19:父と友達
求人募集を高校にかけてから一週間。
面談の日がやってきたのだが…。
「一海と成海から聞いてはいたが、多いなぁ…」
「希望者が多かったので、学校側でも書類選考で落としたのですが…」
「それほど、うちの娘って人気者なんです?」
面接に来た俺は、校長先生と物陰に隠れながら面接待ちをしている生徒達を眺める。
意外と男子生徒が多い。女子生徒はいないと言うわけではないが…思ったより少ない。
この応募人数だったら、もう少し枠を増やしても良かったかもしれないな。
これも何もかも、一海のネームが売れているおかげなのだろうか。
校内のあの子が何をしているかまでは、流石に親の立場では分からない。
「ですねぇ。一目置く立場と言うこともありますが、思ったことはズバズバ言ってくれるでしょう?学年で発生した問題も色々と解決してくれておりまして…」
「…そのせいでよく揉め事も持ってくるのですが、上手く作用したのですね。しかし、娘は何を?」
「うちの学校には「小説家にならんか」というウェブ投稿サイトから作家デビューを果たした生徒がいましてね。その生徒が教室で設定を練っている際に、クラスメイトにその設定を朗読されるという…」
「えぇ…」
「内容は伏せさせていただくのですが、青少年が読むような話なので、言い方はあれなのですが「むふふ」なシーンもあったようで…」
「ひぃぃぃ…!」
想像しただけで鳥肌が立つ。
自分の妄想を大衆の前で朗読されるってだけでも嫌なのに、ましてやそんなシーンを…!
朗読した奴、人の心なさそうだな…。うちの子達がそんな馬鹿に育たなくてお父さん嬉しいし、安心したよ。
「その朗読を止めたのが、一海さんなんですよ」
「…ぼ、暴力で?」
成海と喧嘩した時、一海はすぐに暴力が入るので、こういう揉め事の解決も口頭で解決したとは理解していても、瞬時に暴力が出てきてしまう。
「流石にそこまでは…お呼び出しもしていないでしょう?安心してください」
「そうですよね…よかった。で、その被害者の子は?」
「今も元気に登校していますよ」
「大丈夫なんですか?この高校、三年間クラス替えがないと聞いているのですが…」
「流石に、事情が事情ですから加害者の子はクラスを変更しました。それでも心配していたのですが、本人からも「敬愛させていただいている神…いえ、一海さんがいるなら卒業まで毎日登校頑張ります!」と…」
「うちの娘、なんか宗教でも作っているんですか?」
「それほどの影響力がある人ということですよ。今年から弟さんがご入学されていますよね。例の件以外は目立った話を聞かないのですが…」
「成海は穏やかな子ですから…。色々抱えている子ではあるのですが、親としては一海みたいな破天荒な子より、成海みたいに落ち着いてくれた方が安心ですよ」
「ですねぇ…」
「そろそろ時間ですし、始めましょうか」
「ええ。私もついていますから、じゃんじゃん進めていきましょう」
「お願いしますね、校長先生」
進行は校長先生に任せ、俺は仕事に取りかかる。
さて、一海の指定では「遠野新菜」と「室橋浩樹」って子らしいけど…。
一海さんや、この室橋って子が、校長先生が話していた子なんですかね。
もしかして立場を利用して脅したとか…いや、流石にそれは娘への信頼感がないな。
うちの一海さんは優しい子。
でも…お父さんは、一海が余所のお子さんに何をしているか切実に心配です。
◇◇
校長先生の進行で淡々と進む面接。
どいつもこいつも志望動機が薄すぎる。まあ、学生ってそんなものだろうとは思うけど…。
なんか、こう…もうちょっと下心隠せよ…!
一海の話題になるとどいつもこいつもにやつきがやって…目の前にいるのが誰なのか分かってんのか!その一海の父親だぞ!?
娘に変な態度を向ける男なんて近づけるか!しっし!
