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Extra22:機材に囲まれた硝子

既に機材を配置されていた部屋に、男三人で硝子細工を運ぶ。

先に大型作品から撮影を行い、徐々にサイズを小さくし…楽にしていく方針だ。


「一作目は…あんたねぇ」

「…てへっ」

「てへっじゃないんだよ…」

「そういうごまかし方、許されるのは学生時代までよ」

「…なんでだよ。硝子の花籠作っただけじゃないか」


一作目は硝子の花籠。

朝陽ヶ丘から少し離れた場所にある田舎町…柳永町の名物である花籠から構想を得て、こうして硝子の籠に詰め込んだ、いろとりどりの花。


この写真が出回る時期を考えて、メインにしたのは向日葵…なのだが。

太陽の花は陽光に照らされて、眩い黄色を部屋の中に照らし、撮影の瞬間を待ち望む。

…最も、すぐに輝きを失う羽目になるのだが。


陽光をふんだんに取り込む自慢の姿が消失するレベルの機材が大量に設置されている。

撮影台に至っては可変式の籠らしきものに覆われている。

見慣れない機材ばかりだ。何に使うのだろうか。


まあ、悠真君のことだ。何か考えがあってのことだろう。

…後でちゃんと太陽光を使った撮影をお願いしよう。この向日葵は陽光と共に在るのだ。それだけは譲れない。


「等倍サイズじゃなかったら量産許可出したわ…」

「ミニチュアサイズは後半に待ち構えているぞ」

「「あるんかい…」」

「色々な花籠を作ってみた。姉さんが気に入るのもあると思うぞ?」

「私のことはいいのよ…じゃあ、お仕事お願いね、悠真君」

「あいよ」


撮影のことは、全然分からない。

ライティングに関しては前、悠真君自身から説明を受けたはずなのだが…未知の言語ばかりで頭が理解を拒んだのか…未だに何一つ分からない。

撮影に使う道具たちが、硝子細工を見下ろす。


「…今日は珍しい道具を使っているな。悠真君自身もパソコンの前だし」

「ああ。少し前に冬月のお嬢様から話を受けたんだ。成海兄ちゃんの作品撮影をやってることも把握していたから、これが役に立つだろうと。今日はその試運転も兼ねている」


「あの籠っぽい機材に何かあるのか?」

「ああ。冬月のところで囲っている技術者が作った360度カメラ。籠は専用フレームなんだが、そのフレームの上なら自由にカメラを動かせるんだ。ついでに追加で照明までつけられる。複数台同時運用可能な上、全台移動可能。どういう理屈かわからないけど、光源ライトはメインカメラに映らない仕様になってる」

「なんで…?」

「さあ。メインカメラも俺が仕事用で使ってるレンズ程じゃないけど、かなり出来が良いぞ。こんな小さいのに、俺のカメラとほぼどっこいレベルだし…」


パソコンの画面を見せつつ、籠の中がどうなっているかを教えてくれる。

外部コントローラーの指示通りに、カメラが縦横無尽に籠の中を移動しているらしい。

どういう技術なんだろうか、これ…。


「俺もよくわかんないけど、まあ、電化製品とかそういうのは撮影できないらしいぞ」

「撮る予定あるのか?」

「ないね」

「じゃあ、これだけでいいな」


元々彼は風景と人物を専門にやっている。

僕との仕事がなければ物の撮影なんて趣味の範疇なのだ。

引き受けてくれているのは「仕事の幅を広げるため」とはいうが、専門だけでも十分食べて行けている力量が存在している。

…引き受けて貰えているのは、本当に奇跡なんだろうな。これ。


「しかし冬月にそんな技術者いたか?片桐さんからも聞いたことがないぞ?」

「お嬢様の話だと、星月博人ほしつきひろとって奴の作品らしい。鹿野上蛍おとうとぶんが連れてきた将来有望な技術者らしくてな。将来囲う気満々で支援しているらしい」


確かにこんなものを作ってくるのだ。彼方さんが囲って支援したくなるのもわからないことはない。

しかし、なんだ…その名前を聞くと胃が痛くなる。


「なんか聞き覚えあるな、そいつ」

「あるの?」

「ああ」


ついこの前…試験管の発注が増えた原因になった存在がそんな名前じゃなかったか?

いつもの鹿野上君に…星月君という子からの注文も追加されたとか、云々。

…今度確認しておくか。


「…しかし、こんなにスムーズに動いて、狙ったところで止まるなんてな」

「停止箇所にブレはないね。使いやすくてむしろ気持ち悪い」

「気持ち悪い?」

「そりゃあ、こんなの…現代技術のそれじゃないからな。ブレとかそういうのがあった方がまだ「手作り感」…違うな。十四歳の子供が作った「らしさ」を感じるほどだ」

「…十四歳」

「凄いよなぁ、最近の子供は」

「数年前まで子供だったろ」

「お互いな〜」


高校生の時は将来なんて漠然だった。

だけど気がつけばなんだかんだで上手くやって…面倒を見たくなる一つ下の君が父親になっている。

毎日がモニター越しのカメラのようにめまぐるしく、気を抜ける暇なんてどこにもない。

不安もまた、抱いている暇はない。

…本当に?


「…よし。一作品目撮影完了。二作品目…」

「…」

「成海兄ちゃん?」

「あ、ああ…もう終わったのか。じゃあ、次の準備をしておくよ」

「ああ。その間にカメラでの撮影もやっておくよ」

「いいのか?」

「あくまで与えられたのは試作品。身内でも、俺が納得しない写真は提供しない。それに照明で太陽光並の光源は作り出せるけど、本物には遠く及ばないからな」

「そうか」


「次の準備をしている間に撮影するよ。満足がいかないものなんざ、プロとして出せないからな」

「…頼りになるよ」


部屋を出て、次の準備を行いに行く。

その背を見て、ふと考えてしまう。

中学生時代から、一足早く仕事を得ていた。

夫婦としても、親としても一歩進んだ先にいる年下の男の子。

仕事に情熱を燃やした。中学時代…いや、それ以前からたった一人の少女を愛し抜いて、一緒に人生を歩んでいる。

子供だってお互いに望んだに違いない。僕の様に、まだの事に安堵するような性格でもないだろう。


皆が皆、同じ成り方ではないとわかっているのだが…。

僕は彼の様に、大人になれているのだろうか…と、考えてしまうのだ。

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