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25:当初の目的

成海がお手洗いに行くフリをして、二人きりにしてから早数分。

———成海が謎の女の子とこちらの様子を伺っている。

いや、ほんとなんで?

じっと眺めていると、成海とその小学生は壁側に隠れてしまう。出会ったばかりだろうに。仲いいな…。


「どうした、若葉」

「あ、いや…なんでもない。渉は、何してるの?」

「ああ、親に連絡してるところ。流石にここからうちまで運ばせるの、成海にも若葉にも悪いしさ…」

「…気にしなくていいのに」


ターミナルから五分ぐらい歩いた場所に、渉の家はある。

ふらつく彼を支えながらとなると、普段の倍はかかるだろう。

親に迎えに来て貰う距離ではないけれど、これ以上を考えたら…迎えに来て貰うべき距離なのだろうか。


スマホを力なく鞄の上に置いた彼は「肩を貸してくれ」と、私の肩に頭を乗せて、目を閉じる。

多少は楽になったように見せているけれど、やはりまだきついらしい。

もうすぐ、彼の親が迎えに来る。

こうして過ごす時間だって有限。成海の気遣いだって、無駄にしてはいけない。


「…ね、渉」

「んー」

「これ、渡そうと思っていた分」


おそるおそる、鞄の中から包装したカップケーキを手渡す。

彼はそれを一瞥した後、満足そうに笑いながら…自分の身に引き寄せる。


「やった。若葉からのバレンタイン」

「…味は、普通だから」

「今食べたいのに…きついからな。治ったらちゃんと食べる」

「…成海の、みたいにはいかないからね。形だって歪で」

「いいんだよ。俺は、これが欲しかったんだから。本当にありがとう」

「…は?」

「味がどうとか、形がどうとか…気にしなくていい。俺が今日、欲しかったのはこれなんだから」

「…無理して学校に来てまで、こんなものが欲しかったの?」

「義理でも俺からしたら、本命からの手作り菓子。くれるかどうかは博打でも、欲しかったものには変わりない」

「…無理してまで欲するものじゃないから!」

「わかってる」

「…本命とか、冗談だよね?」

「冗談で言えるかよ」

「…」

「治ったら、改めて時間が欲しい。今は多分、真面目な話に向かない」

「…わかった。絶対、作るから」

「ありがと」


一通り話を終えた後、ターミナルの戸を開ける女性が現れた。

マスクをつけているから一瞬分からなかったが、あの人は…。


「渉」

「お袋」

「あんたって子は…あら、若葉ちゃん?夏休みぶりねぇ」

「お久しぶりです。女将さん」


森園敬子。渉の母親。

仕事中だと思ったら、実際そうだったようで、彼女は仕事着で私達の前に来てくれた。


「案の定具合悪くなって帰ってくるじゃない…」

「まあまあ…」

「若葉ちゃん一人で連れ帰ってきてくれたの?大変だったでしょう?うちのバカのせいでいらぬ苦労をさせて…船代だって安いわけじゃないし…せめて往復の船代は出させて頂戴…」


財布を出そうとする敬子さんを必死に止める。

自分達で勝手にやったことだ。彼女にお金を出して貰うのは気が引ける。


「あ、いえ…私は荷物を持っていただけで、実際はもう一人が」

「あんた若葉ちゃん以外にも迷惑かけたの!もー!その子は今どこに?」

「お、お手洗いです。随分長いのでお腹壊し「戻ったぞ若葉さん」」


…さっきまで物陰から様子を伺っていた男は流石に腹痛の不名誉を賜ることは嫌だったらしい。

壁に隠れた時と同じ速さで私達の前にやってきてきてくれた。

…一緒にいた女の子はこの状況でもずっとわくわくしながらこちらを眺めているらしい。

なんか一人小さな男の子が追加されたけど、本当に何なのだろうかあの子達…。

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