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29:母親の作品

室橋先輩と共に、工房と売店の合間にある事務所へと案内される。


「や、二人とも。今朝は早いね」

「お父さん軽過ぎでしょ…真面目にやって」

「これでも真面目なんだけどな…」


部屋に入った瞬間、朗らかな笑みで出迎える成海君達のお父さん。


「改めて、楠原海人です。楠原硝子工房三代目工房長をやっています。夏休みの間、よろしくお願いします」

「「よろしくお願いします」」


「一海から軽く紹介があったかもしれないけれど、今回の参加者は二人。互いに自己紹介をお願いできるかな」

「室橋浩樹、三年です」

「遠野新菜です。一年です」

「へぇ、一年。お互い、頑張ろうね」

「はい!」

「仲良くやってね。設備や仕事は一海に教えて貰って。後は頼めるかい、一海」

「言われなくても。二人とも、ついてきて」


海人さんに挨拶を済ませた後、売店裏にある更衣室兼休憩室に案内される。


「二人だと休まらないでしょ。新菜ちゃん、うちのリビングで休んでいいからね。美海がいるけど、ま、そこは…」

「美海ちゃんとお喋りするの、楽しいですから大歓迎です。お邪魔させていただきます!」


「楠原さん、俺は」

「あんたに我が家の自宅スペースに入れる程の信用は無いわよ」

「そうですか…」


「朝から電柱に張り付いて私や我が家の動向伺うのを辞めたら、考えてやるわ」

「え、でも…朝から気怠そうに小学生のラジオ体操を眺めている楠原さんを見るのは絶対にやめられないというか…」


「…あんたいつから電柱に張り付いてんのよ」

「それは心外だよ。あの公園の前に青い屋根の家があるでしょ」

「あるわね」

「あれ、我が家なんだよ。朝、ラジオ体操の音源で起きる俺の気持ちにもなってよ」

「そ、そう…なんかごめん」

「…すっぴんの楠原さんも可愛いね」

「あんたよくデリカシーないとか言われない?」

「よく言われるよ」


…どうやら、電柱に張り付いたり、窓に張り付いたりして一海さんの動向をうかがっている人らしい。

一海さん以外には無害そうだけど…休憩中、話してみようかな。

第一印象で、危ない人と決めつけるのはどうかと思うし…。

ダメそうな人だったら、楠原家のリビングへ継続的にお邪魔させていただこう…。

上級生と関わる機会は限り無く少ない。

できれば、良好な関係を築きたいものだが…どう転ぶだろうか。


「荷物は空いているロッカーに入れて。それから二人ともこれつけて。うちの売店さんがつけてるエプロン」

「可愛い…」


巣箱に入った小鳥がひょっこり顔を出したロゴ。

これが楠原硝子工房のロゴらしい。可愛い。

制服にエプロンを着けるだけで、着替えは完了らしい。


「うちのお婆ちゃんが描いたんだよ。可愛いでしょ」

「色付き、あるんですか?」

「あるよあるよ〜。実は小鳥、硝子製なの」

「硝子の小鳥…!」


一海さんがスマホで見せてくれたのは、ロゴに彩色が施されたキャンバスと、隣に並べられた、二人の写真。

小さい男の子と、楠原三姉弟の皆によく似た女性。

男の子は大人しく抱きかかえられたまま、ロゴと同じ硝子の小鳥を持っている。

もしかしてこれが、元ネタなのだろうか…。


「それ、小さい頃の成海と、うちのお母さん」

「やっぱり!三人と似てるなって思って!」

「私は小さい頃、美海は今もなんだけど、硝子に興味なくて…でも、成海はいつも興味心身で、大人しくしていることを条件に、お母さんが作業している様子を見に行ったりしてたの」


「三人のお母さんは、職人さんだったんですか?」

「ええ。有名だったみたいで、求人出したら「楠原透さんのような職人を目指して〜」なんて人もよく来るし…」


一海さんは写真立てを手に取り、物寂しげに小さく笑う。


「でもね、それはお母さんの技術で才能だったの。製法が分かったところで、誰にもそれを再現なんてできないの。成海が持ってるこれとかね」

「…虹色に輝く、小鳥ですか?」

「そう。でもね、それ…ただの透明な硝子なの。色は全く使っていなくって…でも、どうやっても、虹色になる。魔法みたいにね」

「…凄い」

「でも、おじさんが大半を回収しちゃってね」

「またですか…」

「…そのおじって何者なんだい?」

「ああ、室橋には話してなかったわね。後でメッセ送るから。小説のネタには使うな」

「内容次第」

「す・る・な」


一海さんと室橋先輩は、仲良しなのかそうじゃないのかよく分からない。

けれど、その距離感の近さは友達だけど、友達っぽくなくて。

少しだけ、羨ましいなと思ってしまった。

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