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Extra5:朝10時。一緒にやるのが一番なんだ


「さて、まだまだ荷造りを・・・あ、これ」


テレビ付近の荷造りを開始していくと、布をかけられたゲーム機が出てくる。

私もあまりゲームはやったことがなかったけど、簡単なゲームなら成海と一緒に楽しめるかなって買ってきたんだよね。


「成海〜!ゲーム出てきた〜!swatch!」

「珍しいのが出てきたな・・・」


けれど、みての通り・・・埃が被る程度には触っていない。

それもそうだ。私もがっつりやるタイプではないし・・・成海はもっとやらない。

なんなら、腕前は・・・。


「ちょっとだけ一緒にやらない?」

「・・・まあ、準備ばっかりしていると気が詰まるし、息抜きしようか」

「じゃあ、とりあえず入っていたソフトで遊ぼうか」


テレビにゲーム機を繋げ、本体の電源をつける。

リビングにやってきた成海にコントローラーを手渡し、ホーム画面からゲームを起動させた。


「何が入ってた?」

「マリモカート」

「・・・あれか」


硝子の様な水色が、若干曇りを覚える。

曇天堂swatch・・・名前に反し、数多の人間を笑顔にさせてきたゲーム機。

ただ、成海の目だけは、その名の通り曇天模様にさせてしまうらしい。


◇◇


軽快なBGMと共に、エンジン音が響き渡る。


「あ、マリモが出てきた」

「それ、使うと速度がアップするよ」

「なるほどなるほど。じゃあこれを・・・」

「成海、せめて前を向いてから」

「よいしょ」

「逆噴射!?」

「ところで、さっきから変な音しないか?ぶいーんみたいな・・・」

「それはね、成海が逆走してるよって、教えてくれている音だよ」

「今までずっと逆走していたのか!?」


敵のレベルは「よわい」に設定して、のんびりやっているのだが・・・。

分割された画面の左側は最前を、右側は最後尾を走っている。


「・・・」

「成海、また右折にあわせて身体が右に傾いてる」

「あ、またか・・・」

「無意識?」

「みたいだな・・・。普通に運転してもならないのに・・・なんで」


このゲームを軽くやったのは、成海が免許を取る前の話。

普通に運転するようになった今、運転中に身体が傾くことはないのだが・・・

なぜかゲームの時だけ傾く。

滅茶苦茶傾く。

面白いぐらいに傾く。なんならたまに倒れる。


「動きに釣られるのかな?」

「かも・・・?」

「原因がわからないし、別のゲームにする?こっちの「みんなの遊び録」とか、普通に遊べていたしさ」

「んー・・・時間も時間だし、もう準備を進めるよ。後もう少しで終わるから、新菜は続けていていいぞ」

「・・・でも」


成海は小さい頃からこういうゲームに触れたことがないらしい。

それよりも夢中になっていた事があるから。

加えて、一海さんと美海ちゃんもそこまで興味を惹かれなかったらしく、楠原家はゲームに触れたことがない状態でいたらしい。

携帯ゲームも、パソコンゲームも、テレビゲームもやらせないではなく、やらない。

そんなご家庭が現代にあるなんてびっくりだったけど。実在しているらしい。


幼少期から今まで唯一関わり続けている友人の陸君もおそらく何度かゲームをやらせたのだろう。

しかし成海がレースゲームをやらせれば身体が傾き、RPGをやらせたら、移動中も歩き出す・・・何というか、動きが無意識に反映されてしまうタイプと気付いたのだろう。


付き合い始めたと知った数日後、奴は大量の「成海に関する報告書」を送りつけてきた。どこまで繊細な生き物だと思われているんだろうな。”私の”成海・・・。

その中に「成海にゲームはやらせるな」と、記載もあった。


他にも「俺が成海の一番の理解者」だと言いたげな注意事項が送られてきたけど、内容は全部忘れた。

その報告書は、”私の”成海の名誉の為にも、即日削除してやったから。


注意事項に書かれるような事項はゆっくり解消したら良いだけだし、なんなら成海本人から聞き出すし。

今の成海の一番の理解者は私であるべきだからね・・・。たかだが幼馴染にそんな立場、譲るわけないじゃん・・・。

立ち去ろうとする成海のシャツを掴み、引き留める。


「一緒にしよって、言ったじゃん・・・」

「っ・・・」

「一人じゃ、意味ないよ?」

「・・・それは、そうだけどさ」


「じゃあ、一緒に・・・続けてくれる?」

「・・・あまり、操作を求められないのがいい」

「じゃあ、遊び録にしよ。オセロがいいかな」

「テレビゲームでアナログゲームって・・・いや、簡単操作だし、大丈夫だよな・・・」


再び隣に腰掛けて、コントローラーを握りしめてくれる。

私はソフトを変えて、簡単なゲームを起動させる。

どんなに苦手だっていい。

出来ないことが多くたっていい。

出来る範囲で、一緒にできることを楽しめる事が一番なのだ。


「えっと、右の操作って・・・」

「このボタンだよ、成海」

「ああ・・・そっか。ありがとう、新菜。これで、よし」

「じゃあ次は私の番だね。じゃあ、ここに置こうかな」

「僕は・・・ここに」

「わ、逆転された」

「へへ〜」


子供でも、こんな操作に手間取ったりはしないだろう。

けれど・・・「一緒に」を大事にして、苦手な事でも一生懸命にやってくれる。


「やっぱり、成海はいい人だね」

「ん?そんなことはないって、前にも・・・」

「ううん。結婚できてよかったなって、心から思うぐらいにいい人だよ。最高だね、成海」


何もかも、私のものにできてよかったなって思うのだ。

相変わらずな独占欲はしっかり私の中だけでしまっておく。

成海に見せたら、きっと怖がるどころじゃ済まないだろうから。


「新菜・・・」

「これからも、末永く一緒にね」

「・・・ああ。勿論だ」

「さ、続きをしていこうか。これが終わったら、どれにする?」

「んー・・・新菜のおすすめ。僕は全然分からないから」

「じゃあ、次も私が選ぶね」

「よろしく」


息抜きはちゃんと息抜きらしく、時間は過ぎていく。

こなれてきた頃、私のお腹が鳴り出して、互いに顔を見合わせて笑い合う。


「ご飯作ろうか」

「じゃあ、それも一緒にね」

「ああ」


成海は先に台所へ。私はゲームの電源を落とし、片付けた後・・・段ボールの中に入れ込む。

続きは、新居で。

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