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11:銀包装に包まれた感情と

「若葉」

「…」

「わーかーばー」

「…あ、新菜?なんでここに…成海も」


何度声をかけても、彼女は振り向くことはなかった。

新菜が肩を叩きながら声をかけたことで、やっと反応があるほど。

何か、悩みでもあるのだろうか…心配だ。


「今日は土曜日だから。成海君の家でお料理会なの」

「その前に買い出しに来たんだ。今日はセールだから、こっちに」

「ああ…なるほど。仲いいね、二人とも」

「まあ…ね」

「込み入ったことは聞くの悪いと思って、付き合ってからはあんまり関係のこと聞かなかったけど、上手くいってるんだ。安心した」


「心配してくれてありがとうね、若葉」

「いや、心配って程は…まあ、上手くいって欲しいとは思っていたけどさ…」


新菜の相談に乗ったり、後押ししてくれたのは彼女だと聞いている。

彼女の助力があったからこそ、こうして落ち着いている部分もあるので…若葉さんには感謝してもしたりないぐらいだ。


「若葉さんは、ここで何を?」

「あー…チョコ、安いなって思ってさ。最近少し高いから、ご無沙汰だし、久々に食べちゃおうかな〜…なんて」

「確かに、安いよね。僕らもこれを目当てにここへ来たんだ」

「へ、へぇ…」


「今からバレンタインに向けて試作品を作ろうって話もしてるの」

「そうなんだ…二人とも、気合入ってるね」

「まあ、そういう日だからね!若葉は何か作る予定とかあったりする?」

「私は、お察しの通り、料理とかするタイプじゃないし…手作りお菓子とか、贈るにしても絶対重いし…」

「「ほう。贈りたい相手はいると」」

「か、仮定の話だってば…!」


慌てる若葉さんの前に、僕らは軽く目を合わせる。

仮定でここまで慌てることはない。贈るなんて話は一切していないのに、贈るところまで話が飛躍していた。

つまり、若葉さんは…。


「そういうことにしておくね…」

「…新菜、なにその「微笑ましいな」とか言いたげな顔」

「渉にどういう菓子が好みかそれとなく聞いておこうか?」

「な、なんでそこであいつの名前がでてくるの!?」


若葉さんが持っていたチョコレートがパキッと音を立てる。

こうしてしまった手前、何か申し訳ないので呆然とする若葉さんからそれを回収し、籠の中に入れる。

どうせすぐに使うんだ。割れていたって構わない。


「「むしろそれしか無いかと…思って。ごめんね、なんか…」」

「そんなことないからそんなことないからそんなことないからそんなことないから!」


その狼狽え方は、むしろ図星だと言っているような気がするのだが…。

これ以上は、からかいの領域になるのだろうか。


「…わかりやすかったり、する?」

「わかりやすいというか…」

「二学期から、よく二人で一緒にいる時が多いし…」

「六人で一緒にいる時も、二人で話に没頭していることが…」

「そんなに露骨…?」

「露骨って、言い方はあれだけど…結構、そうだな…何となく」

「二人きりにしてあげたいな〜って思うことは多かったかも…」


「陸も空気読んで、話かけるの結構躊躇ってたよな」

「うんうん。美咲はよく分かってないみたいだったけど、鷹峰君が制止してたから…」

「揃いも揃って気遣いすぎだって」

「若葉たち程じゃないかな…」


若葉さんは軽く目を伏せた後、小さく息を吐く。

そして意を決したように声を振り絞った。


「…成海はさ」

「うん」

「…まだ新菜と付き合っていなくって、どう思われているかも分からない状態で…チョコとか貰ったら、どう思う?」

「真っ先に嬉しいがくる。自分だけとなると、尚更かも」

「じゃあ、好きじゃない相手から、だったら?」

「…それは、ありがたいけど。申し訳ないかな…気持ちには応えられないだろうし」


「…新菜は、贈る側の感情がわからない状況下として、それでもバレンタインで成海に成海に渡す?」

「不安だけど渡すかな。ちゃんと気持ち伝えたいし…」

「…ちゃんとしてる」


「まあ、実際自分達がその状況に置かれたらどうしようとはなるだろうね…」

「若葉はやっぱり、渡したい相手がいるんだよね」

「…ん。でも、何作ればいいかとかよくわかんないし…贈っても、気持ち悪いとか、キャラじゃないとか思われるのもどうかなって思うし…」


そういえば、若葉さんは料理をしないと調理実習の時に言っていた。

キャラだとかそういうのはよく分からないが…。


「ね、成海君。ここはせっかくだし…」

「ああ。力になれることがやっとできた」

「そうだね。ね、若葉」

「何?」

「せっかくだから一緒に試作品作ろうよ。一人でやるより絶対いいだろうし」

「新菜から相談に乗って貰っていたことは聞いているよ。今があるのは二人の助力もある。そんな二人の力になれることがあれば、なりたいんだ」

「でも、お邪魔じゃない?」

「「そんなこと思わない」」


「もー…じゃ、お言葉に甘えていい?」

「勿論。とりあえず、主に使う材料ささっと買いに行こう」

「若葉さんは何か作りたいなって思うのあった?」

「…カップケーキとかだったら、初心者でも簡単かなって」

「じゃあ、その材料を買おう」

「ありがと、二人とも」

「いいって」

「気にしないで。私達としては、やっと力になれることが嬉しいから」


若葉さんと合流し、それぞれ材料を籠の中へ。

想定以上に膨れ上がった買い物袋を抱え、スーパーを後にした僕らは楠原家への道のりを歩いていった。

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