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12:刻んで整理をつけて

「若葉さん」

「んー?」

「ちなみにだが、渉とはどういった経緯で?」

「私も気になるかも〜」

「ふ、二人揃って相手を渉に定めなくていいでしょ…!?別の人の可能性だって、ないとは、言っていないわけですし…?」


「じゃあ、陸か?」

「冗談じゃない…」


…これは本気で嫌なオーラ。陸では絶対ないらしい。


「じゃあ、誰なのかな?」

「…二人が考えている人である可能性も、ないとは言ってないですし」

「「まどろっこしいな…」」

「二人には言われたくないね…」


若葉さんは再び溜息を吐いた後、観念したのか…ゆっくり、言葉を一つずつ零してくれる。


「夏休み…狭い家にいたくないし、住み込みバイトなら快適に過ごせるだろうって、渉の家が出してたバイト、受けたわけじゃん?」

「うんうん」

「天島、一ヶ月近く、でも一年って私しかいなくって…先輩達もグループ出来ててさ、私…孤立してて」

「そうだったのか…」

「で、結局、一ヶ月以上、時間があればあいつと一緒にいたわけ…なのさね」


「ほぼ四六時中?」

「そんなところ。ま、単純かもしれないけど…それで、まあ…そんなところで」


一緒に過ごすうちに、意識をし始めた…と、いうことか。

何が単純なのだろうか。僕らは双方共に一目惚れだぞ。単純具合で言えば、僕らの方が上になるだろう…。


「…自分でも、よくわかってないんだよね。どうなりたいかとか、具体的にわかんなくて」

「…わかる。わかるよ若葉。よくわかんない感情に振り回されるよね…!」

「新菜は、どんな感じで落ち着いた?」

「成海君を早く手に入れるって決めたら落ち着いた」

「そんなノリで…それができたら苦労しないよ」

「どうして?」

「だって、相手からどう思われてるなんてわかんないじゃん…。新菜は結果として両思いだったけど、私はどうかわかんないし…」

「確かに…成海君は非常にわかりやすかったからな…」

「なるほど、そういう問題があるのか…」


僕の場合はわかりやすかった部類。

けれど、渉はそうもいかないだろう。


現に二学期を過ぎ、半年以上。僕らは二人の間柄が進んでいた事に気がつけなかった。

あまりにも、普段通りだったから。


僕らの視野が狭まっていた可能性もあるけれど…それでも、いくら思い返したって、二人の関係は一学期末の頃から何一つ変わった様子がない。

ああ、だからか。

彼女が躊躇してしまう理由は…きっと。


「渉は、何一つ変わっていないな」

「…ん」

「僕の感覚だと、渉と若葉さんは一学期末から関係性に変化がないような気がする」

「…そこ、なんだよね。まあ、距離は近くなったかも?とか、思うけど…それって自分自身が体感してることで、相手が同じとは限らない訳じゃん」


彼女は俯いたまま、買い物袋の持ち手を強く握りしめた。

冬の厳しさが残る風が吹く。

身を震わせる程の寒さではないが、目の前で内側を吐露した若葉さんは震え続けていた。

寒さで震えているわけではないだろう。


「…多分、好きなんだろうとは思う。自分自身恋とかしたことないし、よくわかんないけど、多分、そう。バレンタインにかこつけて、気持ちを伝えられたらと思ったりもする。行動しなきゃ、何も始まらないから…」

「…」

「でも、今が心地良いから…このままでもいいと思ってしまう」

「若葉さんは…進むのが、怖い?」

「そんなところ、かも」


恐る恐る聞いてみる。

僕もかつて、先に進むのが怖かった。

自分は新菜に相応しいのか。それでも、側にいたいと願って今に落ち着いている。

かつてよりも良い先に進むことを選べたからこそ、今がある。

けれど、彼女は…どちらを選んでも、結果は変わらない。


「気持ちを伝えて、今を失うなら…このままでもいいかなって思う気持ちもある」


彼女と僕の違いは、動かなくても欲しいものが手に入ってること。

彼女は動かなければ、今の時間を失うことはない。

だけど、特別は手に入らない。

特別と現状を同時に得られる可能性もあれば、その全てを失うことがある。


「凄いね、二人とも。私は…怖いよ」


新菜が若葉さんの手を握りしめる。

僕はどうすることもなく、前へ進む。

心配になるほど、支えたくなるほど不安定。

きっとこうだったから、若葉さんは僕らを見守ってくれて、新菜を支えてくれたのだろう。


不安げに胸を押さえる彼女に、かつての面影を見た。

かつての僕らはきっと、周囲にはこう見えていたのかもしれない。

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