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5:静かな休日はなかった

買い物を終え、それから商店街から僕の家へと歩き出す。

新菜さんはまだまだ元気なようで、軽い足取りで道を進んでくれていた。


「あ、川だ。浅そう」

「浅いところは一部で、もう少し先に行けば、水深がかなり深くなっている」

「極端だね。自然ってそういうものなのかな」

「多分。結構危険だから、基本的に立ち入り禁止。周囲に網が張られてる厳重っぷりだよ」

「そっか。そうだよね…」

「でも、浅いところは遊んでいい」

「そうなんだ。楽しそう」

「…ちなみに、ザリガニとかいる」

「ザリガニ!?」


珍しい話ではないと思ったのだが、案外食いつきがよかった。

今まで住んでいた場所が都会だったみたいだし…川で遊んだりとかしなかったんだろうな。


「この後ろ、山だろう?」

「そうだね」

「色々いるんだ。街中でも、生き物沢山見つけられる」

「いいねぇ…行った先はどこもこんな遊べそうな川がない場所だったから、凄く楽しそう。成海君は昔この辺で遊んだの?」

「うん。姉さんとよく」


「へぇ…どんなことをして遊んだの?」

「ザリガニ釣り。父さんに作って貰った釣り竿片手に、姉さんとスルメを餌にしてザリガニをよく釣りに行っていた」

「スルメで釣れるんだ…」


「ああ。姉さんと二人でどれだけ釣れるか勝負したらさ、沢山釣りすぎて…」

「そんなにいるんだ!」

「バケツいっぱいのザリガニを持ち帰ったら案の定父さんに怒られた」

「バケツいっぱいはやりすぎだよ!?そのザリガニはどうしたの?」

「姉さんと二人で泣きながら全部川に逃がした…」

「お茶目だね、二人とも…」

「そうかな…」


小さい頃はよくある話だと思い込んでいたが、やはり住むところが違うと小さい頃にしていたことも全然違うらしい。


「新菜さんは、小さい頃何をして遊んでいたんだ?」

「ん〜。ずっと家で積み木で遊んだり、ぬいぐるみでおままごとしたりとかだよ。公園に行くことはあっても、お母さんとか滅多に帰ってこないから…。家の中で遊べるものが充実していたよ」

「へぇ…」

「だからこうしてお外で遊べるの、羨ましいなって!夏が本格的になったら遊びに来たいな!」


「その時は付き合うよ」

「是非是非!流石に泳いだり、とか…は無理だよね。他には何をしていたのかな」

「大体生物を探して遊んでいたよ。陸ならその時の写真持っているんじゃないかな」

「写真…」

「自由研究に使っていたから」

「そっか。そうだよね…。小学生の時から一緒だから、当時の写真も…幼馴染補正羨ましいな…」


「幼馴染補正?」

「ううん。こっちの話。でも、写真かぁ…」

「興味あるの?」

「そんなところ」

「ここさ、春になると桜並木になるんだ。写真映えすると思うよ」

「…そういう話ではないんだけどねぇ。でも、来年が楽しみになる情報をありがとう」

「いえいえ?」


「夏の約束もだけど、春もまたここへ一緒に来てくれる?」

「…勿論」

「やった」


明日明後日の約束ではない、来年の話。

来年もこうしてここに来られたら、きっと楽しいだろう。

想像しただけでも、心が弾む。

もう少しで、家に着く。

もう少しだけ…歩幅を小さく出来ないだろうか。

この時間がもう少しだけ、長く続くように。


◇◇


一人で留守番することには慣れている。

妙に小綺麗な家。

家事は全て終えられ、シンクなんていつも以上に輝いている。


「…おかしい」


掃除大好きで家庭的な兄だとは思うが、ここまでやるのは大掃除の時ぐらいだ。

普段はもう少し手を抜いている。

家中の掃除も済んでいる。何もかもが完璧。


ちなみに冷蔵庫には既に完成したチーズケーキと未完成のパウンドケーキが用意されていた。

流石お兄ちゃん。今日のお菓子も出来が完璧。見ているだけでお腹が空く。

パウンドケーキにも期待大…。

チーズケーキを冷蔵庫から取りだして、手頃な大きさに切り分ける。

残りは後で。ラップをつけて、再び冷蔵庫の中へ。


「もぐもぐ…」


いつもなら「行儀が悪い」と叱ってくるお兄ちゃんもいないので、今日は寝巻きのままソファに寝っ転がってアニメでも見ていようと思う。


ん〜。静かでいい休日。

しかし静かな休日はすぐに終わってしまう。


「ただいま〜」

「げ」


チーズケーキを口の中に押し込んで、玄関先へ様子を見に行く。

朝早くから出かけたお兄ちゃん。一体誰を迎えに行ったのやら。

気になって向かった先には、新菜さん。

私の姿を見つけて、優しく笑いかけてくれるお兄ちゃんの友達。


「た、ただいま美海…」

「おかえり、お兄ちゃん…」


いや、あのお兄ちゃんが…嘘。嘘でしょ。


「お、お兄ちゃんが…自発的に新菜さんを連れてきたってことはそういうこと…?」

「そういうこととはなんだ」

「今日は料理を教わりに来ただけだよ、美海ちゃん」


「なんだ…そう…なにその状況!?意味わかんない!?」

「「何かおかしい?」」

「大いにおかしいよ!」


距離感が異様におかしいお兄ちゃんとその友達?を出迎えながら叫んでおく。

静かで穏やかな休日だと思っていた。

しかしこんなの見せられたら、そんなことを言っている場合ではない。


お姉ちゃん、早く帰ってきて…。

お兄ちゃん想像以上のクソボケに育ってるかもしれない。

一度でもいいから少女漫画でもラブコメ系のライトノベルでも読ませたら良かった。

お兄ちゃん、友達が陸さん以外いなかったせいで、異性との距離感が死んでる!


なーにが「料理を教わりにきただけ」だよ!

どこからどう見ても付き合ってる距離感だよ!ご丁寧に手を繋いで!お家デートでしょこれ!


でも等の本人達は「なんでそんなに狼狽えているんだ?」と言わんばかりに首を傾げるばかり…!


私一人じゃツッコミが追いつかない!

お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん!


そう祈りながら、私の奇妙な土曜日は———幕を開ける。

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