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16:次が始まる約束

連絡を終え、スマホをベッドサイドの充電器に差す。

枕に顔を埋めて、一つ。


「〜〜〜〜〜〜っ!」


誰にも聞こえないように、足をバタバタさせながら感情の行き場を探す。


「…なるみくん、ひゃくななじゅうろくせんち…」


森園君や鷹峰君より高いなとは思っていたけれど、思ったより身長があることに衝撃を覚えた。

それにカーディガンの話から、まだまだ成長は止まっていない様子だし、まだまだ伸びると思うと困る。

非常に困る。これ以上高身長になったら、今は目立っていない外見が目立つようになってしまう。


…彼の外側に、何をしているかに惹かれ…内面に惹かれた立場で言うのもなんだけど、外見から内面を知られたら競争倍率が上がってしまう…!


「どうしようどうしようどうしよう…」


足をパタパタさせても、事態が好転するわけではない。

どうしようもないのだ。今は、ただ…現状に落ち着いているだけ。

行動を起こさなければ、何も変わらない。

でも…。


『私達出会って三ヶ月だよ?少し早くない?』


いざ、告白するべきなのだろうか。

そう考えると、必ずついてくる…昨日の美咲が発した言葉。

まだ三ヶ月。出会って三ヶ月なのに、告白とか早すぎるのではないだろうか。

好きだと言っても、薄っぺらく感じてしまうのだろうか。


「…一緒にいる時間が長いと、説得力も増えたりするのかな」


もしも私が、陸君みたいな幼馴染だったら。

若葉みたいに、同じ中学校だったら…まだやりようがあったかもしれない。

でも、所詮高校からの付き合いな訳だし…。


「はぁ…」


考えても、考えても答えは出ない。

どうするべきかも迷う。

今の私に出来ることは、現状の維持と…意識をさせることぐらい。

距離を近づけたり、できる限り一緒に過ごしたりとか…些細な事だけど、多分塵も積もれば山になってくれると思う…。


「とりあえず、バイトの話は上手く回ってくれているし…」


夏休みも、約束した土曜日以外も…理由をつけて一緒にいられる。

この夏休みで勝負を決めることが出来たら…いいんだけど。

ううん。そうなるように頑張らなきゃ!


ベッドから飛び起きて、机の上に置いてある雑誌を開いてみる。

あまり華美なものは好きじゃ無いかもしれない。

でも、出来る努力はしたい。

少しでも、可愛いと言って貰えるような自分で、隣に立っていたい。

———「特別」になりたい。


若葉に教えて貰いながら買ったメイク道具を並べる。

雑誌の初心者向けのメイク方法と鏡を交互に見つつ、ブラシを動かす。


うちの高校は珍しいことに過度で無ければメイクが認められている。

商業高校だし、他の高校より就職率は高め。

就職した時にどうせやるんだから、今禁止して出来ない状態で社会に出すより、出来る状態で社会に出した方がいいだろうという計らいらしい。


「…使える状況は、ちゃんと使わなきゃ」


慣れないことをしている自覚はある。

けれど、そうでもしなきゃ…そんな焦りと共に、隠れた努力を続ける。


明日はどう見られるだろうか。

少なくとも、今日よりもっと、よく見られたい。

そんな祈りを込めながら、少しずつ積み重ねる。

気持ちも、努力も、そして時間も全部。一つずつ。


◇◇


成海が何かを頼むのは、結構珍しい。


透が亡くなってから、あのカスに色々言われ…心を閉ざしていた時期がある。

陸君や一海の支え、配慮をお願いした学校の先生やカウンセラーの方に支えられてここまで来たあの子は、自分がかなり周囲に迷惑をかけていると思っていたのか、我が儘は言わなかったし、美海の前では模範的な兄をしてくれていた。

一海の頼みも年頃らしい恥ずかしい分に関して文句を多少言う場面はあったらしいが、断りはしなかったらしい。


今も、知らない奴に声をかけられないよう友達と合流するまで一緒に登校なんて話を受け入れているらしい。


「…申請書はこれでよしってところか」


もしかしたら使うかもしれないと、毎年貰っていた申請書を一瞥しつつ…俺は息を吐く。

全く。一海も一海だ。どこまで考えて動いているんだか。

後は人員だよな。

一海と美海の話から、成海の友達は女の子だと分かる。


あの成海に女の子の友達だ。

成海には悪いが…陸君以外の友達はもうできないんじゃないかと思っていた。

それでいて、その友達は距離感がバリバリ近いらしい。


…透さんや、うちの長男坊にも春が来たかもしれない。

こういう言い方はもう古いのだろうか。


「なあ、透さん…」


子供達三人を抱きしめて笑う透の写真に語りかけつつ、要項を眺める。

せっかくなら、この瞬間を二人で見たかったな。


「しかし…成海には枠が増える分「朗報」で、一海には枠が増える分、知らない人が来る確率が高まるのが申し訳ないが…今年は二人呼ばないと、割と成り立たないんだよなぁ…」


募集人数の欄に記載した人数は「二人」

夏休みの学生バイト、せっかく呼べるのならば二人呼ぼうと思うのだ。

人手はやっぱり足りないからな!

一人増えても大変なのには変わりない。余裕を得るなら、二人は最低でも必要だ。


流石に、せっかく来てくれるであろう成海の友達に滅茶苦茶な苦労はかけたくないからな。


「さて、明日これを提出して貰って、面談とか諸々でまた少し忙しくなるかなぁ…」


机の上に広がる書類の中に紛れ込んだ、四枚のチケット。

仕事を切り詰めて、余裕が出来たら家族四人で行こうと思って手配していたものだ。

昔、家族五人で行った水族館のチケットなのだが…思えば、一海も成海も高校生だし、美海も小学六年生。家族皆で近所の水族館なんて行くのも違和感のある年頃だろう。


「…家族皆で行くよりは、友達と行った方がいいだろうな」


一組は成海に、一組は一海にやろう。

…一海が使うかどうかは、わからないけれど。


少なくとも成海にはいいきっかけを運んでくれるだろう。

あいつが「行きたがるようにする理由」も用意した。

友達は積極的な子のようだし、見えている材料があれば提案をしてくれるはずだ。


「さて、夏休みはもうすぐ!やることは増えるぞ!」


普段なら仕事が増えると気が重くなる。

けれど、他でもない可愛い子供達の為なのだ。

今日の労働には力が入る。まだ、頑張れる。

ボールペンを握り、要項を改めて確認する。

夏の始まり。変化を生む夏休みを作り上げるために。

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