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28:修学旅行に向けて

二月も終わりに差し掛かった頃。

クラス内では修学旅行に向けた話し合いが行われていた。


浜波商業の修学旅行は二年生の春先…四月の半ばに行われる。

クラス替えが行われないことを利用して、予め班決めや自由行動の行先を決めるそうだ。

まあ、僕には関係のない話だが。


「何となく察してはいたが…」

「成海に新菜だけじゃなくて、美咲まで修学旅行不参加…」

「まあ、僕らは色々と事情があるからさ」

「無理だなって自分でも思っていて、小学生の頃から不参加なんだよね…」


「でも、吹上が不参加なのは意外かも」

「何の為にもならないから残れって。成海氏と新菜がいるからむしろ楽しいかも。居残り頑張ろうね〜」


僕と新菜は互いに修学旅行には行けないだろうと思っていた。

だけど、美咲さんの場合は違う。

僕らみたいな事情はない。家庭の事情。

聞けば聞くほどおかしい事情に嫌悪感を覚えるが、それを感じたところで彼女の事情は変えられない。

僕らは、友達であろうとも…家の事情までには踏み込めないから。

…何かできることがあれば、力になりたいのだが。


「でもさぁ…俺としては選択肢がないとはいえ、この二人に挟まれるのは流石に嫌なんだけど」

「成海がいないとなると強制ぼっちでちゅもんね。駄々っ子で可愛いでちゅね」

「黙れ。そういうのじゃなくて、付き合い始めたんだろう?」

「そうだな」

「俺、お邪魔虫じゃないか?」

「…安心しろ。ちゃんと時と場所はわきまえる」

「なんだその含みのある言い方は!一応言質取ったからな!?俺を挟んでいちゃつき始めたら容赦しないからな!?」


バレンタインの一件以降、渉はしばらくインフルエンザで寝込んでいたのだが…学校に来たと思ったら、まずは僕に一発入れてきた。

「お前マカロン作れないっていったじゃねーか!」と。

若葉さんが釈明してくれたおかげで助かったが、嘘を吐いた事にここまで怒られるとは思っていなかった。渉にはもう嘘は吐かないようにしよう。

…と、僕の事はどうでも良いのだ。

本題は若葉さんの方。あの後ちゃんと話をして、無事に収まるところに収まったらしい。

付き合い始めた翌日、いつもの面々には報告を入れてくれた。僕より誠実だと新菜から好評だった。そうだな、隠していたもんな。

…そこまで根に持つことないだろ。新菜。


そんなこんなで、彼らは上手くやっている。

普段と変わらないように見えるけれど、ちゃんと間柄に変化は訪れているのだ。


「へいへい陸ちゃま。どう足掻いても俺と一緒でちゅよ。男子はもうグループ決まっちゃいまちたからね」

「…男子は全員三人組だっていわれたろ」

「グループ内でじゃんけんして、誰があまりに合流するか決まったみたいだからな〜」


確か、男子の人数は僕を除いて十五人。

だから男子は全員三人組になれといわれていたな。

陸と渉のグループには一人男子が足りない。


「…全く、全員「お前なら成海ママの代役が務まる」とか言いやがって…あの幼稚園児共の相手が務まると思ってんのか」

「「誰が幼稚園児だ!」」


「僕はお母さんじゃないぞ、祐平。よく一緒にいる面々のグループは?」

「俺たちいつも四人だからな。三人となるとこれ。今回は俺がじゃんけんに負けた。まあ森園いるし大丈夫だろ。鷹峰は知らん」

「陸だって良いところあるぞ。この旅行の中で仲良くなってくれると、僕は嬉しいな」

「お前が何でママママ言われるのかわかったわ。そういう言い聞かせ、マジでママだぞ成海…」

「何度も言わなくていいだろ!」


どうやら祐平が一緒らしい。

渉は複雑そうに、陸は露骨に嫌そうな顔をしている。

二学期始めのことが尾を引いているのだろう。

原因である僕が仲介できないのが非常に申し訳ないが…三人ならきっと大丈夫だと信じることにしよう。


「鷹峰に加え、付き合い始めたカップルに挟まれて行動とか気まずくて終始やばそう。おーい。木島。私の代わりに鷹峰陸のいたたまれない顔撮ってきて〜」

「吹上、お前も不参加かよ…お前ぐらい来てくれないといたたまれないのはこっちだぞ。茶々入れ役で来い。今なら鷹峰が金出すだろ」

「私は成海と新菜とラブラブしてるから。ごめんね」

「…間に挟まるな。お前も多少はいたたまれないと思え」


美咲さんを交え、はしゃぐ野郎三人を横に女子三人は穏やかに過ごしている。

僕も話したことがない女子だ。こういう仕様だ。各グル—プからあぶれた子が集まった感じらしい。

それでも三人は上手くやっている。この旅行が終わったら、ぎこちなく微妙な空気も柔らかくなっているものだったりするだろうか。


「皆楽しそうだね」

「ああ。本当に」


そんな光景を遠目に見ていた新菜が並び、僕と同じように俯瞰しながら周囲を見守る。


「若葉はいいなぁ」

「どうして?」

「だって、修学旅行って貴重な旅行をする機会でしょう?」

「まあ、そうだな」

「同じ部屋で寝られはしないし、ちゃんと行動できるのは自由行動だけかもだけど…それでも、親の許可を取らずに彼氏と旅行という状況は、とてもいいと思うんだよね」


確かに…未成年だとやっぱり親御さんの許可という壁が立ち塞がる。

やりたいと思っても、流石に未成年の身。今の年齢で泊まりがけの外出なんて出来ない。

そんな壁を易々と壊してくれるのが学校行事。

参加できれば、四泊五日。新菜と北海道で遊べたのだ。

事情が事情とは言え…やはり惜しい。


「今回の行先は北海道。自由行動の時に、成海君とステンドガラス巡りとか絶対楽しかっただろうなぁって考えちゃう」

「僕中心でいいの?」

「有名どころはちゃんと見ておきたいの。職人さんとしてこれから頑張るんでしょう?見て勉強するのも大事だと思うし…」

「僕もそう思うよ、だけど、今は無理。僕らは集団行動には向いていない」

「だね。あーあ。こんな性質がなければ、私も成海も、一緒に旅行できたのかな」

「…将来、二人で行けばいいだろう」

「…約束してくれる?」

「ああ。必ず」


互いに背中へ手を伸ばす。

結んだ小指でこっそり約束を交わし…いつかの未来へ思いを馳せる。

いつか必ず、二人で修学旅行をやろう。

小学校も、中学校も、高校でも出来なかった分、沢山。

二人で、色々なところを回るのだ。

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