18:色とりどりの装飾
駅前商業施設「アモステラ」
駅に併設されたこの施設は、東館と西館と呼称されるビルに数多のお店が入り込んでいる。
「じゃあ、楠原君が行きたいお店に行こっか」
「お願いします。確か、場所は東館三階の…」
「もしかして、スピリア?」
「あ、確かそんな名前」
「あそこのアクセ凄くいいよね!私もよく通販で買ってるの!実店舗、この町にもあったんだ〜」
いつになく目を輝かせ、楽しそうにはしゃぐ遠野さん。
自分が好きなことになると、彼女はこんな顔をするらしい。
「遠野さんの趣味に合う店なんだ」
「そんな感じ!ナチュラル系っていうのかな。とにかくシンプルで使いやすい雑貨が多いの。このポーチとかもスピリアで買ったんだよ」
遠野さんは鞄からシンプルなデザインのポーチを取り出す。
確かに、これならどんな場面でも使いやすそうだ。
「かわいいでしょ〜」
「かわっ」
「…?」
いけないいけない。可愛い。きっとこの単語も遠野さんの動揺を生むワードだ。
ポーチなんかより、好きな事にはしゃぐ遠野さんの方が可愛く思えたなんて言えば、更に大変なことになりそうだ。
出かかった言葉を飲み込んで、当たり障りのない言葉に変換する。
「…凄く、いいと思う。デザインか華美じゃないから、どこでも使いやすそう」
「でしょ?こういう商品を主に取り扱っているの。楠原君も見たら気に入る商品があると思うな」
「僕に?いや、僕はコラボのアクセサリーを見に行くだけで…」
「せっかくだから、お店も見ていこうよ。アクセサリーだけじゃないんだよ?」
「じゃ、じゃあ…案内をお願いします」
「任されました!」
遠野さんの案内で、僕らは目的の店がある東館三階へと向かって行く。
「お店見終わったら、何しよっか」
「何度も聞いて申し訳ないけれど…電車の時間、大丈夫なの?」
「七時までは余裕で遊べるよ!」
「帰り一時間だよね…暗い時間に帰すのは、申し訳ないというか…」
「大丈夫!お父さんは週一頻度でしか帰ってこないし!お母さん夜勤多めだから!」
「それはそれで逆に問題があるだろ!?」
つい、普段の口調が出てしまうぐらい。
高校生だから夜八時は出歩いても普通ぐらいの時間だ。
けれど、それが一人かつ女の子なら話は変わってくる。
「それが当たり前だからね。大丈夫だよ」
「…家に誰もいないって言うのも不安だけど、そもそも遅い時間に帰るって話だけでも親御さんを心配させると思う。うちも、昔、姉さんが、モデルの仕事帰りにつけられたりした事もあったし…」
「そうなの?」
「うん。だから…できるだけ明るいうちに帰った方が、遠野さんのご両親も安心すると思うよ。家にいなくたって、子供が無事に帰っているか心配してると思うし」
「…なんか楠原君、大人みたいなこと言うね」
「偉そうに見えたら、ごめん…でも、もしも何かあってもすぐに駆け付けられる距離にいるわけじゃないからさ」
「…私に何かあったら、助けに来てくれるの?」
「僕に出来ることがあれば」
「…凄いね、楠原君。普通はそんなこと言えないよ」
「まあ、姉と妹がいる身だからね…。父さんは仕事で忙しくて、家の事ってなかなか出来ないから。代わりの心配は、互いでするようにしているんだ」
「…そっか。偉いねぇ」
一瞬、ハッとして…申し訳なさそうに、言葉を紡がれる。
そうだよな。知っているか。
リビングに仏壇、置いてあったし…。
…気を遣わせた。
話している間に、店の前に到着する。
その店の中には、別の制服を着た女の子や社会人と思われる女性。
…どこを見ても、女性しかいない。
「着いたけど…何か、僕が非常に場違いな」
「だ、大丈夫だよ。楠原君」
遠野さんの手がゆっくりと差し出され、僕の手を取る。
「…こうしていたら、大丈夫だから」
「え、でも。遠野さん…っ」
手を引かれ、店の中へ。
一瞬だけ、目を向けられた気がしたが…すぐに周囲の興味は失せ、別の方へ。
店の中をゆっくりと進み、目的の場所へ案内して貰う。
色とりどりの硝子を使った、アクセサリー。
姉さんが作るようなハンドメイドのアクセサリーで生計を立てている方がデザインしたコラボ商品だ。
流石にこれはハンドメイドではなく、工場で作られたものだろうけど…。
硝子部分に指紋を残さないよう気遣いながら、装飾品を手に取る。
「ピアスか…ここまで小さい意匠を施すのはなかなか…再現性も」
「可愛い…」
「遠野さんもそう思う?そうだよね、これ、藤本硝子さんがデザインしているアイテムでね。元々この人、硝子細工とは思えない細かい意匠が得意で、唯一無二とも言える腕なんだ。それにこの指輪。宝石みたいに見せるけど全て硝子でね…」
「い、いつになく楠原君が前のめり…。ち、近い。近い…顔が近いぃ…!?」
「あ」
「…きゅ」
「…ご、ごめん。夢中になりすぎた」
目の前一杯に、遠野さんの顔が飛び込んでくる。
目を回し、
それでいて、手は繋いだまま。
勢い余って、強く握り締めていたらしい。
慌てて手を離し、適切な距離に戻る。
「だ、大丈夫だよ…!好きな事に夢中になるのは、いいことだと、思うから…」
「手も大丈夫?強く握りしめたりとか…」
「逆にあり…」
「ん?」
「い、いや!大丈夫だから!本当に!本当!ダイジョウブ!」
「そ、それなら。本当にごめんね。と、とりあえず…参考がてら全種ひとつずつ買ってくるから!」
「わ、わかった…。お店の外で、待っていても?」
「うん。すぐ、戻るから…」
商品をささっと取って、慌ててレジに向かう。
じんわりと残る別の熱。
何故か名残惜しさを感じてしまうのは、何故だろうか。
「六点で、三千三百円になります」
「あれ、全部で五種…あれ?」
「如何なされましたか?」
「あ、いえ。このままで…」
お金を払い、包まれた商品を手に店を出る。
五つのコラボ商品。全六点という事は、一つ多く買ってしまったらしい。
…何を多く買ってしまったんだ?




