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4: 少し早い帰宅

少し早い時間帯に、家へ戻る。

五時ちょっと過ぎに帰れたのは、久しぶり。

新菜と帰るようになってからは、電車が空く時間まで図書館で過ごしたり、ちょっと遊んだりしていたから。


「あれ、お兄ちゃんだ」

「美海」


リビングに入ると、こたつの中でぬくぬくとしていた美海と遭遇する。

…ランドセルがソファ横に転がっていた。帰ってきてすぐにここへ転がり込んだらしい。

全く。ランドセルも後一ヶ月ちょいしか背負わないんだぞ。

もう少し大事にして貰えないだろうか…。


「今日帰り早かったね。新菜さんは?」

「今日はいいから、早く家に帰れって」

「…新菜さんまでお兄ちゃんとお姉ちゃんの喧嘩のこと気にしてんじゃん」

「…悪いとは、思ってるよ」

「家族にも悪いと思ってよね〜。お父さん、ずっとしょんぼりしてるじゃん」

「…いや、悪いと思ってるって」

「お父さんも私も気まずいからさっさと仲直りしてよ」

「努力はする…けどさ」


どう切り出したものか。

そう言う前に、リビングの扉が開かれる。

どうやら姉さんも外出していたらしい。防寒着を着込んだ彼女は、僕から目を逸らしつつ…それでも絶やさない言葉を告げる


「…ただいま」

「…おかえり」


喧嘩していても、家族として言わなければいけない事だけはちゃんと言い合う。

それを見た美海は、頬をこたつのテーブル部分にもちゃっと載せつつため息を吐くのだ。


「二人揃って律儀だなぁ…」

「…あのさ、成海」

「何」

「…時間、ある?」

「ないわけじゃ、ないけど。晩ご飯…」


逃げるつもりはないけれど、本能で逃げてしまう。

どうしてこうなるのだろうか。

自分の選択を悔やむ横で、姉さんは鞄から財布を取り出し…それを美海の前に叩きつける。


「美海、出前頼めるでしょ。これで頼みなさい」

「御姉様!?諭吉十人いるんですけど!?」

「さっきおろしてきたもの。全部好きに使って良いわ」

「はっ…!?」

「領収書は寄越しなさい」

「あびゃびゃびゃびゃ…おおおおおとうさーん!お姉ちゃんの奢りでお高い寿司注文しよー!」


姉さんの財布を片手に、美海は工房事務所で仕事をしているであろう父さんの元へ駆けて行く。

リビングには僕と姉さんが二人きり。

無言で子達に入るよう促され、僕らはこたつの中に滑り込む。


「…」

「…」


美海が見ていたアニメのキャラがはしゃぐ声だけが部屋に響く。

消す、べきだろうか。

逆にこれがないと、気まずさが増すのだが…話すタイミングを掴めないのもまた事実。

意を決してリモコンを手に取り、テレビの電源を切った。

静寂に包まれる前に、繋げられる言葉を紡いでおく。


「…そこまで」

「…なによ」


意地を張って、僕に隠したい事はなんなんだ。

僕にそこまで硝子細工をやらせたい理由があるんだろう。

喉元まで出かかっていた言葉は肝心な所で喉奥へ引っ込んで、考えてもいなかった言葉で取り繕う。


「そこまでして、僕のご飯が食べたくないか」

「最近太ったから食べたくない」

「出前の方が太るでしょうが…!」

「…栄養の計算毎日して。目の前にいるのは、身体作ってお金稼いでいる人間なんだから…」

「そういうのはもっと早く行ってくれ!今後は善処する!」

「…ふん」

「でも、今更だろ」

「何が?」

「…就職するにあたって、モデルもやめるんだろ」


「やめないわよ。副業は続けるわ」

「ふくぎょうて」

「それに、顔出しする機会は多い方がいいの。私の、夢は…知名度が必要だから」


一瞬だけ、唇をかみ…目を泳がせた後…それを伏せた。

次に開いた時のそれは、まっすぐと先を見据える。

やるべき事も、伝えるべき事も、何もかも…その先をまっすぐと見ていた。

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