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24:吹上さんはだらけたい

「あ、成海氏だ。どしたのこんなところで…」

「どうしたのはこっちの台詞だよ…なんでこんなところに」

「追加の課題が想定以上にでちゃってね…で、補習でしょ?」

「ん」

「昨日親にバレてさ。こってり絞られた」

「あぁ…」

「色々積み重なって、嫌になって…」

「それで廊下に寝そべってると」

「そういうこと」

「…いや、汚いだろ」

「それは私も思う」


吹上さんは「ん」と両腕を僕の方へ伸ばしてくる。

腕を引いて、起こせということだろうが…。


「起きるの怠いから手伝って〜」

「だと思ったよ。ほら」

「ありがとなるみし〜」


差し出された両腕を引っ張るだけでは、吹上さんの腕に負荷がかかるだろう。

関節が伸びたりしたら大変だし、ここはちゃんと支えるべきだ。


「…おや?胴体支えてくれるの?」

「腕に負担はかけられないだろ…」

「とかいいながら、まさぐりたい欲が見えている…」

「ここに放置して帰っていいんだね」

「ごめんだから起こして」

「はいはい」


しゃがみ込んで、ちゃんと背中を支えて吹上さんを起こす。

立ち上がらせる時は、腕だけ引いた。

ちゃんと廊下に立ち上がった吹上さんはスカートや制服をパタパタとさせて、ゴミを落とした後…改めて向き合ってくれる。


「ありがと、成海氏」

「いいってこれぐらい」

「歩くのダルダルだからおんぶして」

「置いていくね」

「冗談だって」


軽い足取りで、ひょこひょことついてきてくれる吹上さん。

行先は同じだ。別々に帰る理由はない。


「補習、大変そう?」

「補習もだけど、それ以外の日に入れられたオンライン鷹峰塾の方が大変そう。どうせお前宿題放置するだろ。監修するからこの時間に連絡取れるようにしろって言われた」

「陸は面倒見良いなぁ…」


昔から面倒見が良かったが、まさか僕以外の人にも至れり尽くせりだったとは。

まあ、吹上さんからしたら良い迷惑だろうけど…。


「親にも連絡して外堀固めてきたのは本当に憎たらしい。どこから私の自宅連絡先を入手したんだろう…」

「その疑問は、僕にでも答えられるよ」

「ほんと?なんでなんで?」


「吹上さんさ、鞄につけてるマスコット…迷子防止なのか自宅連絡先が書いてあることに気づいてる?」

「そうなの?小学生の時からお母さんに持たされていたのをずっとつけてるから…そっか。そこから連絡先を…」

「物持ち凄いね…」


「あのマスコット可愛いでしょ?大事にしてるの」

「何か、特別な贈り物だったりするの?」

「ううん。誰かから貰ったとか、お下がりとかそういう物じゃないよ」

「そうなんだ…」

「でも、どんな物でも、大事に使ってあげなきゃ、可哀想でしょ?」

「…そうだね」

「私が物を買い換える時は、壊れた時だけ。壊れたら、できる限り修理して…それでもダメだったら…さようなら」

「…」


「成海氏はどうなの?」

「僕も同じ感じかな…。家計の負担とか、なりたくないし」

「偉いね。私と一緒だ。買い与えられているものだから、そういう発想になるよね」

「だね」


教室に戻り、話し込んでいた三人と合流する。

一瞬だけ、新菜さんの視線がこちらに向けられる。

何となく、困ったような視線を浮かべていたのは…気のせいだろうか。


「…あ、あの、楠原君」

「どうしたの、遠野さん。何かあった?」

「どうして、そう…」

「いや、なんか困っていたように見えたから…」

「そんな風に…ううん。明日の件で再確認したいことがあるの。今時間良いかな」

「勿論。じゃ、吹上さん。明日からの補習頑張って」


「見捨てるんだ。薄情な。成海氏、私に付き合ってよ」

「ちゅき…!?」

「…「どこに」付き合えばいいのか、教えてくれる?」

「補習」

「ごめん。家の事があるから。丁重にお断りさせていただくよ」

「むう。成海氏のいじわる」

「「「意地悪では無いな」」」


僕の声に重ねて、渉と足立さんもツッコミを入れてくれる。

吹上さんはふてくされたまま、机の上に伏せてしまった。

…今は、何も声をかけられない。

吹上さんの事は置いておいて、新菜さんの方だ。


「遠野さん、それで、確認したい事って…」

「…付き合ってって、そういう」

「遠野さん?」

「う、ううん!何でも無いの!あ、明日の集合時間、再確認なんだけどね…」


焦ったように言葉を紡ぎつつ、明日のことを確認してくる。

彼女の問いかけは、大事な事だからちゃんと答える。

しかし、何度も確認してしまう程…緊張しているのだろうか。


明日から夏休み。

新菜さんのバイトも始まる。

明日は肩の力を抜いて過ごす事が出来れば…。

いや、肩の力が抜けるよう、サポートに徹するのも僕の役割だろう。


不安げな姿は、彼女には似合わない。

彼女がいつも通り笑えるように、手を尽くしていこう。

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