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Extra7:昼12時。言いたいことは、ちゃんと伝える

テレビを見ながら、用意していた冷凍食品をレンジでチンして作り上げる。

ちなみに本日の昼餉は…。


「冷凍うどん、もちもちでいいよね…」

「なぜこんなにもちもちなんだ・・・」

「もちもちなものってことでいいじゃない…」

「もちもち…」


本日の昼餉は冷凍うどん。出汁粉末を入れただけの簡単なご飯。

成海が妙に不機嫌なのは、手抜きの中の手抜きだから。


「新菜にこんな半端なご飯を食べさせるなんて…一生の不覚…」

「一人暮らしをしていた時は、こんなの普通に作って」

「そんな…」

「ほらほら泣かないの。健康に気を遣ってくれているのはよく知っているから。今日だけ今日だけ。ほら、あーん」

「あー…あ?」


お箸でさりげなくうどんを運ぶと、無意識なのか成海の口が大きく開けられる。

うどんを口に入れた瞬間、不思議そうな顔をしながら口を閉じて…咀嚼を始める。


「んむ…」

「どう、おいしい?」

「美味しいけど…凄く小麦」

「素材の味なんだね。出汁粉末足しとく?」

「新菜がそれでいいなら、そのままで良いと思うぞ」

「じゃあ、そのままにしておくね。私はこれでちょうどいいから」

「そうしてくれ。新菜の分なんだから…というか、出汁は互いの好みであること以外、食べているものは同じじゃないか。食べさせ合う事なんて…」


「やだな成海。あーんを毎日する夫婦はね…」

「夫婦は…?」

「寿命が三年延びます」

「そんな「いつもいってきますとただいまのキスをする夫婦の寿命が長い」みたいな…」

「あーんもあるんです!」


「そうか。じゃあ毎日しよう」

「だね〜」


…申し訳ないけれど、成海。私は今切実に不安になったよ。

毎日食べさせあいっこしていれば寿命が延びるなんて話、言ってなんだけど聞いたことないよ。

成海、ゲームにも疎ければネットにも疎いから「○○したら○○なんだよ〜」みたいな話を私がしたら、簡単に信じ込んでしまうのではないだろうか!?

はわわ。やっていてなんだけど、私の責任ってもしかして重大?はわわ。


「どうした新菜」

「私が成海を情報社会からちゃんと守るね…!」

「この話のどこからそういう流れになるんだ?ほら、新菜。口を開けて」

「いいけど…」

「あーん」

「あ〜んっ!」


…自分で言ってなんだけど、これを毎日か。

凄く恥ずかしいな…。


「あれ?成海のは少し味濃い?」

「お互いに味の好みの差があるんだな…」


食べていて気付いたけれど、私は少し薄味。成海は少し濃いめの味が好きらしい。

けれど本当に微妙な差。メモリが一つズレているぐらいの差だ。

こうして同じものを自分好みで食べていなければ気付かなかったし、最悪気付いていない可能性だってある。


「僕が作っているご飯、新菜には味が濃すぎて…」

「そんなことないよ?成海がいつも作るご飯美味しいよ?」

「無理は」

「してないね」

「それならいいんだが…」


「本当に微妙な差なんだよ。同じぐらいだけど、若干ズレているぐらいの」

「なるほどなぁ…でも、なんで気がつけたんだろうか」

「出汁の差以外同じものを同じタイミングで食べたからじゃないかな」

「そっか。じゃあ、今まで通り作るけど、新菜はそれでいいか?」

「問題なし!」

「ああ。これからも毎日力を入れさせて貰う」

「楽しみにしているね!」


本当なら、専業主婦になるんだし…食事も私が作った方がいいのではないだろうか。

いや、成海が作りたいというのならその意思を尊重しよう。

成海が何かをしたいと主張することは、かなり珍しいと聞いている。

お義父さんだけでなく、一海さんや美海ちゃんも年に一回ちゃんと主張したかどうか怪しいレベルらしい。

そんな彼の要望は、できるだけ叶えてあげたい。


でも、一応確認しておこうか。

これから、成海がどういう考えで動くのか。


「そういえばさ、成海」

「どうした?」

「私さ、専業主婦になるけど…料理はこれからも成海が作るの?」

「そのつもりでいた」

「当番制ではなく?」

「今まで通り三食。昼は今までは弁当だったけど、新菜はこれから家にいるし、これから作り置きかな」


「それ成海に滅茶苦茶負担がかからない!?」

「工房は徒歩十分圏内になるし余裕余裕」

「仕事しながらだよ!?」

「料理は趣味だから…息抜きみたいなものだよ。気にしなくていい」


「でもさぁ…私だって、成海に教えて貰った料理の技術があるわけなんですよ」

「うん」

「今までは仕事が忙しくて甘えていたけれど、これからは家で成海を支える立場になるんですよ」

「支えるのは、お互いに変わらないぞ」

「それでも、成海が私に食べさせたいなって思うぐらい…私だって成海に手作りのご飯、食べて欲しいんだよね」

「新菜…」

「…だからさ」

「わかった。それなら」

「「一緒に作ろう」」


声も気持ちも重なって、形になる。

考えてくれることは、同じになった。

互いに顔を見合わせ、笑い合う。

そしてこれからの話を、続けていく。


「じゃあ、引っ越してからはなるべく一緒に作ろうね」

「ああ。帰りが遅くなるから、夜は難しくなる日が多いかもだけど…」

「じゃあ、夜は私が作って待ってる」

「帰りが俄然楽しみになった」

「でしょ。期待してて待っていてね」


言いたいことはちゃんと伝える。

こういう時はすんなり言葉にしてくれるけれど、気持ちや欲に関しての話は全然だ。

この調子で、引き出していけたらいいのだが。まだまだ道のりは遠そうだ。

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