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Extra25:虚弱後輩は今日も重い

「次はこれ」

「なんだこれ」

「硝子のカピバラ」

「…これは?」

「硝子の駱駝」

「何作ってんねん成海兄ちゃん。俺こんなの初めて見たぞ」

「いやぁ…たまにはなんか、こう、変化球を投げたくなって」


作品撮影は順調に進んでいる。

後半の小さい作品は一気に持ってこられるので、こうして一気に持って来た訳だが…。


「…売れるのかしら」

「出来はいいから売れると思う」

「確かにそっくりではあるけど…買うかと言われたら、なぁ…」

「…」


「あ、でもこのカピバラは一馬君買うんじゃないか」

「一馬君〜?」

「ん。好きらしいぞ。カピバラ。かみ君情報」

「癒やし効果があるのかねぇ…」

「夢は大きくカピバラ温泉に入ることらしいぞ」

「可愛いなぁ」

「可愛いか…?」


しかし、毛が気管支に入って死にそうになる未来しか見えないのはなぜだ…?

この前も入院したと聞いているし、温泉に入って療養?は良いことだと思うが…。


「電話して聞いてみるわ」

「何だと」


相変わらずフットワークが軽い悠真君。

ささっと電話をかける先は僕の後輩。

しばらく会っていないし、高校も栖鳳西ではなくなぜか不良の巣窟こと沼田高校に進学したと聞くが…元気にしているのだろうか。

僕にも聞こえるように、通話モードをスピーカーに。

着信音の後に聞こえてきたのは、懐かしい声。


『…はい』

「もしもし〜。五十里で〜す。今日は元気ですか、一馬君〜?」

『…こんにちは、五十里君。この前頼んだ仕事の結果、もう出たの…?』

「それはまだだけど」

『…』

「無言で怒らなくても良いだろ…?なんで連絡してきたの?って無言で訴えるのやめろよもう…締切破ってるのは悪いと思ってるからさぁ…」


『…一馬、電話変わろうか?』

『ん〜。お願い拓実ぃ…』

「拓実?一葉君一緒なの?」

『はい。すみませんね、今日少しご機嫌斜めなんですよ。ほら…今日は』

「ああ。支援者の皆様とのご会談で遊ばされてた感じかぁ…そりゃ不機嫌になるかぁ」


…支援者?

まあ、なんだろうか。この会話は僕が聞いていいものなのだろうか。

…後ろの片桐さんが笑いを静かに堪えていた。

ああ、これは深く聞いたらまずそうな話のようだ。

とりあえず聞き流しておこう。


『そんなところです。それで、仕事の結果報告ではないようですが…』

「ああ。とりまスピーカーにして、一馬君に聞こえるようにしてくれる?」

『大丈夫です。元よりスピーカーです』

『それで、何か用かな』

「俺、今成海兄ちゃんのところにいるんですよね」

『…成海先輩の?』

「ご存じだよなぁ。一馬君、後輩だって聞いたし。成海兄ちゃん」


「あー…一馬君?久しぶりだね、元気?」

『元気です。超元気です。お久しぶりですね、成海先輩。今日はどうしたんですか?』


僕が会話に参戦した瞬間…何か、声のトーンが変わった気がする。

隣の悠真君は「露骨〜本当に好きだったんだ〜」と小声で呟いていたし、電話越しからは「うわきっしょ…」と思いっきり聞こえた。


「実は、悠真君と仕事をする中で、一馬君が「カピバラ好き」って話になって」

『是非購入させてください』

「まだ何も言ってないよ…?まあ、カピバラの硝子細工を作ったから」

『言い値の倍で買います』

「そんな出費させないよ…?なんならタダであげたって…」

『いえ、そこはちゃんと出させてください。いつかいつかはと思いまして、なんなら成海先輩にオーダーメイドとか注文とか出来るように貯蓄をしていましたから問題なく出せる程度にはちゃんと備えていますので、是非とも買わせていただければと思いますつきましては僕の連絡先を五十里君経由で聞いてください。後は個人でやりとりをしましょう是非ともやりとりをしましょう。ああもう全然会えていなかったから家族共用から僕個人の連絡先の連絡先を伝えるのを忘れていた失態がこんなところで響いてくるだなんて本当になんていうし』

『…いつになくうるさいな。と、いうわけなので、後から個別にやりとりしてください』

「う、うん…」


『あと、支援者のジジイ共が、うちのボスに次の案件に対する相談とご回答をお待ちかねなのでそろそろ中断します。夕方頃にはまた繋がりますので』

「おけ〜。そんじゃ頑張れ〜」

『五十里さんも、早めにレポート纏めてくださいね。あと一週間でご旅行予定日らしいので』

「マジかぁ…ん。頑張る」


通話が途切れ、室内は再び静寂に包まれる。

悠真君は僕に一馬君の電話番号とメッセージのアカウントを伝えた後、一言添えてくれる。


「…本当に慕われていたんだな。あそこまで気持ち悪い一馬君を見たの、初めてだぞ」

「みたいだな…。なあ、悠真君。一応聞いておくが」

「んー?」

「…危険な事は、していないよな」

「してないよ。そんなこと出来る訳ないだろ?俺、生まれも育ちも一般人だし」

「それなら、いいんだが…何をしているんだ?」

「世界中を飛び回っていることを評価されて、旅先の名所と美味い店のリストを纏める仕事」

「観光地の下見…」

「そんなところだな…」


とりあえず、カピバラの硝子細工だけは買い手が決まっているので…悠真君に軽く撮影をして貰った後、その写真を貰い…メッセージ経由で写真を送る。

『送付先の住所をください』と、メッセージと共に。


夕方頃、きっちり「お久しぶりです。再びこうしてお話しできて嬉しいです」「まずは振込先と金額の提示をお願いします」と送られ、しばらく住所だ振込先だで揉めに揉め…。

最終的には不服そうな一馬君を抑え込み、着払い代金負担で纏まったりした。

梱包中、ふと感じる。

硝子のカピバラは、手のひらサイズの筈なのに…なんだか大型作品のように、とても重く感じた。

届いた際、どうなるのだろうか。

はしゃぎすぎて再び入院なんて真似にならなければ良いのだが…。


おまけ:硝子細工が届いたよ


後日、到着報告と共にきっちり入院したと連絡が来た。

『すみません成海先輩。無理が祟った見たいです』

「すまない…すまない…」

「成海。スマホ越しに謝っても一緒だと思うなぁ…」

「僕はなんてことを…」

(多分無関係なところで倒れただけだと思うけどな…)

「むしろ職人としては…とても喜んで貰えたって喜ぶところ、かも?」

「そうポジティブに捉えていいのだろうか…」

「捉えるべきだよ。とても喜ぶほどに、成海の作品がいいって思えた人がいること。それを成海はしっかり覚えておくべきだと、私は思うかな」

「新菜…」

「はいはい。その子、面会謝絶ではないんでしょう?今度お見舞いに行こうよ」

「いや、やめておくよ」

「どうして?直接会った方が…彼も喜ぶと思うし、成海も直接感想とか聞けるんじゃ」

「...無理させそうだから。退院したら、話を聞いてみるよ」

「それもそうだね」


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