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Extra1:朝6時。ぎゅーっと、されたいお年頃

5月17日。少しだけ冷える朝。

今日の天気は晴れらしい。自室に差し込む朝日がそう教えてくれる。

そんな今日は、私の誕生日。

最も、こうして大人になった今、誕生日にいちいち喜ぶ歳ではないし・・・。

何なら、また老けたな・・・。なんて思う様になったし・・・。


「・・・」


・・・顔の小ジワは、増えていないだろうか。

二十代前半とはいえ、半分には片足を突っ込み始めた。

・・・お肌の事が気になったりしちゃうのだ。

両頬をむにむに触れて、張りを確認する。

・・・多分、まだ、十代と変わらない・・・と、思いたい。


「んんんんっ・・・!」

「・・・にいな?」

「はっ・・・!」


小さく呻き声を上げたと思ったのだが、意外と室内に響いていたらしい。

隣で寝息を立てていた彼を起こす結果となってしまった。


「・・・んーんー唸ってどうした?黒いのでも出たか・・・?」

「ごめんね成海。起こしちゃったね・・・大丈夫。何も出てない」

「・・・偶然起きただけだ。何も出てないならいいんだ・・・ぐぅ」


そうは言っても、頭はまだぐわんぐわんと交互に揺れて、鼻提灯が出かかっている。

鼻提灯を出して寝ている人っているんだ・・・。


「それに、またカーディガンを着て寝たの?昨日そんなに寒かった?」

「ふつう・・・」

「普通なら、そのまま寝ようよ」

「・・・」


成海の顔がむっ、と顰められる。

どうやら、とっても嫌な話らしい。

彼が顰めっ面を浮かべるのは非常に珍しい。

成海は寒がりだから、少し暑さを感じる今でも長袖を好んで着用する傾向にある。

寒がりには、今の気候はまだきついのだろうか・・・。


「嫌なの」

「・・・やだ」

「どうして、やなの?」


子供に聞くような口調になっているのに笑いがこみ上げてしまう。

仕方ない。寝起きの成海は、小さい子供のような受け答えが多い。

普段、子供扱いをすると普通にふてくされるけれど、寝起きの時は別。

寝起きの成海は素直に答えてくれる。


「だって、新菜にぎゅーってされてる気がして」

「・・・」

「どうした、新菜。急に抱きついて」

「抱きつかれたい人がすぐ側にいるのに、抱きしめてとは言わないんだね、成海。カーディガンで我慢しちゃうんだ・・・?」


急に抱きついた私の腕に触れて、顔を静かに傾けた。

ゆっくりと私へ向かって体重をかけつつ、私の肩に頭を添える。

自分とは異なる、堅さを持つ髪が首筋に触れて、くすぐったいけれど・・・嫌じゃない。


「そういうの、よくない?」

「よくない。非常によくない。ちゃんと言葉にしてくれたら、嫌というほど甘やかすのに。素直さが足りないよ、成海」

「でも、普段は僕が新菜に背後から抱きついて寝ているから・・・新菜が分裂しないと、無理じゃないか・・・?」

「・・・」


言われてみれば、いつも成海は背後から抱きつく姿勢で眠っている。

私が抱きしめられる側。彼の背中は、常にがら空き。


「・・・じゃあ今日から成海を抱きしめながら寝ようと思います」

「いつもの姿勢から変えて、違和感ない?」

「成海が抱きしめて矯正して」

「・・・わかったよ」

「あ、そろそろ起きた?」

「話している間に起きた。おはよう、新菜。今日もいい天気だな」

「だね。おはよ、成海」


寝ぼけていた彼も、話している間に普段の調子を取り戻したらしい。

さりげなく私の肩から距離を取ろうとしたけれど、腕に力を込めて・・・そのままの体勢でいて貰う。

起きたのなら、やることを果たそうじゃないか。


「じゃあ早速おはようの・・・」

「その前にやることがある」

「何?トイレ?おはようのキスの後にして」


「いや、そうじゃなくて・・・今日は、新菜の誕生日だから。おめでとう」

「ありがと・・・で、なんでこんな朝一に」

「本当は日付が変わったと同時に言いたい気持ちはあったんだが・・・」

「いつもやるもんね」

「今日は、用事で帰ってきたのが深夜の一時。新菜はもう寝ていたし、起こすのも忍びなかったから・・・なんだかんだで言えず仕舞。なら、起きて最初に言おうって決めていて」

「律儀!好き!ちゅ!」

「ん」


勢いで日課のキスを終え、今度は私が成海に抱きつく。

まだまだ、起きて活動開始・・・には、ほど遠いらしい。


二十四歳の誕生日。

私達の新生活が始まる少し前。

籍を入れた直後ぐらいの、変わりないけれど・・・特別な一日の幕開けだ。

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