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17:指定されたもう一人

翌日。

夏休み直前と言うこともあり、予定を立てる生徒が一部。

そして…一部生徒は、長期紹介バイトの募集掲示板に張り付いて、今日から張り出される求人に注目していた。


スマホのメッセージに父さんから「求人出しに行ったから、放課後確認してみてな〜。お友達の新菜ちゃんにもよろしく〜」と来ていたので、新菜さんと二人で確認に出向いたのだが…。

何なんだ、この地獄絵図は。


「来たぞ!楠原硝子工房の募集だ!」

「待った甲斐があったぜ!」

「良い条件を流して…待っただけの結果はあるな…!」

「リークはガチだったのか!?」

「夏休み…楠原先輩にお近づきになるチャンス…」


「募集人員二名!」

「戦争じゃねえか!」


…我が家の求人であんなに騒がしくなるだなんて、流石姉さんの知名度と言うべきだろうか。

父さんも父さんだ。仕事が早すぎる…。話を持ちかけたのは昨日だぞ。


「…新菜さん」

「いや、私は何も言ってない。昨日今日の話だし…」

「い、いや…それは分かってる。いつも噂として流れていたんだろう。それが偶然、事実になっただけだと僕も思っているし…。新菜さんが言いふらすタイプとは思わないから」

「…ありがと」


「でも、想定以上の募集がありそうで…。困ったな。姉さんの知名度をなめていた」

「そこは大丈夫!絶対に通ってみせるから!」

「頼もしいな、新菜さん」


「…安心しなさい。選ぶのは我が家よ。全力でコネるから意地でも選ぶわ」

「姉さん」

「一海さん」


物陰から掲示板の様子を伺っていた僕たちの背後にいつの間に立っていたらしい。

姉さんは僕の腕を掴み、離れた渡り廊下まで連行する。

新菜さんも、ついてきてくれた。


「…まさかあんなことになるとは」

「大丈夫か、姉さん」

「平気よ。いつもの事だから…。問題は後一人、誰をねじ込むかよね…」

「生徒会長さんは?」

「和葉は免許を取りに行くから絶対来ないわ」

「そういう時期でもあるのか…」


渉の情報から、長期紹介バイトに参加する三年生は非常に少ないらしい。

三年一学期までに取得しておかないと行けない資格が取れていない面々は当然として、他にも夏休みで資格取得に向けて追い込んだり、生徒会長さんに見たいに自動車学校に行って免許の取得準備にかかったりするらしい。

なので、長期紹介バイトに参加するのは大体が一、二年。

三年生は本当に一握りらしい。

この分だと、姉さんと仲がいい生徒会長さんの協力は取り付けられなさそうだ。


「そうなのよ…だからといって私もそれで逃げたら、成海に負担かけるし…」

「別に良いぞ?」

「あんたはそう言うけどね。顔に見せないだけで滅茶苦茶無理するタイプでしょあんた。だから、あんただけに負担をかけさせるのは絶対に嫌なの。わかれ」

「へい…」


「いっそのことあいつを使うか…」

「「あいつ?」」

「成海は知ってるでしょ?登校中に毎日声かけてくるあいつ」

「ああ。室橋先輩」

「そうそう。遂に名乗ってきた室橋浩樹むろばしひろき


姉さんと一緒に登校する内に、ある男子生徒だけが毎日の様に声をかけてくる場面に遭遇し続けた。

それが室橋先輩。姉さんと三年間同じクラスらしい。

…本人からは今の今まで認知すらされていなかったけど。


「今もそこで盗み聞きしてるし、ちょうどいいでしょ。使いパシリにするわ」

「「えぇ…」」

「楠原さん…!遂に俺の存在を認識して…!」

「仕事よ、室橋。あんた就職だし、免許冬場に取るって言ってたわね。夏休み暇でしょ。さっさと書類書いて提出してきなさい」

「さ、さりげない話も聞いて…!流石楠原さん!仰せのままに!」


既に記入済の書類を片手に、室橋先輩は颯爽と職員室に向かっていた。

…どう転んでも、新菜さんの相方は変な男になりそうだ。

まあ、人畜無害そうな室橋先輩なら、まだ…。

いや、心配だな。なるべく新菜さんから目を離さないようにしておこう。


「…大丈夫。あれが相方になりそうだけど」

「…一海さんに気があるっぽいから、私は大丈夫じゃないかな。あの人、成海君を経由して一海さんに近づくタイプにも見えないし…」

「毎日無視されようが姉さんに声かけてくるからな…。申し訳なくなって、声をかけたのが名前を知ったきっかけなんだ」

「優しいねぇ…ホント。私から見たら、同じ制服を着ているだけの不審者だと思うけど…」

「事実不審者だぞ。どこからついてきているのか、最近分かったんだが…」

「へぇ…最寄りの道から?」

「僕らが通学する時間に合わせて、うちの自宅前の電柱に隠れていた」


「えっ…。それって、三年間ずっと、なのかな…?」

「さぁ…どうだろう。そこまでは分からないけれど…凄い人だよな」


まあ、心底キモいけど。

でも、彼には僕には無いものがある。

好きな人へ積極的に迎える心だけは…見習いたいものだ。


「さて。私も書類、出しに行こうかな」

「様子が見たいから、一緒に行っても?」

「勿論。あ、教室に帰る前に寄り道しよ。昨日の」

「ああ…屋上前の踊り場」

「そうそう。今のうちにね?」


既に書いてあった書類に、不足していたものを書き埋めて…新菜さんは職員室にその書類を出しに行く。

応募は沢山。けれど、既に人員は決まっている。

遠野新菜と室橋浩樹。僕ら姉弟は二人と夏休みの大半を過ごす事になる。

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