Extra2:朝7時。伝えたいことは、ちゃんと伝える約束なので
あれから一時間ほどゴロゴロした後、きちんと起床する。
成海が作ってくれた朝ご飯を・・・たべ・・・て。
「ねえ、成海」
「どうした新菜」
「今日の朝ご飯は私の当番じゃないかな」
「いいじゃないか。誕生日なんだから」
「子供ならともかく、二十四にもなって・・・」
「いつまでも、誕生日は大事にするものだと・・・僕は思う」
「うっ・・・」
他の誰でもない、成海が言うから説得力が増す。
自分のお母さんが亡くなった日が、自分の誕生日。
そんな彼が、誕生日を大事にして欲しいと言うのなら・・・聞かないわけにはいかない。
「それに」
「?」
「大人になったからこそ、甘える理由を探したくなるものなんだよ」
私の前に朝ご飯を置きつつ、何か良い感じのことを言ってくる。
あ、今日の味噌汁。白菜とあさりだ〜。冷凍庫にあったのを適当に入れたって感じ。
いつも凝っている料理を作る成海の「朝は楽をしたい気持ち」がにじみ出ていて、これはこれで好きなんだよな〜。
「甘えるのに理由を探しているのは、成海だけじゃないかな?」
「・・・とにかく、今日は沢山甘えてくれて」
「いつも甘えてるよ?」
「いや、僕の方が」
「全然だよ。成海はもっと私に甘えるべきだね」
「これ以上甘えたら・・・溶ける」
「溶けていいよ」
「・・・これ以上は、ダメダメになってしまう」
「ダメダメのデロデロな成海君もありだよ!」
「・・・それはダメ。絶対に」
「どうして?」
「・・・たまに考える。新菜の言葉をそのまま受け入れることは簡単で、それを受け入れた未来だって、悪くはないと思う」
「最高なものにするよ。保証する」
「でも、僕は・・・君を自分で笑わせていたいと思って、気持ちを伝えた」
「そうだね。そう言っていたね」
八年前。高校一年生の夏休み。気持ちを伝えてくれた時に、そう言っていた。
「付き合う中で、新菜もちゃんと弱いところがある人だって知れた」
「それは忘れて欲しいなぁ」
「そんなことはできない。今だって一人で寝られない程に寂しがり屋な君が泣かないようにするのも、僕が君の為にしたいことだ」
「むぅ」
「それ以外にも色々と怖いものがあるだろう。そんな君を支えたいと思って、一緒に住む提案をしたし・・・これからも一緒にいたいと思えたから・・・」
「わかった!わかってるから!」
「いいのか?これ以上も言わなくて・・・」
「言わなくても分かることはあるの」
「いつもは言ってくれなきゃ、わからないって言うのに」
「それは成海が全然言葉にしないから。ほら、朝ご飯冷めちゃうよ」
話を無理矢理終わらせようとするが・・・成海は笑顔で私のご飯をおぼんごと取り上げてくる。
彼はまだ、話を終わらせる気がないらしい。
「冷めても美味しいぞ。味噌汁は熱い方が良いかもしれないが」
「ぐぬぅ・・・!?」
「話は終わってない。ご飯はその後な」
「・・・どうしてここまで」
「新菜が「伝えたいことはちゃんと伝えて欲しい」って言ったし、僕はそれに対して「そうする」約束をしたから」
「・・・そ、それは今、無効でいいから!」
「よくない。なぜ避けるんだ、新菜」
「ま、前にも言ったと思うけど・・・」
自分が攻める分はいい。いつものこと、慣れていることだから。
けれど、成海が意志を持って攻めてくるのには慣れていない!
いつもは受け身の成海が、こうして攻めてくる。
そのギャップにやられ、一方的にやられてしまうのが常。
今日もまた、敗北に加算されるらしい。
机にお盆を置き直した成海は、座ったまま私の背後に忍び寄る。
もう、されるがままにしかならない。
膝に座るように促され、借りてきた猫の様にされるがまま。
私はちょこんと、膝の上に腰掛けることになってしまう。
「これからも一緒にいたいと思ったから、僕の人生と「あれ」を贈った」
「そうだね。私の人生も、背負ったというか、膝に載せたね。いただきます」
「はい。どうぞ」
さりげなくお茶碗とお箸に手を伸ばして、ご飯を食べ始める。
・・・いいんだ。
このまま、食べていていいんだ・・・。
「最近、膝に載せたら新菜の反応があっさりめ・・・」
「・・・ズルいことをしている時の顔、見ずに済むからね」
なかなかお目にかかれないその顔こそ、効果的なのに・・・成海は全然分かっていない。
攻めることが増えたけれど、攻め方はまだまだ心得ていない。
・・・一生心得なくていい。たまに程度でいい。
ずっとされるのは、心臓に悪いから。




