13:言葉と嘘を溶かして、型へ
しかし、僕が何もしないというのは気が引ける。
「新菜。肩貸して」
「いいよ。何するの?」
「歩きスマホ。確認したいことがあって」
「…もー。何か考えがあるんだよね?」
「当然」
引き返して、新菜の肩に手を載せて…片手でスマホを操作する。
開くのはメッセージアプリ。
すぐに連絡がつけばいいのだが。
「渉、渉。今いいか?」
メッセージを送ると、割と早い段階で既読がつく。
家の手伝いに駆り出されていた訳ではないらしい。
『どした、成海』
「実は、今からバレンタインに配るお菓子の試作をするんだ。渉は何か食べたい菓子とかあるか?」
『え?マカロン』
「それでいいのか?」
『おう。一度食べてみたかったんだ。男一人で店に入るの、なんか敷居高めじゃん?作れるなら食ってみたい』
なんで、美海といい渉といい…手作り希望はマカロンなんだろうな。普通に店で買った方が美味しいだろうに…。
それに初心者の若葉さんには、流石にハードルが…。
「…僕に作れると思っているのか?」
『俺たちの成海ママなら作れると思って…』
「その信頼はどこから来るんだ。そこまでの製菓技術は無いよ」
家庭で作れる程度のものなら、美海にせがまれたので作れる範疇にいる。
けれど、ここは嘘を吐く。
今、聞き出したいのは僕が作るお菓子ではなく、渉が食べたいお菓子かつ、初心者な若葉さんでも作れるお菓子。
引き出せれば、いいのだが…。
「しかし渉。お前は僕だけで良いのか?」
『え?新菜もくれるの?』
「…新菜も配るという話はしている」
『お前らホント優しすぎね?独り身に優しさが染みこんじゃうね。俺も彼女欲しい』
「前、付き合いたい気持ちは言ってたな」
『まあな〜。高校生だし、青春っぽいことしたい』
「付き合いたい女子とかいるのか?」
『おっ、それ聞いちゃう?』
「まあ、狙っているというか、そうなりたいな〜みたいな相手がいないと出てこないかなって思ってさ。僕らの時は渉にも支えて貰ったし、出来ることがあれば、協力したいなと」
『成海ママ優しい』
「ママじゃないんだが!」
『ごめんて。でも、ママ』
「…なんだ」
『気になってる子は、いるっちゃいる』
…マジか。ここ、引き出せれば十分進展があるぞ。
とりあえず、探りを入れ続けるか。
『でも多分、脈ない』
「どうしてそう思うんだ?」
『だって、全然態度変わんないし…。夏休み、多少仲良くなれたとは思うし、今も放課後二人で遊んだりとかしてるけどさ…そう思っているのは俺だけじゃね?とか、思ったりしてさ』
…放課後二人で遊んだりしていたのか?初耳だぞ…。
まあいい…まったく。お互い同じ事を考えているじゃないか。
家の手伝いをしていた渉と夏休みの条件を満たすのは、彼女しかいない。
少し背中を押せば、前に進めそうだ。
なら、僕が出来ることは…。
「そんなことないぞ。相手は若葉さんだろう?僕らから見ても分かるぐらい、仲いいなって思うよ」
『…そっか』
すまない渉。僕はまた嘘を吐く。
———正直変化に気がついていなかった!
それを隠して、さも気付いていたというようにメッセージを送る。
ああもう、どうにでもなれ。
「だから、自信持ってくれ」
『…なんかありがとうな。でも、どうして急に?』
「あ、いや。新菜と試作品を作る中、、若葉さんと渉、仲いいなって話になってさ。どんな感じなのかなって思って、聞いてみただけなんだよ。好奇心」
『成海の好奇心にしては変だな。お前、そういうのに興味あるお年頃?』
「僕だって彼女いるんだぞ。恋愛事情に興味があったりする」
『他人でも?』
「友人のだよ。二人が僕らのことを気にかけたように、僕らだって気になるんだよ」
『そうかよ』
「ちなみにだが、若葉さんは偶然スーパーであったので、うちの試作会に参加している」
『マジかよ』
「教えてくれたら、それとなく若葉さんに「これがいいんじゃないか」って伝えられるぞ?できれば、初心者向けで」
「…若葉が作る菓子なら、何でもいい」
『左様で』
「…ま、何かあればヨロシク」
『二人きりになるように仕向けるぐらい、お安い御用だぞ』
「至れり尽くせりなこって…」
そこでメッセージのやりとりを一時中断する。
「成海君、もうすぐ家に着くけど…」
「ああ。ごめん。少し長いやりとりを…」
「誰とやりとりしてたの?」
「陸。そういえば、食べたいお菓子聞いてなかったなって」
「そう…」
あまりにも長かったから疑問に思ったのだろう。
若葉さんが誰と連絡していたのか聞いてきたので、とりあえず陸ではぐらかしておく。
…陸には話を合わせて貰うよう、後で連絡をしておこう。
その横で、新菜は「全部分かっている」と言いたげに笑みを浮かべていた。
彼女には、通用しなかったようだ。
「さ、到着したし…試作会に取りかかっていこう」
「ああ。とりあえず、僕と新菜の試作中、若葉さんは作るお菓子を決めよう」
「わ、わかった」
「頑張ろうね、若葉」
家に入り、いつも通りリビングへ。
さあ、気合を入れていこう。




