隣の席に座るイケメン転校生。
その隣で、ひかりは口元を抑えてニヤニヤをこらえるのに必死だった。
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昼休み。
体育館で行われる部活紹介。
学園ゲームに欠かせない“推し判定イベント”の始まりである。
「陸上部の橘だ! 100m走なら俺に勝てるヤツ、いねぇから!」
──陽キャ元気系・スポーツ男子
「将棋部部長の霧島です……戦略的思考を、君と共有できたら」
──静かなメガネ・インテリ策士系
「演劇部の如月。僕のヒロインになってくれるかな?」
──ナルシスト演技派・愛され王子系
「生徒会副会長の九条です。規律を守れない者は、私が許しません」
──ツンデレ堅物・風紀委員タイプ
「料理部の穂高だ。……味見、してくれる?」
──おっとり天然・包容力MAX系
「保健委員の真壁です。今日は“君の心の健康”を見に来た」
──色気ダダ漏れ・保健室の闇王子系
(うそでしょ!? 乙女ゲームのガチャ10連SSR全当たりじゃん!?)
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黄色い歓声が飛び交い、熱気と青春の香りに満ちた校舎。
まるで“画面越しにしか知らなかった”世界が、目の前にリアルに広がっていた。
「やっば……ほんとにこの世界、来てよかった……!」
笑われても怒られても、
今この瞬間が、ひかりにとって何よりも“青春”だった。