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Extra11:夕方4時。切れない縁

僕が巳芳さんと話を進め、姉さんと父さんはその間、卯月さんから持ち込まれた運送関係の話を聞く。


「…あの、巳芳様」

「ん〜?」

「一緒にいた卯月様は、一体どのようなお方なのでしょうか」

「実家が大きな商家なんですよ。卯月商店、聞いたことは?」

「存じております」

「あいつはそこの会長の孫息子をしています。あいつ自身も、服飾会社を経営しているんですよ」


…まさかそんな人物が黒服の、護衛のフリをしているだなんて思わないじゃないか。

もう一人にも、何かあるのだろうか。


「凄い方なのですね」

「でしょう?俺たちの自慢の東里ちゃんなんですよ」

「俺たち、ですか?」

「ええ。俺と夏彦、東里は高校時代からずっと馬鹿やってきた仲なんですよ」

「高校卒業後も、こうして定期的に?」

「ええ」


三人は卒業後も定期的に会い、こうして三人で出かけたり、遊んだりしている様子。

連絡が不定期になって、もう年単位で会っていない四人の友人の姿が脳裏に浮かんだ。


「少し、羨ましい」

「そうですか?」

「ええ。県外に越したり、仕事の関係でめっきり連絡をしなくなりまして」

「互いに都合が合わなくなると、なかなかってところですか…」

「そんなところです」


倉庫内に入り、作品を取り出す。

白手袋を着用し、箱の中の作品を丁寧に取り出す。

緩衝材に包まれた、細枝の様な作品。

桜の木を全て硝子細工で再現し、落ちた花びらも一つ一つ作り上げた作品。

慎重に机へ置き、後は主人となる人間との対面を遠くから眺めるのみ。


「こちらになります」

「ありがとうございます」

「こうして見ると、写真以上ですね。まさかここまでとは。タイトルは確か」

「「春の恵み」とつけさせて頂いております」


夕日に桜の花びらが透け、より幻想的な空気を出してくれる。

決められた光量の中で決まった顔を撮影するそれと、自然光の中で様々な顔を見せる作品。

倉庫内の設備でも、様々な角度から光を照射することは可能だ。


しかし、自然光に勝るものはない。


太陽の光が魅せる姿に感嘆の声をあげた彼の姿を見つめ、確かな手応えを得る。

この瞬間が、僕は好きなんだ。

自分の作品で、誰かの心が確かに動いた瞬間が…大好きなのだ。


「このまま購入手続きできます?カード払いで」

「端末をお持ちしますね」

「へえ、ここで決済可能なんだ…」

「倉庫にご案内した後に、そのまま商品を引き渡すのが常ですから」

「なるほど」


端末を操作し、決済を完了させる。

決済伝票と印紙を貼った領収書。それから手入れに関する簡単な手引き書をセットで手渡し、再び作品を箱の中へ。


「お車までお運びしましょうか」

「お願いしても?」

「かしこまりました」

「しかし…車の振動で破損とか…枝の部分、かなり細かったので」

「特殊な梱包を使用していますので、その当たりの心配はご心配なく。舗装されていない道を走らない限りは…問題ないかと」

「抱いて持ち帰った方がいいですかね」

「その方がより安全だと」

「じゃあ、そうします」


「お手数をおかけします」

「いえいえ。繊細さが見えて楽しいですよ」


いい買い物が出来たからか、楽しそうに笑ってくれる巳芳さんに釣られて、僕も笑みを浮かべてしまう。

今回も、無事に纏まってくれて良かった。


「覚〜!そっちはもう終わった〜?」

「すぴ…」

「卯月様の方も終わられた様子ですね」

「ですね〜。夏彦はまだおねむかよ…帰り自分で運転するかな…」

「本当に仲が良いのですね」

「まあ、多分これから人生の転機が訪れても、なんだかんだで三人馬鹿やるんだろうな。互いの葬式まで出そうだなとは思っています」

「そこまで…」


「俺たちは、そういう縁で結ばれているから。今世も、前世も」

「…前世も?」


「すみません。忘れてください。ま、一つ言わせて貰うことがあるとしたなら…忙しいなとか考える暇があるのなら、とりあえず連絡を取ってみるんですよ。よっぽど希薄ではない限り、貰って嫌がる人間なんていませんから」

「アドバイス、ありがとうございます」

「これぐらいアドバイスにはなりませんよ」


そうして、二人と合流した巳芳さんに作品を手渡し…彼ら三人の帰りを見送る。

父さんと姉さんと並んで、やっと大きく息を吐き…気を落ち着かせる。


恵みの嵐は去り、普段の工房に残った。

置いていったのは、確かな転機。

彼との出会いが、この工房に確かな変化を呼び込んだと語ることになるのは、数年後の話。

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