表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/196

2:はじまりは「忘れ物」

学校帰りに若葉と美咲と遊んで、電車の中。

空いていた椅子に腰掛けて、スマホに触れた。


メッセージアプリの通知は沢山。個別だけじゃなくて、グループにも色んな連絡がやってきている。

明日からゴールデンウィーク。

何して遊ぶ?予定は?空いているなら一緒に遊ばない?

沢山の人から通知は来ているけれど、欲しい人からの連絡はない。

それもそうだ。連絡先を未だに聞けていないのだから。


「…今日も聞けなかった」


隣の席の楠原君。

いつも窓の外を眺めて、時折楽しそうに笑っている不思議な人。

私の周りは賑やかだけど、彼の周りはいつも静かで…穏やかな時間が流れている。

そんな彼が穏やかに笑う姿を窓越しに眺めていると、なんだか無性に気になって…ついつい眺めてしまう。


今日はそんな彼ときっかけが欲しくって、わざと教科書を忘れたふりをしたのに…最後の最後で空ぶってしまった。


「…はぁ」


小さくため息を吐きながら、スマホの電源を落とす。

メッセージの返信は後でゆっくりやろう。今はそんな気分じゃない。

スマホを直すために鞄を開けると…。


「あれ…?」


現国の教科書が二つあるではないか。

一つは間違いなく、私が忘れたふりをした現国の教科書。

じゃあもう一つは…と、教科書を手に取り、最終ページを開いてみる。

その中に名前を書く欄がある。私も同じ場所に名前を書いている。


そこにはちゃんと「楠原成海くすはらなるみ」と、名前が書かれていた。


名前を書かなくなる人もいる中、律儀な人。

綺麗な字で書かれた字を指でなぞると、自然と頬が緩んでしまう。


「でも、明日からゴールデンウィーク…だよね」


明日返そうと思っても、返せない。

それに、今日出た現国の課題は教科書がないと…。


「…早く返さないと、困っちゃうよね」


休みの日なら、誰にも邪魔はされないだろう。

もう一度スマホを取りだして、メッセージアプリを起動させる。

クラスで作ったグループには、楠原君の名前はない。

誰も声をかけていないらしい。

…ダメ元でも聞いてみよう。

クラスグループにメッセージを送る。

『楠原君の連絡先を知っている人はいるかな?』と。


案外メッセージを見ている人は多いらしく、すぐに既読が付いてくれる。

けれど、大体は「楠原って誰?」「クラスにいた?」と、楠原君の存在を認識していない人のメッセージで溢れかえった。

やっぱりダメかと思い、返事をしてくれた皆にお礼のメッセージを入力しようとしたところで、通知が来る。


アカウントの名前は鷹峰陸たかみねりく。個別メッセージの通知のようだ。

…鷹峰君は休み時間、唯一楠原君と話している人。

グループにお礼のメッセージを送った後、鷹峰君との個別メッセージを開く。


『成海に何か用?』

『うん。今日、教科書を間違えて持ち帰っちゃって…課題で必要でしょ?渡しに行きたくて。住所を知らないかなって』

『成海の家、朝陽ヶ丘町の海辺にある楠原硝子工房』

『お店?』

『うん。人が少なくなるお昼時がおすすめだよ』

『教えてくれてありがとう』

『いいって。本人に許可とってからになるけど、連絡先も渡そうか?あいつ、メッセやってないから電話番号かメールアドレスになるけど…』

『ううん。それは大丈夫。気遣ってくれてありがとう、鷹峰君。明日伺ってみるよ』


そう返信したと同時に、鷹峰君からスタンプが送られる。

これで会話はおしまい。


「…楠原君、メッセやってないんだ」


なんだか意外。今時アカウントを作らないでいる人なんて、いたんだなって。

電話番号とメールアドレス。

鷹峰君から連絡先を聞いてもいいなって思ったけど、やっぱり自分で聞きたい。

…教えてくれるかどうかは、わからないけれど。


とりあえず、明日は楠原君のお家…楠原硝子工房に出向いてみよう。

ネットで検索をかけ、明日の動きをシミュレーションしておく。

それにしても、海沿いの街にある硝子工房か。

想像した光景はキラキラで、明日への期待が更に降り積もる。


…明日、晴れるといいな。


明日への思いを胸に、鞄を抱きしめて…最寄りの駅に到着するまで過ごした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