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14:父と子

いつも通りの時間に見送りを終え、帰宅する。

今日もいつも通り三人で晩ご飯だろうな〜、と考えつつ、鍵を開けると、その先には珍しい人が待っていた。


「おかえり、成海」

「ただいま、父さん。珍しいな、この時間に仕事…」


楠原海人くすはらかいと…僕ら三人の父親。

今日も疲れ切った面立ちで玄関に腰掛け、靴を脱いでいた。

どうやらちょうど帰宅時間が重なったらしい。


「たまには早く終わるんだよ。ほら、今日は一海が料理当番だ…覚悟していただこう」

「父さんも警戒してるのな…」


姉さんの料理は控えめにいって、まあ…特徴的な味がする。

隣で見ていても、一緒に作っても…不思議な味がし出すのだ。


「一部は美味しいけどさ…八割は…その…うん、独創的な味がする」

「そ、そうか…」

「正直、負担だって分かってはいるんだが…成海のご飯を…食べていたい…」

「お褒めいただき、ありがとう…なのか?」

「褒めているよ。本当に料理上手に育ってくれてありがとう…おかげで我が家の家計も安泰で、それでいて美海の食育も問題なく進められている…」

「そこまで言うか?」

「そこまで言うさ。本当にありがとうなぁ」


「…いいって。家族なんだから」

「成海が優しい子に育ってくれたおかげで今日がある!嬉しいねぇ」

「……そ」


褒められたら、照れてしまう。

新菜さんの前では勿論だけど、家族相手でも、それは変わらない。

この感情をどこに向かわせたらいいか分からないので、とりあえず目を逸らして頬をかいておく。

父さんはそれを見てにんまり笑った後、申し訳なさそうに肩をすくめた。


「でも、本当にごめんな」

「なにが?」

「父さんが上手くやれないから、一海と成海には家のこと任せっきりだし、美海にも寂しい思いをさせている。父さんそれだけは心苦しくてな」

「しょうがないよ。そういう家なんだから。僕も姉さんも受け入れているし、美海も割り切って…」


これは昔から、母さんが亡くなる前からそうだった。

だから僕らにとってこれが当たり前。

両親が忙しくしているのは当たり前だし、家族皆で遠出はできないし。

なんなら、家の事は子供達でやっていくしかないと思っている。

昔から、ずっと。それが当たり前だから。


「その「割り切り」が、良くない。父さんもそれは自覚しているから」

「…うん」

「でも、一海と成海は勿論だけど、美海も「家族皆」でって年頃じゃないしなぁ…。今は友達とかと旅行行ったりするんだろ?」

「…らしいね」


「陸君以外の友達、できたか?」

「ちゃんと」

「そっか。じゃあ、遊びに行く時はちゃんと言うんだぞ。友達と遊ぶお金ぐらい、ちゃんと出すから」

「…ありがとう。でも、今年は多分無理。それぞれ、予定あるし」

「そっか」


「あのさ、その…父さん」

「んー?」

「…友達の一人が、うちで夏休みだけバイト出来ないかって、話をしてくれて。なんか、学校経由でバイトの募集かけられるらしいんだけど…そういう話、何か知らない?」

「あー。それか。一海が一年の時、やろうとしたんだけど…一海が知らない同級生とか上級生が来るのはちょっとなって言っていたから…かけたこと無いんだよな」

「…そっか」


「でも、成海の友達なら大丈夫だろう。今年は一人、募集をかけてみるよ」

「いいの?」

「他でもない成海のお願いだからなぁ。人手不足なのも事実だし、バイトの一人ぐらい欲しい!学校には明日連絡してみるから!」

「お願い、父さん」

「任せろ〜!」


疲れた表情を消し去って、父さんはリビングへ飛び込んでいく。

無理はさせていないと、思いたい。

僕も靴を脱いで、まずは自室へ。

荷物を置いて、着替えてから同じ場所に戻ろう。


◇◇



「い〜ちかっ!み〜う!ただいま〜!」

「あ、お父さん。おかえり」

「おかえり」


帰ってきたのは知っていたが、成海がちょうど帰ってきていたみたいなのでここに来るのが思ったより遅かった。

晩ご飯の準備をしつつ、くねくねと動き回るお父さんの姿を横目で確認しておく。


「聞いてくれ聞いてくれ成海がなぁ〜」

「はいはい。何があったの?」

「友達がバイトしたいから、学校にバイト募集の申請出してくれってお願いされちゃった!」

「…マジか」

「お兄ちゃんのおねだり珍しいじゃん…」


「一海はいいか?陸君以外の友達だけど、成海の友達だから大丈夫だとは思うけど…」

「「大丈夫大丈夫。誰が言ったか察したし、誰が来るかも何となく分かったから」」

「二人は知ってるのか?どんな子なんだ?」


「新菜さん。凄くいい人」

「新菜ちゃん。びっくりするぐらい優しい子」

「ちゃん?」

「成海が言っている友達、間違いなく新菜ちゃん」

「新菜さん以外無いと思う」

「…え?マジで女の子?成海が?友達?本当に?」

「「もう友達とは思えない距離感だけどね…」」

「二人からそう言われるってどんな子なの!?お父さん超気になる!」

「…三人で何話しているんだ?」


着替えを終えた成海が、リビングにやってくる。

私も美海も、お父さんも…三人で状況は理解できている。


「…なんだよ、その目は。皆して変なの」


三人揃って家族の成長をにんまりと生暖かい目で見守りつつ、私達は晩ご飯の準備を進めた。

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