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7:試作会に向けて

土曜日の朝。


五月から始まり、なんだかんだで今の今まで続いている料理会。

今日はチョコレート菓子をいくつか試作しようと相談し、了承を得た僕は…今まであまり手をつけていなかった作品報酬もとい小遣いを手に、いつも通り新菜との待ち合わせ場所で彼女の到着を待っていた。


「しっかし、何を作るべきか…」


ばらまくならクッキーが妥当か?

というか、そもそも僕が考える事か…?


「そもそもチョコレートにこだわる必要もあったりするのだろうか…」

「こだわらなきゃ。それに旬なものは使わなきゃ損だっていつも言ってるでしょ?」

「別に二月はチョコレートの旬って訳じゃ無いと思うけどな、新菜」

「ここまで大々的に広告が出て、板チョコも安売りしているから、旬じゃないかな〜?」



真っ白なコートから伸びる、黒の脚線美。

足下にはブーツ。なんとも言い難い、あべこべな印象。

こちらとしてはしっかり防寒をしてほしいのだが、彼女にしては珍しく脚のラインが見える衣服を身に纏っていた。


「おはよ、成海君。何見てたの?」

「おはよう…それよりも、足下寒くないのか?」

「ストッキング、厚いの履いてるので。成海君は今日もガチ防寒だねぇ」

「一月ほどじゃないとしても、まだまだ冷えるからな」


「夏場でもしたみたいに、ここでの待ち合わせがきついときは屋内で待ち合わせしない?」

「いや、今まで通りがいい」

「どうして?」


どうしてかと問われると、理由は単純すぎる。

けれど言わなければ伝わらない。

でも、言うのは少し気が引ける。


「…なるべく」

「ん?」

「少しでも早く、会いたいから」


思ったままの事を伝えると、新菜の口があんぐりと開かれる。

…やはり、子供じみているし、新菜からしたら幼稚すぎたかな。


「新菜?」

「ひゃ、あ。こほん…成海君って、時々こう、素直になるよね。特大の爆弾抱えて。凄くびっくりしたよ」

「驚かせるところがあったかは、分からないが…ここ最近、素直は美徳だと思い始めてな。思ったことはなるべく伝えるようにしている。照れくさいが」

「どういう心境…?」

「…色々あるんだ」

「そこは照れくさい感情捨てて教えてよ〜」


流石に姉さんの名誉もある。ここでの僕は口を閉ざそうと思う。

素直じゃない姉の姿を見ていたら、反面教師にもしたくなるなんて…言えないだろう?


「…まあいいや。それで、成海君。さっきまでスマホで何を見ていたの?」

「「ウリクック」…まあ、レシピサイトだよ。今日、何を作ろうかなって思ってさ」

「ウリクックって、猪紀フーズの企業サイトに組み込まれているレシピサイトだよね。でも、惣菜系が多くなかった?」

「猪がロゴにある会社だから、唯一お菓子の作り方としてトリュフの作り方を掲載しているそうなんだ。ネットで調べたら、ここのが特段美味いらしい」

「へぇ…」


「他にもガトーショコラとか、定番のクッキーとか、マシュマロとか、マカロンとかカップケーキとか、マドレーヌとか焼き菓子でもいいかなって…色々と探してて」


他にも候補としてキャンディとか、ミニティラミスとか、シュークリーム等あげてみたが、新菜の顔は眉を下げたまま。


「チョコレートから明後日の方向に行ってるね…」

「そうか?」

「うん。でも、成海君ってマカロンとか作れるんだ。難しいって聞くけど」

「美海はよく作れって言ってくるから…上手いかどうかはわからないけれど、作れはする」

「お母さんじゃん…」


「僕は新菜のお母さんじゃないぞ」

「わかってる。でもママ、私もママのお菓子食べた〜い」

「からかう子にはあげません」

「そんな〜!」

「冗談だよ。でも、ママはやめてくれ」

「勿論。ママじゃないもんね」

「じゃあ、僕は新菜の何なんだ?」

「人前だよ?言わなきゃダメ?」


ここは駅前。周囲には休みらしく沢山の人がいる。

そんな中、自分達の関係性を言葉にするのは新菜でも照れくさいらしい。


「言わなきゃ作らないってことはない」

「!」

「けれど、言ってくれたら僕が嬉しい」

「ズルいな…私の彼氏は」

「ん」

「そんなズルいところは、私にだけぶつけて貰えると嬉しいです」

「そうするつもりです」


いつも通り、手を繋ごうと手を伸ばした。

そんな中、周囲を一瞥した新菜は、その手ではなく…腕を取る。


「新菜」

「…皆してるし、いいかなって」

「…歩きにくくなければ、どうぞ」

「…どうも」


時期が時期だから。同じように腕を組んで歩いている男女は体感多い気がした。


「ね、成海君」

「んー?」

「義理で配るお菓子、決めなきゃ材料買えないよ?何作る?」

「そうだなぁ…。新菜には良い案がある?」

「そうだね。ばらまくならクッキーにしておきなよ。お菓子言葉もちょうどいいし。私はこれを配る気でいたよ」


「お菓子言葉?」

「ん。成海君は知らない?」

「知らない」

「じゃあ、後で調べて」

「教えてくれないのか?」

「うん。その中で、成海君が「一番これ」だなってお菓子が欲しいかも」

「…試されている?」

「たまには」

「そっか。、とびっきりのものを」

「期待してる」


「祐平達に配るのもそこから選ぼうかな…」

「そうしたらいいよ。じゃ、とりあえず調べるところから始める?」

「そうする」

「じゃ、ステバに行こう!気になる期間限定スイーツ食べておきたくてさ」

「作る前に買うのか?」

「参考だよ。参考。さ、行こ」


買い物前に調べ物から。

腕を組んで歩く先では、どんなものが食べられるのだろうか。楽しみだ。


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