「さて、次は…遠野さんですね」
「こういっちゃ何ですけど、女の子来ると安心しますね…」
「今の今まで娘さんに変な目を向けている野郎でしたもんね…」
「次からは大丈夫でしょうね。では、早速初めて行きましょう!次の方!」
ここまで来るのにストレスがバリバリだった。
やっと本命が来てくれたので一安心。
成海の友達らしい遠野さん。
一海だけでなく、美海の反応も良好だが…果たしてどんな子なのだろうか。
「失礼します」
室内に入ってきたのは、ウェーブのかかったロングヘアを靡かせた女の子。
身なりはよし。面接対策とかしていない一年生なのに、三年と二年の馬鹿共と比較すると、上手くやれているのではないだろうか。
「では、名前をお願いします」
「は、はい!遠野新菜と申します。よろしくお願いします!」
「はい。では、座ってください」
「失礼します!」
たどたどしいが、いい緊張感だ。
こういうのだよなぁ、面接って。
「志望動機を聞く前に、一ついいですか?」
「は、はい!」
「一年生って、まだ面接対策の授業はやりませんよね。どこで?」
「は、はい!面接を受けるにあたり、先生にお願いして対策を講じていただきました」
…つまり、わざわざか。
なるほど。真面目な子だ。
成海は懐くし、一海と美海も安心できる人柄らしい。
「へぇ…そこまでしてうちでバイトしたいって思ってくれたんですね。では、動機を聞かせていただいても?」
「はい。今回、募集がかかった長期紹介バイトは基本的にバイトが禁止となっている高校内で許された貴重な社会経験を積める機会なので、私自身の今後の為にも働く経験を積みたいなと思い、応募しました」
「んー。それって、ここで無くてもいいですよね」
「うっ…」
隣に腰掛ける校長先生から「意地悪だなぁ」と言わんばかりの視線を向けられる。
少しは良いじゃないか。
一瞬だけ狼狽えるが、答えは用意しているらしい。
聞かせて貰おう。
「僕は、ここを選んだ理由を聞きたいです」
「…はい」
遠野さんは何度か深呼吸をした後、ゆっくりと答えを紡ぐ。
まっすぐ、前を見る。
何となく、若かりし透さんの面影を感じてしまった。
「私は、この春この土地にやってきました。知り合いは誰もいない中、友達になってくれたのが…楠原君でした」
「うちの成海?」
「はい」
「続きを、聞かせて貰っても?」
「はい。三ヶ月、こちらで過ごしてもまだまだ知らないことばかり。バイトをしたいと思っても、慣れない土地で、慣れないことを始めることを考えると色々と不安でした」
「…続けて」
「一人よりも、誰か知った人がいた方が、肩の力を抜いて取り組めるのではないかと思い、御社を志望しました」
「なるほどね。でも「友達がいるから」って理由で、気を抜かれすぎても、うちとしては困るかな」
「…」
「うちは硝子工房。安全を考慮して工房には立ち入らせないけれど、売店には立ち入ることになる」
「はい」
「作品は一点物。壊れたら、取り返しがつかないものだ。事情があればうちで負担するけれど、ふざけて壊したのなら、弁償も考えて欲しいね」
「…はい」
「でもね、気持ちはわかる。気を許せる人が一緒にいた方が、慣れないことを始める時の精神的負担は段違いだね。俺もかつてそうだった」
「…そうなんですか?」
「そうだよ」
書類に「採用」の文字を書き、一息吐く。
一海の頼みが無くても、この子は欲しい。
ちゃんと安心できる環境で、初めてのバイトをさせてあげたいと思える。
「…仕事の話は「もう一人」が確定してから、息子経由で連絡させます。夏休み、よろしくね、遠野さん」
「私で、いいんですか?」
「いいんだよ。他の連中を雇うのは心底嫌だし。君なら安心」
「…ほ」
「ま、作品壊したらそれ相応の覚悟はしておいてね」
「は、はい…」
「今日はこれでおしまい。最後に」
「最後に、なんでしょうか」
「私用の話。面接担当じゃなく、親としての言葉です」
「親、ですか」
「うん。遠野さん。ありがとうね。君のおかげで、成海は毎日楽しそうだから」
「こちらこそ、毎日楽しく過ごさせていただいています。夏休みも、よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
「面接、ありがとうございました!」
「はい、お疲れ様でした。またね、遠野さん」
会釈しながら部屋を出て行く遠野さんを見送り終えると、隣の校長から頭を叩かれる。
こいつはいつもこうだ。
「慣れ慣れしいぞ、海人」
「黙ってろ英治。息子に関わることだ。遠野さんがいなくなるまでは校長やってろ」
「もういなくなったからお前の友達に戻ったんだろうが…全く、深夜に連絡して書類をねじ込んだだけじゃ飽き足らず、無茶ぶりばっかりふっかけやがって…」
「いいだろうが。俺だってお前の面倒事を解決してやってんだ。たまには負担かけさせろ…!」
「…大島校長、楠原さん。面接の子、まだまだいるのでじゃれないで仕事してください」
「す、すみません、春原先生」
「次の子、案内してください」
次の子が来るまで、互いに睨み合う。
次は…ええっと、室橋君って子か。
…大丈夫かな。この子。




