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10:期末試験の結果

六月が過ぎ、七月へ。

夏休みも間近に見えてきた今日この頃。

その前に、僕らは最初の関門に立たされていた。


学生なら必ずしも悩みのタネになる期末テスト。

浜波商業高校の一年生には、一学期中間試験という概念がない。

その代わり、範囲が広い期末試験が用意されていた。

テスト前は時間が許す限り、いつもの六人で集まって勉強会をして。

帰宅後も六人で作ったグループメッセージ内で互いに分からないところを聞いたり、励ましたりしつつ…ここまで乗り切ったわけだ。


「赤点じゃありませんように赤点じゃありませんように」

「補習やだ、補習やだ…」

「こ、この二人に引っ張られるわけじゃ無いけど…なんか不安になってきた」


後は結果を聞くだけなのだが…自信がない渉と吹上さんは頭を抱え、赤点と補習を恐れている。

足立さんもそれに釣られて、お腹を押さえていた。


「三人とも俺が最後まで見たんだから大丈夫に決まってるだろ!シャキッとしろしゃきっと!」

「ひぃ…流石陸氏…」

「俺たちを一人で引っ張ってくれただけあるぜ…」


「そういう鷹峰は自信の程どうなのよ」

「成績上位は堅いよ」

「「「こう言い切る奴初めて見た…」」」

「ほら、上位陣と補習者リスト、掲示板に張り出されるよ。赤点だったら覚悟していろよ…」


「た、助けて成海…」

「新菜ぁ…」

「い、潔く行くしかないでしょ…」


陸から首根っこを掴まれ、引っ張られていく渉と吹上さん。

不安そうにしつつも、潔く結果を確認しに行った足立さん。

僕と新菜さんは互いに顔を見合わせて、四人の後を追った。


「…にい、遠野さんは、自信の程はどう?」

「平均ぐらいだといいなって感じ。なる…楠原君は、どうかな?」

「僕もそれぐらい」


学校内では、いつも通り互いを苗字で呼ぶ。

名前呼びに慣れた影響で、互いにたどたどしくなってしまっているけれど…これが僕らのいつも通り。


新菜さんは最初に語ってくれた通りだろう。

付き合っているとか、変な誤解をされないように。

僕は、新菜さんが誤解の渦中に巻き込まれてしまう迷惑を避けるために。

今もこうして、苗字で距離を作り続けていた。


休みの時は名前呼び。

普段もこうでありたい気持ちはちゃんとある。

けれど、もしもを考えたら…やっぱり、苗字呼びが安泰なのだ。

非常に、悔しいけれど。


「よっしゃ!補習回避!吹上はお疲れ〜!」

「うわ、美咲。補習者リストに名前あるじゃん…」

「ぐぉおおおおおっ!多分数学!多分数学が悪いんだぁ…!」

「吹上さん、ちょっと向こうの階段でお話ししたいことがあるんだ」

「…やだ、陸氏。大胆だね。告白?私達出会って三ヶ月だよ?少し早くない?」

「…」

「…」

「は?説教だよ。自惚れるな」

「助けて成海氏〜!獄卒に!獄卒にしばかれる〜!」

「誰が獄卒だって!?」


吹上さんは廊下の奥に連れて行かれ、その後…陸の怒鳴り声が聞こえてくる。

渉から聞いたのだが、吹上さんは夜遅くまで陸を質問攻めにした挙げ句、睡眠時間どころか勉強時間もゴリゴリ削っていたらしい。

…それで赤点回避ができたならともかく、補習対象にされるレベルの失態をやらかしたのだ。

すまない吹上さん。僕にはどうすることもできやしない…。


「妙に語彙力堪能だったな、美咲…」

「獄卒がポンって出てくるだけあって文系なんじゃね?」

「あーね」


二人が向かった廊下の奥を眺め、渉と足立さんは遠い目を…もしもの自分を思い浮かべながら、哀愁の視線を浮かべる。


「てかさぁ〜。件の陸は結局どうだったわけよ」

「上位なら名前が掲示…」

「どうした」

「すまん。私達のボスは満点一位だ。これ以上文句言えんわ」

「流石ボス。次回も甘やかして貰うためごますりに行こうぜ!」


「いや、私は次から成海と新菜に教えて貰うから」

「は?若葉お前、ボスを裏切る気か」

「いや、別に裏切る気は無いし、事実結果出てるけどさ…」

「おう」

「厳しい一位より優しい三位じゃね?」

「…」


渉の目線がぬっ…と、上位成績者の一覧に向けられる。

それを一瞥した後、渉はすっと僕らの懐に飛び込んで来た。


「三位と八位って早く教えてくれれば…俺たちはあの獄卒に鞭を打たれる生活を選ばなかったのに…」

「泣くな渉…」

「結果が出たの、今さっきだよ…」


「陸の反応からして成海は絶対出来る側だって思っていたけど…新菜まで出来るのは反則だろ。次からは頼む…」

「私もお願い」


「け、結果が出るかは保障しかねるぞ…」

「私も、教えるの鷹峰君みたいに上手って訳じゃないから…」

「「獄卒スパルタ塾よりは何でもマシ」」


「…なあ、四人だけで集中勉強をしていた時があったよな。あの時、何があったんだ?」

「「…聞くな」」


遠い目を浮かべた渉と足立さんからこれ以上話を聞くことは叶わないだろう。

陸も陸で絶対にはぐらかすだろうし、吹上さんは…多分答えられる状況にはならない気がする。

渉と足立さんに囲まれる横で、新菜さんは少しだけ距離を取る。

そのタイミングは偶然か、必然か。


「とりあえずさ、成海。後で修正部分教えてよ。意味わかんないところ多過ぎだから」

「俺も〜」

「…」


足立さんの声に目を伏せた新菜さんは、そのまま距離を保ち続ける。


「…若葉は、呼び捨てにしてるんだ」


そう呟いた声は、誰にも届かない。

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