4:お買い物の友
顔が少し熱い気がして、手で風を送る。
涼しくなった気はしないが、多少はマシになっただろうか。
「どうしたの?暑い?」
「ま、まあ…少し歩いたから」
「あの坂道を登ればね〜」
「商店街は平地だし、楽に進めると思うよ」
「そうだけど…なんか今日、人多くない?商店街ってこう、こんな先が見えなくなるほど人がいるイメージじゃなかったんだけど…」
「そうかな。時間帯にもよるだろうけど、土曜はいつもこんな感じだよ」
「へぇ…」
朝陽ヶ丘の商店街は住宅街から学校や駅に行く道中に存在する為、割と人の通りがいい。
それでいて、日によってはスーパーよりもお買い得だったりするので、僕もたまに迂回して買い出しに来ていたりする。
「前いたところに、商店街ってあった?」
「あったけど、大体シャッターが閉まってたね…」
「あぁ…」
「こういう風に活気があるのもいいよね。いつもスーパーで買い物してたから、ちょっと楽しみ」
「そう言ってくれると嬉しいよ。じゃあ…」
「…成海君?」
さりげなく、手を差し出してみる。
新菜さんはそれと僕を交互に見つめ、首を傾げている。
無言ではだめだ。きちんと、言わなければ伝わらない。
「嫌なら、いいんだけど…人が多いし、はぐれないように…」
「…そう、だね。手を繋いだ方がいいね」
一回り小さい手が、ゆっくりと手のひらに乗ってくる。
それを包み込むように握る度、思うのだ。
また、離したくなくなると。
◇◇
直売所もとてつもない人だかり。
店自体も小さいのだ。人が多く見えるのも、混んでしまうのも仕方が無い。
「新菜さん、ここで待っておく?」
「ううん。私の買い物だし、私も行くよ」
「わかった。人、多いから気をつけてね。僕が前に立って壁になるから」
「じゃあ、その後ろで材料をゲットするのが私の役目だね!任せて!」
小さな店の入口に、はぐれないように歩いて行く、
中にもやはり人が多い。
先導している僕にも沢山の人がぶつかってくる。
仕方が無い。狭いのだから。
「…大丈夫?」
「平気平気!それで、とりあえずキャベツとかニンジンとか取ったけど…」
「その調子でお願い。商品は重いだろうし、僕が持つよ」
「平気?」
「平気だよ」
新菜さんから商品を受け取り、持っていた籠の中へ。
それからも何度か同じ事を繰り返し、必要な品を全て手に入れた後はレジの方へ向かう。
レジも混んではいたが、道中ほどではない。
「大変だったねぇ」
「だなぁ…」
「疲れてない?」
「これぐらいは慣れているさ。新菜さんは?」
「大丈夫。ずっと後ろにいたから…影響少なめだったし、結構楽できたよ。ありがとね、成海君」
「どういたしまして」
レジの順番が来たので、会計まで金額の表記を見つつ…あるものを取り出す。
我が家の買い物必需品だ。
「何それ」
「エコバッグ」
「何か渋いの使ってるね!?」
確かに、新菜さんの言うとおり。エコバッグは渋め。
リアリティ抜群な魚の顔面が書かれたエコバッグなのだ。
「そうか?これでもゆるキャラらしいぞ」
「えぇ…そのリアルな魚が…?」
「うん。おシャケさん。キャンペーンで貰って…意外と使い勝手がいいから、そのまま普段使いしてる」
「サイズ的にちょうどいいの?」
「ああ。それでいて耐久も理想。灰色だから汚れても目立たない」
「そ、そうなんだ…今度ちゃんとしたエコバッグ買ってあげよう。変な目で見られてるし…」
「どうした、新菜さん」
「ううん。なんでも。お会計済ませてくåccるね」
「じゃあ、その間に袋へ入れておくよ」
「…お願いします」
そこまで変なデザインではない気がするのだが、新菜さんの目はエコバッグに描かれたおシャケさん並に死んでいたように見受けられた。
受けは、かなり悪いようだ。
…新菜さんと出かける時だけは、別のものを使おうか。
そんな考えが、頭をよぎった。




