22:40分の船旅へ
渉の荷物を抱え、僕はそのまま彼を支える為に腕を回す。
「よいしょっと」
「うぃー…」
左腕でしっかり、ふらつく渉の身体を支える。
これでよし。
「大丈夫か、渉」
「へいき…」
「とりあえず、港のターミナルまで移動しよう。浜波港でいいんだよな」
「違うよ成海。浜波は流通系だけ。人を運ぶ船のターミナルだったら、高陽奈じゃないかな」
「…あそこか」
別に高陽奈に行くのは苦ではない。
けれど、あの港には…。
「…成海、俺が行こうか?」
「いや、陸も塾だろう?流石にな」
高陽奈港のターミナルから唯一移動手段が出ている特殊な島の事を考えていると、陸が声をかけてくれる。
気持ちは嬉しいが、流石に彼にも予定がある。
ここは予定がない僕が適任だ。
「…ごめんね」
「いいって。新菜も電車の時間あるだろ。美咲さんも帰りのバス、もうすぐじゃないか?」
「でも…」
「流石に一人では…」
「私がついていくよ。天島までの行き方も分かるし…ま、役不足かもだけど」
「いいのか、若葉さん」
「まあね。それに、この件は私にも責任あるわけだし…」
僕から渉の荷物を受け取り、それを大事そうに抱きしめてくれる。
僕の分は僕でしっかり背負っておこう。
彼女がこうして申し出てくれたのは願ったり叶ったりだ。
こんな状況ではあるが、彼女も鞄に入れているものを渡すことが出来るだろうから。
準備を終えた後、保健室を出て、心配そうに見送る陸と新菜、美咲さんと別れる。
僕と若葉さんは渉を自宅に送るため、高陽奈行きのバスに乗り込んだ。
座席はほぼ埋まっている。3人で座るのは無理そうだ。
その中で空いている席を見つけ、そこに渉を座らせる。
周辺学校の下校時刻と重なっている。仕方がない。近くが空いたら僕らも座ろうと考えつつ、座席で項垂れる渉の様子を伺う。
彼が楽な表情を浮かべてくれたら、次は…。
「若葉さん、荷物ありがとう。代わりに持つよ」
「流石に疲れてるでしょ?少しは休みなよ」
「でもなぁ」
持てる状況で、こう…女の子に二人分の荷物を預けているのは気が引けるのだ。
そんな僕を横目に、渉がけだるそうな様子で自分の膝を叩く。
「変に揉めんなって。乗ってる間、俺の膝に三人分置いとけ」
「でも、重いだろ」
「じゃあ足下」
「…」
「…」
僕と若葉さんは顔を見合わせて、渉の足下に自分達の荷物を置き、彼の分は膝の上に乗せる。
「全部膝でいいのに」
「病人には優しくしないと」
「足下使わせて貰えるだけ十分だから」
「全く…」
「頭痛とか、大丈夫か?」
「薬効いてるし、多少はな」
「良かった。ターミナル到着までそこそこ時間がある。のんびりしておいてくれ」
「ああ。助かるよ。若葉も」
「?」
「ついてきてくれてありがとな」
「…いいって」
それから僕らはバスに揺られて、高陽奈に。
バスの終点であるターミナルに到着し、天島行き船の乗船券を二人分購入した。
「もうすぐ鈴海行き高速船が出発しまーす!」
「あら、急がなくっちゃ」
「浩一、私たちは船に乗るけど…君は?」
「…俺は護衛としてこのまま船外で待機しますので、先生は友江さん達と船内に」
その道中、あの島に行く乗客とすれ違う。
四つ、異様な気配があった。
一般人が関わってはいけない空気。
特に際立つのは…護衛と称した全身を何かで包み込んでいる子供。
それから車椅子の上で項垂れている小学生ぐらいの男の子と、母親の腕の中で寝ている女の子。
…やはり、あの島の面々は。
「成海」
「あ、ああ…すまない。天島ももうすぐだからな…行こう」
若葉さんに声をかけられ、我に返る。
そう。僕らにはやることがある。
恐怖を断ち切るように、僕らはその場を後にする。
「…本土の能力者嫌悪はまだまだ根強いな」
「先生、そろそろ」
「すみません。今行きます」
それぞれの道に進み、僕らもまた船に乗る。
轟々と響くエンジン音が渉の頭に響いていないことを祈りつつ、揺れる船舶は天島を目指した。




